地域と共生する空港づくり大綱

平成10年12月16日

運輸省航空局

新東京国際空港公団

[原案と変わっているところは赤で書いておきます。]

1、基本的な考え方

(1)成田空港間題の解決

 成田空港の建設の歴史においては、国と地域との間で、そして、地域の中でも賛成派と反対派との間で対立の構造が深刻化することになったほか、過激派の介入を招いたこともあり、いわゆる成田空港問題が発生しました。

 この成田空港問題については、学識経験者グループである隅谷調査団をはじめ運輸省、公団、反対派農民、関係自治体、民間団体の参加のもと、成田空港問題シンポジウムが平成3年11月から15回にわたって開催され、真撃な議論が行われました。その結果、成田空港問題の原因として国側の一方的な空港づくりの手法に問題があったことが指摘され、国側はこの指摘を重く受け止め、対立構造を根本的に解決することが全ての基本であると認識して、収用裁決申請の取下げなどを行いました。

 引き続いて実施された成田空港問題円卓会議において、空港と地域との共生に関する問題について約1年間12回に及ぶ関係者の真剣な議論の結果、平成6年10月、隅谷調査団の所見が出され、この所見を関係者全員が受け入れました。

 隅谷調査団の所見では、国側が平行滑走路と地上通路を整備することは理解し、その用地の取得はあくまで話し合いによること、横風用滑走路の整備については平行滑走路が完成した時点であらためて地域に提案することとされました。また、後に円卓会議の合意事項として明らかにされた環境対策について、第三者機関たる成田空港地域共生委員会の点検のもとに実施すること、空港反対運動の中から提唱された地球的課題の実験村構想についてその具体化のための検討作業に取り組むことなどが提言されました。

 すべての円卓会議の関係者はこの隅谷調査団の所見を受け入れたことにより、これまでの対立構造の解消が図られ、今後は地域と空港との共生という理念のもとに、国・公団は地元自治体・地域の方々のご協力を得ながら、新しい共生の時代をつくっていくことになりました。シンポジウム・円卓会議の結論において、国は強制的手段を用いないことを約束しましたが、これは国・公団はもちろん反対同盟もまた誠意ある話し合いにより問題を解決するという責務を負ったことを意味するものと受け止めるべきであると考えています。

 この円卓会議の結論を受け、国・公団はこれまでの反省の上に立ち、地域と共生する成田空港の整備をめざして、共生委員会の点検のもとに円卓会議の合意事項の実現に努めるとともに、地権者の方々と誠心誠意話し合いを進めてきました。さらに、平成10年5月には、円卓会議で残された課題であった「地球的課題の実験村」構想具体化検討委員会での検討が終結し、報告書が出されました。そこでは、農業と空港の関係を考える中で、地球環境問題等の現代工業文明が抱える基本的な諸課題の解決に取り組む必要性を認識し、そのための新しい運動を展開していくべきであるとの考え方が示されました。

 そして、これらの動きを受けて、隅谷調査団からは、「成田空港問題は社会的に解決され、今後関係者が進んでいく道筋が理念的にも示されるところとなった」との所見が発表されました。

 国・公団は、これまで示されてきた話し合いによる解決という道筋に従って、平成8年12月に発表した基本的考え方に基づく各種の施策の具体化などに取り組んでまいりました。

 本年7月には、基本的考え方に示した施策の具体化の状況にも触れつつ2000年度を目標とする平行滑走路等の整備を含む「成田空港の整備の全体像と手順」をとりまとめ、地域に提案させていただきました。その後、50を超える関係自治体をはじめ、住民団体等に直接ご説明させていただく機会を得ました。その際に頂戴した数々の貴重なご意見も踏まえ、ここに、これからの具体的指針として、「地域と共生する空港づくり大綱」をとりまとめさせていただきました。

(2)これからの空港建設・運用にあたっての基本的な理念

 これからの空港の建設・運用にあたっては、何と言っても地域と空港との共生の実現を図ることが大切であり、そのためには地域の方々と十分に話し合い、それを通じて地域との信頼関係を築くことが重要です。円卓会議の場で示しましたとおり、空港づくりは地域づくりでもあり、国と地域との共同事業であると考えています。国・公団はこの空港づくりの原点に立ち返り、「地域と共生する空港」の実現に向けて、共生策、空港づくり、地域づくりをいわば三位一体のものとして相互に密接に関連させつつ進めてまいります。

@共生策

 地域と空港との共生という理念は、成田空港がこの地にある限り続く永遠の課題です。そのなかでも、まず円卓会議の合意事項を着実に実施することがすべての基本であると考えます。

 また、単に円卓会議の合意事項を個別に実施するのみならず、地域と空港との共生の理念の実現をめざして、現滑走路からのマイナスの影響を軽減することに万全を尽くすとともに、さらに平行滑走路などの整備に伴い新たにマイナスの影響を受ける地域についても、問題への対応が後追いになることのないよう万全を期してまいります。

 地域の農業振興についても、「地球的課題の実験村」構想具体化検討委員会における3年余りの議論を踏まえ、本年5月に発表したエコ・エアホ一ト基本構想に則して取り組んでまいります。

A空港づくり

 現在、世界は政治・経済・文化的分野のみならず日常的な市民の暮らしの分野においても、深く他の国々と結ぴついています。国際航空・空港はこのような広範な国際的相互依存関係の進展に大きく貢献してきました。我が国の国際的地位にふさわしい外交、文化、経済など広い分野で質の高い国際的な活動を支えていくためには、長期にわたり安定的かつ発展的に国際航空需要に対応できるよう首都圏において拠点的な空港整備が必要になります。

 このため、成田空港については、21世紀を見据え、国内線との連携も念頭におきつつ国際交流の拠点にふさわしい空港となるように、話し合いにより2000年度を目標として平行滑走路を整備するなどの空港づくりを進めていきたいと思います。

 さらに、エコ・エアポート基本構想に則して、環境への負荷や資源・エネルギー消費をできる限り小さくした循環型の空港づくりをめざします。

 また、地球的課題の実験村についても、地域からの実験村運動に対して、国・公団としても協力してまいります。

B地域づくり

 地域と空港との共生を実現していくためには、共生策のほかに空港の持つ可能性や活力を活用して、空港周辺地域の均衡ある発展を促進するための地域振興策が必要であると考えます。

 地域づくりは、千葉県が策定した成田空港周辺地域振興計画などに基づき、地元自治体や地域の方々が中心となって行われるものですが、国・公団も空港づくりは地域づくりであるという基本的な考え方に立って、地元自治体や地域の方々と一体となって取り組んでまいります。

2、地域と共生する空港をめざして

(1)地域との共生の観点を盛り込んだ空港づくり

@共生策の充実(別添1参照)

 円卓会議の合意事項については、例えば平成7年10月から全国の空港に先がけて民家防音工事の再助成を実施するなど全力を挙げそ取り組んできました。しかしながら、平成8年12月に「基本的考え方」を公表した時点では、円卓会議の合意事項18事項(滑走路計画を除く)のうち、きめ細かな住宅防音工事助成や75W(第一種区域)隣接区域対策などの事項については、まだ実現されていませんでした。

 その後、未実施の事項についても、例えば、地方自治体の協力を得て昨年7月に成田方式とも言うべき成田空港周辺地域共生財団が設立され、昨年10月1日からきめ細かな住宅防音工事として実施されるなど、新しい取り組みが行われてきています。

 これからも、共生委員会の点検を受けつつ円卓会議の合意事項を着実に実施するなど様々な施策に取り組んでまいります。本年9月の共生委員会により点検していただいた円卓会議の合意事項の実施状況は、別添1のとおりです。ここで引き続き取組みを要すると指摘された事項については、共生の理念をもって、住民の視点で対応を行います。

 特に、現滑走路の第一種区域と平行滑走路の第一種区域にはさまれた地域については、双方向から多数回の騒音にさらされるということを斟酌し、地方自治体とともに先行的に第一種区域に準じた対策に取り組んでいるところです。今後も、地元自治体と相談しつつ、地域の実態に応じた対策の充実に努めてまいります。

 また、落下物対策については、洋上脚下げ、出発地における整備・保守の徹底について航空会社に重ねて要請している他、給水パイプ:内の残留水の水切りの徹底、汚物パイプ系統の定期点検について航空会社に対し文書による指導を行い、また、航空会社等に対しても構造改善を要請したところでありますが、今後とも対策を徹底してまいります。

 さらに、今後空港づくりを進めるにあたっては、平行滑走路の供用に伴うマイナスの影響をできる限り抑えるため、円卓会議の合意事項も踏まえ、共生策の一環として地域環境の保全に十分配慮した空港施設の整備を行ってまいります。

 例えば、防音堤・防音林の整備を進めるとともに、航空機のエンジン試運転による騒音の対策として、現在稼働中の消音施設に加えて、南風時にも対応できる新たな消音施設の整備を鋭意進めているところです。

 さらに、駐機中の航空機が機内の電力等を確保するために航空機補助動力装置(APU)を使用することによって生じる騒音、大気汚染ガスを低減させるために、地上動力装置(GPU)の整備をさらに進め、その利用を促進することによりAPUの使用を抑制してまいります。

 また、地域と空港との共生という新しい時代を迎え、今後は、豊かな自然に囲まれているこの地域にとって真に開かれ、そして地域と調和した成田空港をつくっていきたいと考えています。

 このため、空港側も空港建設により失われた緑を回復し、より良い自然を作るというミチゲーションの視点に立って、成田空港周辺緑化基本計画を策定し、地域の方々のご意見をうかがい、芝山水辺の里や三里塚さくらの丘などの緑化整備を進めてきたところです。今後とも、地域の方々とご相談しながら、地域と調和した自然環境の保全に努めていきたいと考えています。

 さらに、空港の入場検検問やコンクリート柵は、成田空港と周辺地域とを隔絶しているという印象を与えるものであり、地域と空港の共生という新しい時代にあって、今後見直していくことが必要であると考えています。これらの措置については、現在の成田空港に対する過激派のゲリラ活動を考えると、残念ながら早期には改善できませんが、空港を取り巻く情勢を勘案しながら、できるだけ早く成田空港が地域により開かれたものになるよう関係機関と協議しながら努力していきたいと考えています。

A共生理念の実践体制の整備

 共生の理念を公団の関係組織に十分浸透させ、共生策を強力かつ継続的に実施していくため、平成8年7月に本社を成田空港内に移し、平成9年6月に総裁を本部長とする地域共生推進本部を設置するとともに、さらに、平成10年度からは正式な組織として地域共生部を設置したところです。また、地域相談センターの増設、周辺市町村担当員制度の実施により、組織として共生理念を実践していく体制を整えました。共生に関する研修もさらに充実させていきたいと考えています。

(2)エコ'エアポートの対応

@地球的視野に立った循環型の空港づくり

 循環型の空港づくりをめざしエコ・エアポート基本構想に掲げた施策を順次実施してまいります。例えば、

(a)水循環については、中水利用施設を第2旅客ターミナルビルに加えて平成10年度末までに第1旅客ターミナルビルにも整備して年間約27万トンの中水を再利用します。また、雨水を調整地等で集めて浄化したのち冷却塔補給水等空港内のさらに広い範囲で有効利用することとし、年間約20万トン程度の水をこれにより賄うことを目標とします。

 また、透水性舗装や総延長30kmに及ぶ砕石浸透トレンチを平行滑走路の供用時期までに設置することにより、雨水の地下水への浸透を促進します。

(b)エネルギーと大気質の問題については、大気質の監視・測定、特定フロン対策に加え、中央冷暖房所で平成12年度よりガスタービン型コジェネレーションシステムを供用開始します。また、現在低公害車導入計画を策定中ですが、今後電気自動車やハイブリッド車などの低公害車の導入を進めるとともに、平成10年度より空港内建物等に太陽光発電パネルを設置することによりクリーンな自然エネルギ−の有効活用にも取り組みます。

(C)自然環境については、取香川へ通じる場外放水路における多自然型川づくり(現在コンクリ−トで覆われている川を人が水辺に親しむことができる自然に近い川に再生すること)などに取り組みます。このため、平成10年度に現場試験を実施し、施工方法について検討を進めます。また、空港から流出する水を対象に水質の監視の充実に取り組みます。さらに、公団が所有する山林について下刈りを実施するなど適正に管理するとともに、今後とも空港内外の緑化に積極的に取り組んでまいります。

(d)廃棄物については、今後空港で発生する厨芥のコンポスト化(堆肥化)に向けた取り組みを平成10年度より開始するとともに、刈り草の提供などリサイクルの対象の拡大に積極的に取り組んでまいります。

(e)これらの対策については、公団のみならず航空会社などの空港関連事業者と相互に連携して取り組むこととし、平成10年2月に設置された「エコ・エアポート推進懇談会」を活用し効果的な環境施策の実施を図ります。

 さらに、国際空港評議会(ACI)を通じて各国の空港当局担当者を成田空港に研修に招き、これらの新しい取り組みを紹介するほか、世界の空港の事例を学ぶなど各国の空港当局と連携を深めることによって、国際的視野に立って空港環境問題を解決するために貢献していきたいと考えています。

A空港周辺地域の農業振興への取組み

 エコ・エアポート基本構想に則して、次のように農業の振興に取り組みます。また、そのために自治体や農業関係者と円滑に連携ができるよう関係を密にしてまいります。

(a)地域の方々と話し合いながら、たとえば集団移転の進む地域においても移転されない住民の生活環境や農業環境が悪くならないよう適切な環境整備を行うなど、より地域の意向にあった移転跡地の適正な管理を進めてまいります。特に、未利用の農地については、レンゲ等を植えて地力を増進したり耕転したりするなど、常に農地として利用されやすいような状態にしておくように保全に努めます。今後とも周辺の農家や地元自治体とともによりよき保全のあり方を考えて取り組んでまいります。

(b)千葉県が計画している多機能型農業公園の整備については、都市と農村の交流など地球的課題の実験村の視点が多く含まれていることから、公団用地の活用をはじめとして完成に向けて広く協力をしてまいります。また、移転跡地を自治体による農業者育成プログラムや農家による啓蒙・体験プログラムといった事業に役立てていただければと考えています。

(C)地域農業の振興については、今後も調整窓口を充実するなどして地元自治体や農業関係者などとの意見交換を行うなど一層の協力に努めてまし'ります。

(d)地元自治体・農協などの行う農産物の流通ル−トの確立に対しても騒音用地を活用していただくなど必要な取組みを行ってまいります。

(e)地域の農業に資するよう、農業関係者などと調整を図りながらせん定枝などを肥料化するための施設の整備について検討してまいります。

3、国際交流の拠点にふさわしい空港づくり(別添2,3,4参照)

(1)施設整備計画の目標

 現在、成田空港においては、国際線旅客が年間2500万人、国際航空貨物も年間160万トンにまで達しており、現滑走路はほとんどその処理能力の限界に達しています。そのため、成田空港の整備にあたっては、首都を中心とする大都市圏を控え多岐にわたる国際交流を質的にも量的にも長期にわたって支えられるよう、国際交流拠点にふさわしい空港づくりが必要と.なっています。

 国・公団は、環境にも配慮することにより、成田空港が、世界の航空会社ばかりでなく空港利用者や地域の方々にも心から望まれる空港となることをめざしたいと考えています。

(2)平行滑走路及び地上通路

 平行滑走路(2500m)は、話し合いにより2000年度を目標として整備を進めます。現滑走路(4000m)と組み合わせて使用することにより、国際交流の拠点として成田空港に求められる機能を果たすことが可能となります。

 現在の飛行回数は年間約12万5千回にまで達していますが、円卓会議での合意により、平行滑走路の供用開始時における飛行回数は20万回となっておりますが、騒音対策は、総飛行回数22万回をべ一スとして万全の対策を実施することとしています。

 また、横風用滑走路として計画している部分は、現在の滑走路と平行滑走路をつなぐ地上通路として整備します。

(3)旅客ターミナルビル・エプロン

@国際線旅客ターミナルビル

 成田空港では、2つの旅客ターミナルビルが供用されています。第1旅客ターミナルビルは、建設後20年以上が経過し、施設の老朽化が進み、時代の二一ズにも合わなくなってきているため、全面的に改修を行っています。改修後は、第2旅客タ−ミナルビルと同等以上の旅客サービスレベルが実現することとなると考えています。

 第2旅客ターミナルビルは、新しいターミナルビルであり、高齢者対策なども施され、質の高いサービスができるように、諸施設の充実が図られています。

 改修中の第1旅客ターミナルビルはその将来需要を見込んで計画していますが、第2旅客ターミナルビルについても、今後拡張が必要になるものと思われるため、現在準備を行っているところです。

A国内線旅客ターミナルビル

 将来の国内線の充実にあわせて、国際線搭乗ゲートを国内線と兼用できるようにするなど国内線旅客ターミナルビルの機能の拡充を図ってまいります。

 また、京成電鉄及ぴ芝山鉄道が乗り入れる東成田駅と国内線旅客ターミナルビルを結ぶ連絡通路を設けるとともに、周辺地域などからの車の利用者のために同タ−ミナルビルの前に国内線専用の乗降場を設けることにより、利用者の利便性の向上を図ります。

Bエプロン

 現在、成田空港には同時に112機が駐機できるエプロンがありますが、平行滑走路の供用開始後は不足すると考えられますので、徐々にエプロンを増設し、将来的には、150機前後が駐機できるエプロンを確保したいと考えています。エプロンの整備にあたっては、航空旅客の利便性を考慮して、旅客ターミナルビルから直接航空機に搭乗できるゲートをできるだけ多く確保したいと考えています。

(4)貨物施設

 現在、成田空港の航空貨物の取扱量は世界の空港でもトップクラスの地位を保っていますが、これを取り扱う貨物施設は拡張を重ねてきており、既に、空港敷地内での拡張の余地はほとんど残っていません。

 一方、空港周辺には成田空港での貨物地区の狭隘さを補完するような形で、民間の貨物取扱業者の物流施設が数多く設置されています。今後は、増大する貨物需要に対応するため、既存貨物取扱施設の拡充や老朽化が進む施設の建て替えなどによる能力増強を行います。さらに、貨物地区の隣接地に千葉県が計画している成田国際物流複合基地の早期完成に協力してまいります。

(5)給油施設

 成田空港で使われる航空燃料は、千葉港頭石油ターミナルにタンカーなどで搬入されたあと、パイプラインで空港まで運ばれます。千葉港頭石油ターミナルについては、受入設備の処理能力が限界に近づいているため、需要の動向を勘案しつつ受入設備の拡充を図ります。空港内には、パイプライン等のシステムが万一停止しても7日間程度は航空機に給油できるように備蓄タンクを整備することとしています。そこで、今後の需要増加に対応するため、平行滑走路の北側隣接地に備蓄タンクの増設を計画しています。

(6)その他空港隣接地における関連施設

 空港周辺には公団が騒音用地などとして取得して所有している土地があり、その一部は農地などとして活用していただいていますが、残る土地は空地として管理しています。このため、これらの土地を活用して消防訓練施設などの空港機能を補完する施設を配置していきます。

(7)横風用滑走路

 横風用滑走路の整備については、円卓会議で合意したとおり、平行滑走路が完成した時点であらためて地域に提案し、その賛意を得て進めてまいります。

(8)平行滑走路の供用に備えた環境影響の把握等

 平行滑走路等を整備することは、騒音のみならず大気質、水循環への影響、緑の減少、電波障害など環境に様々な影響を与えます。従って、公団では今回の平行滑走路等の整備にあたって、学識経験者で構成される地域環境委員会のご指導を得て、「環境とりまとめ」を作成しました。それは、空港の供用と空港の建設工事に伴う騒音、大気質、水質、自然環境など様々な環境側面について、今後講じる環境対策とあわせて現状と将来における環境影響の程度を体系的に把握したものです。

 それによれば、まず、航空機騒音について、現滑走路においては、平行滑走路が整備されることにより飛行回数が減少することに加えて低騒音型の機材の利用が進むと考えられることから騒音レベルが低減されると推察されます。平行滑走路においても、75WECPNLの騒音が及ぶ範囲が、騒音対策を実施している騒防法第一種区域を超えないと予測しています。

 大気質についても、航空機の飛行回数の増加により硫黄酸化物や浮遊粒子状物質等の発生量は増加しますが、基本的には空港関連以外の発生源による影響が大きい浮遊粒子状物質を除いて大気汚染の環境基準内に収まると予測しています。しかしながら、大気質に及ぼす影響を監視するため常時監視観測点を増設するほか、大気汚染物質の排出を抑制するためにGPUの利用を促進することにより、APUの使用を抑制するなどの取組みを進めてまいります。

 水質については、下水排水は空港専用下水道で処理しているほか、雨水排水についても、開港以来第2旅客タ−ミナルビル地区の供用や飛行回数の増加にもかかわらずこれまでの測定結果でほとんど変化が見られないことから、平行滑走路供用により飛行回数が増加しても水質が大きく変化する可能性は少ないと考えています。しかしながら、下流河川に大きな影響を及ぼすことのないよう、さらに水質の監視の充実に取り組みます。

 また、自然環境について、植生の変化を定量的に予測することは困難ですが、今後の空港整備によって自然の緑の面積が約0.3kF減少すると見込まれます。空港建設で多くの緑が失われたことからこれまでも成田空港周辺緑化基本計画を推進してきているところであり、今後とも豊かな緑の回復をめざします。

 空港建設工事に伴う騒音や水質への影響等についても周辺地域の環境に大きな影響を与えないよう、施工方法等を検討し実施してまいります。この「環境とりまとめ」の作成にあたっては、これまでに地域の皆様からお寄せいただいたご意見、ご提案をできる限り反映させていただきましたが、さらに今後、平行滑走路の整備に向けて、空港周辺の環境の声に耳を澄まし、皆様からのご意見、ご提案を反映させながら環境対策を実施してまいりたいと考えています。

 なお、「環境とりまとめ」の具体的な内容については、空港情報センターや各情報コーナーにおいてご覧いただくことかできます。

(9)平行滑走路供用開始後の標準飛行コース

 平行滑走路が完成した場合の標準的な飛行コースについては、別添4の図に示すとおりとさせていただきたいと考えております。

 これらの飛行コースは、安全かつ円滑な航空機の運航を確保するとともに、地域に与える影響を極力小さくするとの考え方に基づき設定したものです。具体的には、現在既に設定されている飛行コースを引き続き使用するほか、平行滑走路に係るコースの設定については、隣接する羽田空港等の空域に影響を及ぼさない範囲で、現行の飛行コースを基本として設定しました。また、航空機数の増加、特に到着する航空機の増加に伴い、安全確保等のために別添4の図に示すように面的な飛行を指示する場合があります。離着陸時に際し九十九星から利根川までの間は直進上昇・降下とするなど、これまでの地域との約束事項を引き続き遵守してまいります。

 なお、平行滑走路の供用に伴い必要となる騒音対策、電波障害対策については、これまでにも地域の要望を踏まえて順次実施してきているところですが、これらの対策が後追いとならないよう、今後とも万全を期してまいります。

4、地域づくり

(1)計画的な地域づくりをめざして

@空港周辺地域における計画的な公共施設の整備

 千葉県が策定した、地域づくりの基本となる成田空港周辺地域振興計画に基づく計画的な公共施設等の整備に対し、協力をしてまいります。

 成田財特法に基づく空港周辺地域整備計画で整備することとしている公共施設などの整備については、国からの補助がより手厚くなっているところですが、同法は今年度で期限切れとなるため、同法の延長に向けて最大限の努力をします。

A騒音区域における計画的な地域づくり

 千葉県は、騒音区域の計画的な地域づくりを進めるため既に騒特法に基づく航空機騒音対策基本方針の改定作業に着手し、平成10年度のできるだけ早い時期にその成案を得た後、都市計画決定手続きに入る方針と聞いています。国・公団としては、都市計画の早期設定に向けて地域の意向が十分反映されるよう、全面的に協力してまいります。

 また、改定後の航空機騒音対策基本方針に沿って土地利用、施設整備が進められるよう、騒音用地の貸付などに取り組んでまいります。

 さらに、騒音区域からの移転にあたって集団移転が行われる場合には、地元関係者の意向・計画を十分に踏まえ、移転先代替地の選定・整備を進めてまいります。

(2)交通網の整備

@芝山鉄道

 地域整備の核となる芝山鉄道(東成田駅-整備場前駅(仮称)間)については、地域の要望を踏まえ旅客の利便向上に資するため、京成電鉄との相互乗り入れにより都心と直結するよう既に計画が変更されています。また、本年1月から関係者の協力のもと工事が進められているところです。

 国・公団としましても、平成8年12月にお示ししました「今後の成田空港と地域との共生、空港整備、地域整備に関する基本的な考え方」に基づき一日も早い完成に向けて取り組んでまいります。

 また、芝山鉄道の経営が安定し、地域の足としての機能を果たすことができるように、地方自治体や地域の空港関連企業とともに需要の拡大に努めてまいりたいと考えています。

 さらに、芝山鉄道の芝山町中心部までの延伸については、空港南側地域の振興のための重要な拠点施設であることから、大量輸送機関としての鉄道特性を発揮できるよう空港関連施設の立地、住宅団地の整備など鉄道整備に呼応した地域振興が進められることが必要です。そのため沿線地方自治体をはじめとする関係機関とともに延伸ル−ト、経営安定方策を検討しつつ、需要の動向の観点から空港整備の進展にあわせ着実に実施してまいります。

A都心との空港アクセス鉄道整備

 成田空港と羽田空港を結ぶ鉄道アクセスについては、本年11月から関係鉄道事業者により直通運転が行われていますが、これに加えて、平成9年度から直通アクセス調査を千葉県等関係者とともに実施しています。いわゆるB案ルートについても、この調査の中で実現方策を検討したいと考えています。

B平行滑走路等の整備に伴う道路整備(別添5参照)

 空港周辺地域の均衡ある発展を図るため、千葉県等関係自治体では空港を中心とする道路の整備に努めていますが、国・公団としては、平行滑走路予定地及び横風滑走路地区の地上通路予定地と平面交差している道路の地下道化、空港へのアクセス道路機能の強化、あるいは空港の活動により生ずる周辺道路の渋滞の緩和などについて次の対策に取り組んでまいります。

(a)空港の北側を東西に横切る県道成田小見川鹿島港線は、現在平行滑走路予定地と平面交差しているため、平行滑走路の完成と時期を合わせて地下道化を図ります。地下道化にあたっては、将来の空港機能の拡大に伴う需要増を見込み小見川県道4車線化に対応してまいります

(b)空港の真中を南北に抜け、芝出方面と成田方面を接続する一般通過道路については、現在、地上通路予定地と平面交差していますが、これを地下道化するとともに、空港への出入交通と分離することによって交通の流れを円滑にし、一般通過道路としての機能を充実させます。

(C)空港南側の芝出方面からの出入口を整備し、ターミナル地区や貨物地区に直接行けるようにします。

Cその他空港隣接・周辺地域における道路交通対策

 空港東側地域を中心として、周辺地域の活性化にとって大きなインパクトをもたらすこととなる首都圏中央連絡自動車道は、道路による空港アクセス機能の向上にも資するものであり、空港隣接地域におけるインターチェンジの設置を含め、その整備が促進されるよう関係機関に対して要請してまいります。

 周辺地域の道路整備にあたっては、平行滑走路南側の道路整備(県道成田松尾線の延伸)と芝山鉄道駅に結ばれる道路整備が連携のとれた形で進められるように取り組んでまいります。

 また、渋滞対策としては、空港隣接地域における道路交通の円滑化を図るため、空港南側千代田交差点及ぴ空港北側入口付近の諸対策について、関係機関などの指導を得つつ対応していくほか、三里塚交差点の慢性的な渋滞を解消するために成田市が実施している成田市道南三里塚駒井野線整備事業に対応してまいります。

 さらに、今年3月に開通した付替296号が開通するまでの間この代替道路として使用されていた空港南側の外周道路については、今後とも三里塚地区と空港を結ぶ地元の生活道路として存続させてまいります。

(3)国内線の充実

 国際空港として国内線との乗継ぎ利便の向上や空港周辺地域をはじめとした東関東地域の人々の国内移動の利便に供するため、平行滑走路供用開始後の航空需要の動向や地域の要望を踏まえながら、順次国内線の充実を図りたいと考えています。

(4)その他の地域振興

@観光振興

 成田空港の周辺地域には、空港や航空博物館ばかりでなく成田山新勝寺、芝山仁王尊をはじめとした歴史的遺産や北総台地から九十九星海岸に至る豊かな自然が残されており、東関東地域の観光資源と連携して観光の振興を図ることが地域振興を進める上で有効と考えています。

 我が国の表玄関である成田空港を地域の観光資源のPRの場として活用したり、各種イベントの開催への協力を行うことにより、地方自治体、観光関係団体等により行われる観光振興方策にも公団としても取り組み、また、空港関係の国際会議を誘致するなど観光振興に貢献したいと考えています。

A成田空港の機能の活用等

 「空港づくりは地域づくり」という視点に立って、成田空港のもつ潜在的価値を活用し、地域社会に積極的に貢献したいと考えています。

 すでに、空港周辺のきめ細かな局地天気予報を地域に提供していますが、今後も、様々なかたちで地域に貢献していけるよう知恵を絞ってまいりたいと考えています。

 その他、多機能型物流センタ−など空港周辺地域の均衡ある発展に向けて地域整備が図られる場合にもこれに取り組んでいきたいと考えています。

(5)地域づくりのための施策の促進

 空港の持つ可能性や活力を活用して空港周辺地域の均衡ある発展を促進する観点から、交通網や農業振興をはじめ各地域から提案された地域づくりの施策については、できる限り目に見えた形で早期に具体化することが肝要だと考えています。このため、関係地方自治体等と継続的に連絡協議を行い、連携を一層密にして、その計画の熟度や空港との関連性を踏まえつつ地域づくりを着実に進めてまいります。

5.おわりに

 以上述べましたとおり、国・公団といたしましては、地元自治体や共生委員会はもとより地域の方々の声を十分間き、共生策を推進するとともに地域づくりに取り組むことにより、地域の理解を得ながら、地球環境の保全にも十分配慮しつつ空港づくりを進めてまいります。

 また、空港づくりを進めていくにあたりましては、地権者の方々と誠心誠意話し合わせていただき、ご理解とご協力を得られるよう努力してまいります。一坪共有地につきましては、共有者の方々のご理解をお願いするとともに関係の方々のご協力を得て解決を図っていきたいと考えています。

 そして、すでに運用している施設の機能向上等のための工事を引き続き進めていくほか、平行滑走路の整備については、円卓会議の結論を踏まえ、関係地方自治体をはじめとする地元関係者と十分な話し合いを行い、その理解を得て工事を行い、2000年度に完成することを目標として進めてまいります。


[以下は共生大綱を発表するにあたっての空港公団の解説です。]

平成10年12月16

運輸省航空局新東京国際空港課NAA広報室

地域の意見を伺い、「地域と共生する空港づくり大綱」を新たにとりまとめました。

「地域と共生する空港づくり大綱」(以下「共生大綱」という。)につきましては、去る7月15日に地域に提案させていただき、「空港だより」の臨時特集号で周辺地域の皆様にもお知らせしてまいりました。共生大綱の提案後、7月17日の18市町村長への説明会をはじめとして、約5ヶ月にわたり、運輸省・NAAより50を超える関係市村当局や市町村議会へのご説明、さらには住民団体等の皆様にも直接ご説明をさせてただきました。具体的には、61回の説明会を開催させていただき、その他に陳情や文書によるやりとり等を加えますと延べ100回を超える意見交換をさせていただいたころです。

 説明会の際には、議会をはじめ地域の皆様から数々の貴重なご意見を頂戴してまいました。共生策や地域づくりについては、運輸省・NAAもこの地域に空港ができてよかったと言って頂けるように取り組んでいるつもりでしたが、住民の視点から見れば、地域にとって何が必要か、何が望ましいかを再認識させられるご意見が多く、共生の理念をあらためて心に刻んだ次第です。また、空港づくりについては、平行滑走路等の2000年度完成目標を着実に具体化すべしと、各々の置かれた立場を超えて、運輸省・NAAに叱咤激励を頂きました。これらのご意見は共生大綱に反映させていただき、今般、新たに共生大綱をとりまとめたところです。(主な修正点は別紙のとおり)

 今後、運輸省・NAAは、この新しい共生大綱に基づいて、平行滑走路等の2000年度完成目標の達成に向けて一層の努力をしてまいりますので、引き続き地域の皆様のご理解とご協力をお願いします。

1.空港づくりは地域づくりとの原点に立ち返り取り組みます。

 地域と空港との共生の実現を図るためには、地域の方々と十分に話し合い、信頼関係を築くことが重要です。円卓会議でも示しました空港づくりは地域づくり、国と地域との共同事業との考え方で臨んでいるつもりでしたが、今回の地域の方々への説明会の場等を通じ、まだまだ地域の方々には運輸省・NAAは十分な信頼を頂いていないと思い至った次第です。このため、あらためて運輸省・NAAの基本的姿勢を再度示し、積極的に取り組むことを約束させて頂きます。

2.共生委員会の点検により、引き続き取り組みを要すると指摘された円卓会議の合意事項は、住民の視点で対応を行います。

 円卓会議の合意事項の実施状況については、本年9月の共生委員会の点検により、高く評価して頂いたものもありますが、防音サッシに関する助成制度の見直し等住民の立場から引き続き取り組みを要すると指摘されたものもまだ残っています。これについては、共生の理念をもって対応を行います。

3.いわゆる谷間対策について地域の実情に応じた対策の充実に努めます。

 いわゆる谷間地域については、双方向から多数回の騒音にさらされるということを斟酌し、地元自治体とともに先行的に騒音対策に取り組んでいます。しかしながら、地元説明会で谷間対策への不安を呈するご意見をいただきました。何をなすべきか今後も地元自治体と相談しつつ、地域の実態に応じた対策の充実に努めます。

4.芝山鉄道は一目も早い完成に向けて取り組みます。

 芝山鉄道は、本年1月に着工し、着実に整備を進めてきておりますが、地元説明会で共生大綱の表現では姿勢が後退したとの批判を何度も受けました。運輸省・NAAしては率直に申し上げて意外でしたが、お話を伺い、運輸省・NAAの取り組みの基本姿勢の問題であると思い至った次第です。このため、芝山鉄道も空港づくりは地域づくりの原点に立ち返り、平成8年12月の基本的考え方に基づいて一日も早い完成に向け取り組むことをあらためて約束させていただきます。

5.交通網の整備や農業振興等地域づくりの提案が寄せられました。これらの地域づくりを着実に進めていくため、関係自治体等と継続的に連絡協議を行い、連携を一層密にして取り組んでいきます。

 地元説明会において、地域から様々な施策の提案が出されています。また、成田市から農業振興策等を核とした地域づくりに関する共生大綱が明らかにされました。これらの提案を踏まえ、地域づくりを着実に進めていくために関係自治体等と地域の実態に即した個々の施策について継続的に連絡協議を行い、連携を一層密にして取り組んでいきます。

(参考)説明会の実施状況

千葉県下  自治体・議会37回、住民団体等14回

茨城県下  自治体・議会8回、 住民団体等2回

※住民団体等とは、成田空港騒音対策地域連絡協議会、菱田の明日を考える会、芝山町区長会、成田空港対策協議会等を意味しています。なお、成田空港地域共生委員会にもご説明をさせていただきました。