航空機騒音の環境基準答申に関する公開質問書と回答

(環境省の回答は9月20日付けで送られた来ました。回答は茶色で書きました。)


環境大臣 若林 正俊 様

平成19年7月19日

公開質問書

成田空港から郷土とくらしを守る会
会長 木内 昭博

 日頃から環境を守るため努力しておられることに敬意を表します。
 私たち成田空港から郷土とくらしを守る会は空港建設がこの地に決定したときより41年にわたり、
周辺住民の生活と権利を守るために活動してきました。
 今年3月1日付けで貴職が中央環境審議会に諮問された「航空機騒音に係る環境基準の改正について」の
答申が去る6月27日になされたと聞いており、その内容が公表されております。
 私たち、成田空港周辺の住民は朝の6時から夜の11時まで間断なき航空機の騒音にさらされており、
心身への多大な影響を受けております。
 この答申内容は私たち住民から見て決して十分なものとは言えません。
  そこで、答申の審議過程、内容、今後の対策についての質問を別紙に記述いたしましたので、
8月20日までに文書にて回答いただけるようお願いいたします。
 なお、この質問、および、貴職の回答は本会のホームページ「成田空港サーバー」にて公開いたしますので、
ご承知おきください。


 別紙

1 環境基準の全面改定はいつ行うのですか?

 地方自治体と住民は、33年ぶりの環境基準全面改定に期待していました。千葉県は「環境基準の見直しについても検討されるべきである」旨の意見を提出しています(平成17年6月22日、航空機騒音に関する評価方法検討委員会への意見)。
 本件検討は5年に及ぶ長期間行われました。にもかかわらず、諮問及び答申と報告は、評価単位の変更に限定され、基準全般の見直しは全く言及されていません。5年の間、全般的見直しが出来なかった事情、あるいは検討しない理由について、説明と見解を示して下さい。

質問1-1 諮問内容が「基準全般の見直し」にならなかった理由を説明して下さい。
回答「今回は、騒音の測定技術が向上したこと、国際的に等価騒音レベルを基本とした評価指標が採用されていることを踏まえ評価指標の見直しを行うものとして諮問したものです。」

質問1-2 今回の改定に際し、全面改定の必要性を検討しましたか? 
回答「基準値等全般の改正については、今後の課題とさせていただいております。」

質問1-3 次の全面改定はいつ行う方針ですか?
回答「必要な情報を収集し、科学的判断を加えた上で、必要に応じ改定することとしています。」

2 「常に科学的な判断」が必要でしょう?

 環境省は環境基準について「常に判断」を加え「改定」を行う責務があります(環境基本法第16条)。
 一般環境の「騒音に係る環境基準」が中央値から等価騒音レベルLeqに変換された
1998年の専門委員会報告は「基準設定から25年経過し、集積された新たな科学的知見について検討する」と記載し、基準値を見直し達成方針も示しました。なお、騒音評価手法等専門委員長は当時も今回も同じ橘秀樹氏です。
 航空機騒音に関する科学的知見も数多く集積されています。たとえば、世界保健機関(WHO)が700件を超える資料に基づいて作成したガイドライン、神奈川県調査の「厚木基地周辺生活環境調査報告書」、沖縄県調査の「航空機騒音による健康への影響に関する調査報告書」等々です。

質問2-1 一般環境騒音で実施した科学的知見の判断を、航空機騒音ではなぜ行わなかったのですか?
回答「今回は、騒音の測定技術が向上したこと、国際的に等価騒音レベルを基本とした評価指標が採用されていることを踏まえ評価指標の見直しを行うものとして諮問したものです。」

質問2-2 今後、蓄積された資料を、いつまでに、どのように検討する方針ですか?
回答「環境省における調査や国内外の知見等の蓄積の状況に応じて検討する予定です。」

3 非公開理由の「防衛施設データ」とは何ですか?

 専門委員会は非公開でした。理由を問う意見に対し貴省は「防衛施設のデータ等非公表の情報を検討のため」と考え方を記述しています。
 国の会議は、原則国民に公開されます。中央環境審議会の運営方針は、非公開を「審議に支障のおそれ又は特定者に利益不利益を生じるおそれのある場合」に限っています。上記理由だけで、傍聴を許さず会議録も発表しないと、かえって「防衛省や航空会社等の利益に尽くした」と疑念をもたれます。
 開催日程も伏せましたが、公的会議は日程を報知し(非公開)と断るのが通例です。今回、パブリックコメントが第17回専門委員会報告案から始まることを予告しながら、肝心の委員会開催日が伏せられ困惑しました。

質問3-1 「防衛施設のデータ」とは、概略どのような内容のものですか?
回答「専門委員会で使用した資料は、航空機騒音に係る環境基準の改正について広く議論が行えるよう、環境省として非公開を前提に関係省庁から資料提供を受けたものであり、その一部に防衛施設データとして、自衛隊等が使用している飛行場等に係る騒音データを含んでいます。」

質問3-2 委員に提示しても国民には提示できない国防機密事項ですか?
回答「専門委員会で使用した資料は、航空機騒音に係る環境基準の改正について広く議論が行えるよう、環境省として非公開を前提に関係省庁から資料提供を受けたものです。」

質問3-3 委員は、検討した「防衛施設のデータ」について守秘義務がありますか?
回答「専門委員会で使用した資料は、航空機騒音に係る環境基準の改正について広く議論が行えるよう、環境省として非公開を前提に関係省庁から資料提供を受けたものであり、委員限りとなっています。」

質問3-4 今後、会議を非公開とする場合、その理由を付して開催日時は公表するように改善できませんか?
回答「今後、検討させていただきます。」

4 「部会長と委員長兼任は禁止」が原則です

 中央環境審議会の運営方針は「部会長と専門委員長の兼任を原則禁止」しています。兼任禁止の方針は、両組織がそれぞれに自由に討議可能とする措置であると考えられます。
 ところが、現在、橘秀樹氏は騒音振動部会長であり騒音評価手法等専門委員長も兼任しています。この点について「専門委員会の運営に疑問を生じかねない」と理由の開示を求めたところ、環境省は「調査で中心的役割を果たしてきている等、当該内容に精通しているから」と釈明しました。しかし、次項以下に指摘するように部会と専門委員会は、民意を反映せず技術ミスも発生させています。

質問4-1 上記の釈明理由だけでは疑問が払拭できません。他に理由がありますか?
回答「パブリックコメントの際に回答したとおり、騒音評価手法に関し精通しており、騒音評価手法等専門委員会委員長に適任であることから、委員長に選任されました。」

質問4-2 兼任はいつまで続けるのですか?
回答「中央環境審議会の委員の任期は、二年とし、再任されることを妨げないこととされています。」

5 部会・委員会の資料は、なぜ不一致?

 橘秀樹氏の采配のもとで専門家の方々が討議されたはずです。しかし、「諸外国の評価指標」の内容が、3月の部会、3月の専門委員会、5月の専門委員会それぞれ食違っています。「諸外国の評価指標」は、今回の部会及び専門委員会が改定の根幹とした課題の裏付け資料でしょう。その内容について、意見書で次の指摘をしました。
 「部会参考資料を専門委員会資料と比べると、14か国中一致しない国が4、一部不一致の国が4。また報告案別添資料(注:5月資料)は『Laeqを採用している国はない』と記述していますが、部会と専門委員会資料には該当国が記載されています」・・と。
 指摘を受けた環境省は後日「出典が違う」「報告案(5月)が正式」と釈明しました。このことは、少なくとも3月の部会は、違った資料で検討したことになります。また、意見を求めた国民に違った情報を提供してきたことになります。「出典が違う」で済まない重要なミスです。

質問5-1 内容に精通している専門家組織で、なぜ資料が異なったのですか?
回答「表現の適切化を図り、最終的に国際騒音制御工学会で使用されている資料を使用しました。」

質問5-2 第16回、第17回専門委員会で「資料が違う」とする議論がありましたか?
回答「第16回、第17回専門委員会において、資料が違うという議論はありませんでした。」

質問5-3 6月の第5回部会で「資料が違っていた」とする議論はありましたか?
回答「第5回部会においては、特段議論はありませんでした。」

6 部会・委員会は、民意をどう反映しましたか?

 専門委員会報告案についてパブリックコメントが実施され、75件の意見が提出されました。その結果、用語「測定方法」の間違いが「算定方法」に修正されましたが、採用された意見はこの1件のみです。
 報告案の目次が、各項2字から33文字と不揃いであると意見したところ、環境省は「ご意見ありがとうございます。事務局にお任せ下さい」と答えました。しかし、何一つ修正しません。
 中央環境審議会の運営方針は「一般の意見をよく聴き審議に反映させる」と定めています。しかし、環境省の見解「意見に対する考え方」は、基準値の見直しは「今後の課題」と先送りし、夜間の騒音Lmax等の併用は「Ldenが世界の主流」とそらし、訴訟の動向等は「達成率70〜75%」の記述で表現しているとして採用しませんでした。徹頭徹尾《評価単位の変更だけ》に矮小化し、パブリックコメントは形式だけの印象です。

質問6-1 意見書の内容は、第17回専門委員会では会議時間が少なく事務局が資料を提示あるいは概要を説明しただけですか? 議論がありましたか?
回答「第17回においては、事務局からパブリックコメントについて資料を説明し、専門委員会としての回答に関する議論がなされました。」

質問6-2 意見書の内容のうち、報告に反映させた点は何ですか?
回答「検討の結果、御意見を踏まえ2ページ23行目の「測定方法」を「算定方法」に変更致しました。」

質問6-3 事務局は、目次の不揃いについてどう検討されたのか回答して下さい。
回答「報告書の各項目のタイトルについては、その内容に応じて、適切な表現を検討致しました。」

7 公平かつ客観的な視点が欠けていませんか?

 専門委員会報告は、国の対策努力を8行も詳述する一方、被害住民が苦しむ状況は一言も書いていません。そこで「国の機関報告だから公平かつ客観的」に「住民の状況や訴訟の動向等を書き加えて下さい。」と意見書を提出しました。
 この指摘に対し環境省は「環境の状況は、『環境基準の達成率が70〜75%にとどまっている』ことを記載することにより表現しています。」と考え方を述べただけです。
 そもそも騒音対策も環境基準も、騒音被害が存在するから必要となるのでしょう。前提である住民側の被害状況について叙述しなければ、環境省は加害者側に加担しているとみなされます。
 航空機騒音下の状況は、騒音訴訟が大阪、福岡、横田、厚木、嘉手納、小松、普天間等と続き、判決で「設置管理上の違法性」が指摘されるほど深刻です。第5回部会で「訴訟の判決の現状」について意見発言もありました。
 また、社会調査の必要性や基準値引き下げ要望等が、多くの地方自治体から国に提出されています。たとえば、千葉県は「住民反応の調査、体感に則した評価、適正な基準値設定」を要望しています(平成16年7月26日)。
 環境省と中央環境審議会が“公平かつ客観的な検討と記述を行うよう”求め、質問します。

質問7-1 「達成率70〜75%」の表現だけで、騒音下の住民の苦悩を示せましたか?
回答「達成率が十分でないことにより、さらなる対策が必要であると認識しています。」

質問7-2 国の対策努力8行と比べ、“達成率1行”の抽象表現は公平ですか?
回答「一概に行数で比較できる内容ではないと考えます。」

質問7-3 地方自治体の要望があることを、なぜ報告に記載しないのですか?
回答「今回の改正は評価指標の見直しを行うものであり、報告に記す内容となりました。」

質問7-4 「背景」の客観的事実として「訴訟の存在」を、なぜ記載しないのですか?
回答「今回の改正は評価指標の見直しを行うものであり、報告に記す内容となりました。」

8 機数評価の疑問に答えて下さい

 Lden は逆転評価の解消等WECPNLより少しだけ優れています。しかし、騒音下の住民は、WECPNLでもLdenでも、機数が2倍で評価値が3しか増えない点に強い不満と疑問を持っています。
 聴感は、騒音レベルの差が3デシベルより小さいと大小が識別できません。例えばピークレベルが平均80dB(A) 100機と77dB(A)200機を比べると、1機ごとの騒音はほとんど同じ程度に聞こえます。しかし、機数が倍になることは実感できるので、住民は「うるさくなった」と感じますが、評価値はWECPNLでもLdenでも同じ値です。
 騒音を物理的量として扱う場合、回数の対数係数は10(Log N)とする算式が多く用いられていますが、15、20とする使用例もあり、33とする理屈もあります。
 そもそも騒音のエネルギー平均値である等価騒音レベルが、航空機騒音の体感を評価する最善の評価指標であるか否かは、科学的な検証が必要ではないでしょうか。

質問8-1 機数評価の疑問に対し見解を伺います。
回答「国際的な評価の方法に基づく評価指標を検討したものです。」

質問8-2 専門委員会で、回数の対数係数について議論は無かったのですか?
回答「特段の議論はありませんでした。」

9 Lmax等併用を、なぜ検討もしないのですか?

 航空機騒音はピークレベルが高いため、睡眠障害や会話妨害をもたらします。意見書で「等価騒音レベル(Lden)に最高音(Lamax)や夜間指標(Lnight) を併用する手法が14か国中の半数ある(第4回部会資料)」と指摘し検討を求めました。この要望に対し環境省は「LnightやLmaxの併用が一部の国で採用されていることは承知していますが、Ldenが世界の主流」と述べて併用法を切り捨てました。半数の国が採用しているものを「一部の国で採用」と言うのは詭弁です。イギリス・イタリアなど主要7国が採用しているのですから、Lden とともに採否の検討はすべきではないでしょうか。

質問9-1 内容に精通された橘部会長が目を通される資料ですから、第4回部会資料の内容に間違いはないはずですね?
回答「資料の編集には最善の努力をしています。」

質問9-2 第4回部会で、併用法は議論されましたか? それとも検討の必要なしという見解ですか? 説明して下さい。
回答「第4回部会では、併用については特段議論されませんでした。」

質問9-3 その後、専門委員会報告案は併用部分を切り捨てた表を掲載しました。部会資料を改編したいきさつと理由を説明して下さい。
回答「今回の改正は評価指標の見直しを行うものであり、WECPNLの代替となる指標である等価騒音レベルを基本とした3指標を表記することとしました。」

10 専門家の意見も検討しないのですか?

 航空機騒音に関する著名な専門家三氏の見解も意見書で指摘しました。再掲し質問します。
 五十嵐寿一氏(現行基準作成時の専門委員)は「機数が少ない場合はLmax の限度を設定しLdn の不備を補うこと、夜間規制を行う等」を勧め「単一指数を期待することは不可能に近い」と述べています。
 山本剛夫氏(現行基準作成時の専門委員)は「研究者の間では、航空機騒音のような単発的な騒音の影響を評価する際には、最大騒音レベルなどの指標の方が望ましいと考えられるようになっており、WHOが示した環境騒音のガイドラインにもLAmaxやLAEをLAeqと併用するべきであると明記されている。」と指摘しています。
 橘秀樹氏は平成13年の第1回騒音振動部会で「LAeqは長い時間の評価量で、瞬間的な音の評価に使えない。環境省で審議を進めていただければと思います」と発言されています。
 LAeqもLdn、Ldenも類似した等価騒音レベルです。橘秀樹氏は現在部会長兼専門委員長として、単発騒音評価の審議を推進できる立場になられました。しかし、諮問、答申、報告から単発騒音評価は切り捨てられています。

質問10-1 審議対象を「評価指標」に限定するとしても、専門家三氏は等価騒音レベル指標そのものの不備を指摘しています。なぜ検討もしないのですか?
質問10-2 部会長兼専門委員長にもなられた橘氏の主張が少しも反映されない状況は、いかなる事情があるのか説明して下さい。
上記2項目まとめての回答「今回は、騒音の測定技術が向上したこと、国際的に等価騒音レベルを基本とした評価指標が採用されていることを踏まえ評価指標の見直しを行うものとして諮問したものです。」


11 Lden単独で、安眠を保障できますか?

 航空機騒音による睡眠障害は深刻な問題です。千葉県蓮沼村議会(現山武市)は国宛の意見書で「一時の高騒音であっても、乳幼児、病人等の安眠安静を阻害するならば、最高音こそ重要」と指摘しています。
 世界保健機関(WHO)は「寝室の最高音(Lmax)45dB(A) 以下」を推奨しているので、日本家屋の遮音量15dB(A)前後(下記注参照)を加えると適切な屋外基準値が求められます。
 今回のパブリックコメントの意見に対し環境省は「睡眠影響等、現在調査中で、その結果により必要な対応をとる」と述べました。また、環境省は本会との交渉(平成17年10月14日)の席上「睡眠中の単発騒音は数が少なくても大きな影響があることは確かで、どうするか検討中」と回答しています。
 (注:平成10年の騒音評価手法等専門委員会は、家屋の遮音量を平均23.8 dB(A)として基準値を検討しました。当時の委員長も橘秀樹氏です。しかし、空港周辺の住宅防音計画量が20または25dB(A)以上であることは、遮音量の低い住宅が多数実在することを示唆しています。)

質問11-1 環境省が実施している睡眠影響等の調査概要と終了の目途を説明して下さい。
回答「これまで、アノイアンスと睡眠影響に関し、文献調査、アンケート調査、騒音暴露実験等を行ってきました。今後は、これらの調査から得られた知見と課題を踏まえ、さらに検討することとしています。」

質問11-2 環境省も認める睡眠影響を、等価騒音レベルLden単独で防げるでしょうか?
回答「睡眠影響と航空機騒音の関係も含め、今後も検討していきます。」

質問11-3 防音補償を前提としない場合、環境基準は遮音量が平均以下の住環境を対象に考慮すべきではないでしょうか。見解を伺います。
回答「現行の航空機騒音に係る環境基準は、家屋内における航空機騒音の被害感に関する調査資料をもとに設定したものです。」

12 最高音の公表方針を示して下さい

 Ldenの採用に伴い、測定単位がピークレベル(Lmax)から単発騒音暴露レベル(LAE)に変更されます。この切替えに伴い、単純明解な最高音(Lmax)や騒音機数が公表されなくなる恐れがあります。そこで「1日ごとのピークレベルのパワー平均値と最大値を公表すること」を国の方針として示すよう意見を提出しました。この要望に対し環境省は「測定方法や結果の公表については、今後環境省において検討する」と考え方を述べています。
 測定や公表は、地方自治体の責務に係わることでもありますが、ピークレベル(Lmax)は、住民に理解しやすく、また社会調査にも必要であり、さらに最高音規制に必要な要素です。

質問12-1 「ピークレベル(Lmax)公表が望ましい」と方針を示していただけますか?
回答「測定結果の公表のあり方につきましては、今後、航空機騒音測定監視マニュアル(仮称)の作成に際し、あわせて検討してまいります。」

13 小規模飛行場、環境省が轟音を公認・・?

 「小規模飛行場環境暫定指針」を新しい「航空機騒音に係る環境基準」に統一することは、指針値3減の改善です。しかし、ピークレベルは90dB(A) 前後の轟音です。
 意見書で「基準値まで増加させてよいと解釈する施策は許されない」と述べました。この意見に対し担当者は「環境基準値より騒音を低減することを妨げるものではありません。」と考え方を記載しました。一方、環境省のホームページは「汚染が現在進行していない地域は、少なくとも現状より悪化しないように環境基準を設定し、これを維持していくことが望ましい」と積極的な論旨を展開しています。「同じ環境省の見解か」と目を疑うほど違います。
 意見書で「大館能代空港は最大86.8 dB(A)の騒音があってもLdenは47以下。飛行回数が少ない場合は、基準値を45以下に定めるか、ピークレベルを規制しないと環境悪化が防げない」と具体的な提案もしました。静かな農山村地域の環境騒音はLeqで30前後です。

質問13-1 小規模飛行場は農山村地帯に多く本来静かな地域です。そのような静かな地域に90dB(A) 前後の轟音を公認することに環境省は痛みを感じませんか?
質問13-2 「妨げるものでない」とする考え方は消極的すぎませんか?
質問13-3 飛行回数の少ない地方空港や非優先滑走路などの場合、轟音を公認することにならない評価方法を今後検討すると公約して下さい。
上記3項目まとめての回答「環境基準は、より積極的に、維持されることが望ましい基準として、行政上の目標たる性格のものです。環境の保全には、環境への負荷をできる限り低減することが必要であると考えています。」

14 環境省の責務は「静かな環境保全」ですね?

 環境基準のあるべき理念と環境省のなすべき対応について、改めて意見と要望を述べ、貴省の見解を伺います。
 専門委員会報告は「環境基準値の早期達成の実現を図ることが肝要で、騒音対策の継続性も考慮し現行同等のレベルを基準値とする」と記述しています。しかし、「環境基準」は「国民に健康な生活を保証するためには、どのような環境が必要なのかを考える」ものであり、「現行基準の早期達成」や「騒音対策の継続性」から考えるべきものではありません。第5回部会でも「基準達成後に基準を見直す」段階論に批判意見が述べられています。
 航空機騒音訴訟の判決から求められることも、現行の「騒音対策の継続」ではなく「騒音対策の抜本的な改善と真摯な対応」です。
 また、「逆転解消」は早急に改善を要する課題ですが、真に「喫緊の課題」は「評価指標の変更」だけでなく、住民や地方自治体が待ち望んだ33年ぶりの環境基準見直しではないでしょうか。
 現行基準値未満の地域でも、航空騒音に呻吟する環境が放置されています。たとえば千葉県多古町5測定局のピークレベル最大値は80〜90dB(A)で、地域住民の苦情が絶えませんが、この地域の年平均WECPNL値は62〜69です。環境省は「普段の暮らしの視点」から環境基準を見直して下さい。

質問14-1 環境省は「環境基準は、人の健康等を維持する最低限度ではなく、より積極的に維持されることが望ましい目標」と解説しています。この公式見解に照らすと、今回の環境基準改定は不十分かつ不適切と判断されます。貴省の見解を伺います。
回答「今回の改定は、騒音の測定技術が向上したこと、国際的に等価騒音レベルを基本とした評価指標が採用されていることを踏まえ、評価指標の見直しを行うものです。なお、環境基準は、より積極的に維持されることが望ましい基準として定められており、環境への負荷をできる限り低減することが必要であると考えています。」

15 基準値Lden57は高すぎませんか?

 報告と答申は、基準値をLden57及び62と提示しました。パブリックコメントでは「基準値を厳しくすべき」とする意見が最も多数です。次に論拠の一端を示し、貴省の見解を伺います。
 70WECPNL以下の地域でも、神奈川県の平成13年厚木基地周辺生活環境調査報告書は、会話、電話、テレビ音の妨害があり“うるささ”を訴える回答は79%に達していると報告しています。前項で千葉県多古町の実情も示してあります。
 現行の環境基準案を作成した当時の専門委員会は「NNI35(WECPNL65に相当)が望ましい」と検討しました。この数値はLden52程度に相当します。
 間欠騒音として航空機騒音に類似している新幹線鉄道騒音の環境基準値70dB(A) は、
Lden 51〜57に相当しています。
 新幹線騒音について、横浜国立大学の横島潤紀氏と田村明弘氏は社会調査をもとに基準はLeq50が妥当と報告しています。この数値はLden 50〜53に相当します。

質問15-1 基準値WECPNL70またはLden57未満の地域について、検討すべき問題があると認識されますか?
回答「今回の改定は、騒音の測定技術が向上したこと、国際的に等価騒音レベルを基本とした評価指標が採用されていることを踏まえ、評価指標の見直しを行うものです。基準値等全般の改正については、今後の課題とさせていただきます。」

質問15-2 環境省の担当部局として、基準値関連資料をどのように検討されていますか?
回答「国内外の文献等をレビューするとともに、各分野の学識経験者等で構成する検討会で検討しております。」

16 受忍限度と環境基準値が同じ・・!?

 答申と報告は、地域類型の基準値をLden62としました。この数値は、WECPNL75に相当し、各地の航空機騒音訴訟判決で「受忍限度」とされているレベルです。
 「環境基準値」の上限と「受忍限度」の下限が一致することは、環境基本法第16条(環境基準)に照らして、どう考えても不合理で認めることができません。
 渉外関係知事連絡協議会は、「住宅防音工事区域の指定値を環境基準の70WECPNLに改めること」を要望しています。この要望は、Lden57〜62の地域が「望ましい環境」ではないことを示唆していると考えられませんか? 

質問16-1 受忍限度と環境基準値の一致について、環境基本法に矛盾していないとするならば、その論拠を説明して下さい。
質問16-2 基準値Lden62の採用は、前記「知事の要望は不当」と判断することになりませんか?
上記2項目まとめての回答「受忍限度については、個別の事案について、民事損害賠償責任を認定し、損害賠償を受けることができる原告の範囲を特定するため、当該民事訴訟に固有の判断として示されたものであり、環境基準値と一概に比較できるものではありません。」

17 住居地域は同一基準値とすべきでは・・

 答申と報告は、地域類型を「住居専用地域」と「その他」に二分する方式を踏襲しました。「住民の生活地域は同一基準値を適用すべき」という意見書が3通提出されています。
 この意見に対し環境省は「騒音の環境基準は、主として生活環境の保全を目的としているので、類型区分を設けることになっている」と考え方を述べています。
 しかし、一般の騒音に係る環境基準は「住居地域」を一括しています。「大気汚染に係る環境基準」は地域類型の区分がありません。航空機騒音を一般環境騒音や大気汚染の扱いと違えて「住居専用地域以外はうるさくてよい」とする論理は二重の差別です。
 東松島市議会は国宛の意見書(平成18年11月27日)で「騒音区域が75Wと70Wと二重にあるのは不平等と言わざるを得ない」と述べています。
 住民の生活地域は“同一基準値を適用されるべき”ではないでしょうか。

質問17-1 一般環境騒音と航空機騒音の地域類型を違える理由を説明して下さい。
回答「騒音に関する環境基準には、騒音に係る環境基準の一般地域と道路に面する地域、新幹線騒音、航空機騒音がありますが、地域類型はそれぞれ対象とする発生源の状況、土地利用状況等を踏まえて設定しております。」

質問17-2 住居専用地域より静かな農山村地域もあります。第13項で引用した環境省の公式見解「現状より悪化しない環境基準設定」に照らし、都市計画指定のない静かな農山村地域は、地域類型氓ノ指定して差し支えないでしょうか?
回答「地域類型の指定は、「航空機騒音に係る環境基準の類型を当てはめる地域の指定に係る法定受託事務の処理基準」を示しているところであり、当該地域の土地利用等の状況を勘案して、都道府県知事が行うこととなっています。」

18 「期間平均評価」は我慢強要になりませんか?

 パブリックコメントで2番目に多かった意見は、年間平均する評価(注1、注2)に対する批判です。「基準を超えるうるさい時があっても、静かな日もあるなら我慢しなさい」という論理を住民は容認できません。次に実情を例示します。
 千葉県多古町では、年平均値は鍬田局68.9 WECPN、千田局69.1 WECPNLですが、この2局は全ての月で日最大値が環境基準を上回っています。年平均値69.9 WECPNLの千葉県成田市新川測定局も同様で、年間の日最大値は75.0 WECPN に達しています。住民は「一日でもうるさい日は我慢できない」と苦情を述べています。
 生活の視点で考えた“いつでも静かな環境”が環境政策の正論ではないでしょうか。
(注1:現行の評価は、告示の定めで「連続7日間平均」ですが、年2回以上あるいは通
    年測定した場合は「一年間のすべての値を平均」すると通知されています。)
(注2:使用頻度の低い滑走路や飛行方向は、使用時のWECPNLを算出するとともに「年
    間平均のWECPNLも求める」とマニュアル化されています。)

質問18-1 週平均や年平均が基準値以下なら、基準値を超える状況があっても環境行政として問題視することはないと考えますか?
質問18-2 日ごとの騒音頻度に著しい差のある場合でも、年間平均の評価値(WECPNL)を求める理由を説明して下さい。 予測の利便性のためですか? 総暴露量を比較し騒音対策の差を計るためですか? 
質問18-3 生活環境を保全するため「期間平均」について再考の必要性を感じますか?
上記3項目まとめての回答「現基準は年間を通じての総合的な総暴露量を評価するものとして設定されています。」

19 一日ごとの評価を検討しませんか?

 現行の環境基準制定時の専門委員だった山本剛夫氏は「当初、いずれの1日も指針値以下とすることを想定していた」「(日間)変動の95パーセンタイルなど最大値に近い指標が住民反応と対応の点で優れていることが明らかにされており、パワー平均値を指標とする確たる根拠は存在しない。」と述べています。
 最近、千葉県環境研究センターの石橋雅之氏は「一日ごとの評価値が日常生活に密着した指標であり、基準値超過日数に着目した指標が住民の感覚を的確に表現」していると見解を述べています。
 大気汚染に係る環境基準は、1時間値、1日平均値が用いられています。騒音の影響も「騒がしい時があっても、静かな時にいやされる」ものではありません。極端に大きな航空機騒音に対しては、たとえ1回でも状況に応じた基準値を設けるべきではないでしょうか。
 本会は、先に「少なくとも1日値を評価対象とすべき」と見解を発表しています。日々の値の基準値超過日数に着目すると、測定地点ごとの環境基準達成率も明らかになります。

質問19-1 住民の体感に最も優れた評価が、年平均か週平均か繁忙期間か1日平均か・・を検討する方針や計画がありますか?
回答「アノイアンス、睡眠影響等の調査検討を継続して行っており、その結果を踏まえて評価手法のあり方を検討してまいりたいと考えております。」

質問19-2 いつでも基準値以下を目標にして、地点ごとの基準達成率を明らかにするこの方策が正しい環境行政ではないでしょうか? 見解を伺います。
回答「航空機騒音に係る環境基準は、測定点の航空機騒音を代表すると認められる時期を選定して測定し、その1日ごとの値のすべてをパワー平均して評価するため、地点毎の基準達成率を評価するというものではありません。」

20 基準達成の「抜本的な方策」を示して下さい

 成田空港は、環境基準達成期限を23年以上過ぎでも未達成地域が広範囲に存在しています。羽田や福岡空港なども「(1983年以降)可及的速やかに」とする期限を過ぎています。
 環境省および中央環境審議会は、この状況をどう打開するのか、検討する責務があるはずです。36年前の環境庁は、現行の環境基準作成に先立ち「緊急対策指針」を中央公害対策審議会に諮問しました。この答申を受けた環境庁は運輸省に勧告し「指針達成のための方策」として「夜間の発着規制強化」と「定点のピークレベル最高限度の設定と遵守」等を早急に実施することとなりました。
 今回、環境省と中央環境審議会騒音振動部会及び騒音評価手法等専門委員会は、基準値、達成期間、達成方策の検討を意図的に避けました。専門委員会報告の原案は、最後の第6項目次が「航空機騒音対策の推進orまとめ」でしたが単なる「結語」に後退しました。このような運営に対し、6月の第5回部会で批判的な議論が起こり、答申に「引き続き強力に対策を推進する必要がある」の文言が追加されました。この答申を受けても、新しい告示が具体的かつ抜本的な達成方策を示さないならば、環境行政失態のそしりは免れません。
 続発する航空機騒音関連の訴訟判決で、国の対策は「抜本的な解決、真摯な対応が欠けている(横浜地裁)」「法治国家のありようから見て異常の事態(東京高裁)」と指摘されています。本件環境基準の改定経過は、訴訟においても審判を受けることでしょう。

質問20-1 環境省は、告示に伴い環境基準達成のための新しい方策を提示しますか?
質問20-2 それとも、抜本的な方策は、今後別途検討する方針ですか?
上記2項目まとめての回答「環境省としては、今後も引き続き、騒音行政の推進を図ってまいります。」

以上


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