黒野忠彦氏 講演 「首都圏空港 今後の展望」 要旨

(2014年11月19日 ヒルトンホテル 成田)


【羽田空港第4滑走路建設までの経緯】

・まずは成田空港の歴史について話をしたい。これがないと、これから何をなすべきかが見えてこない。
・成田空港が1本の滑走路でやってきた間に、羽田空港は立派な空港になり、仁川やチャンギが力をつけてきた。
・この間に、日本の航空会社は十分な成長を出来なかった。外国からのお客様を十分に迎えることが出来なかった。
・これを受けて、「成田空港以外で国際線が入れられませんか」という議論が始まってしまった。
・2000年9月に首都圏第3空港の検討会が始まった。表題は「第3空港」ですけれども、結論は「羽田空港に4本目の滑走路を造ろう」と言うことになってしまった。これにより「国際線は成田、国内線は羽田」という区別はなくなってしまった。千葉の人が「血が流れた」などの歴史的経過を強調しても、今の現状では何の意味もない。

【今後の首都圏空港の機能拡張(羽田空港陸上ルートについて)】

・今後は2020年のオリンピックに向けて話が進んでいく。
・成田空港では地元に方々の努力もあり、来年には30万回から更に、4万回増が可能になっている。
・羽田空港では3.9万回を増やす事になっているが、これをやるには陸上ルートが必要となる。
・しかし、現状では千葉県側が、「何でこんなに入ってくるのだ」という強い意向が示されている。成田空港の騒音もある。
・今までは首都圏の話しの中では、多勢に無勢だった。だが、今は首都圏の中でも「これ以上、千葉県に負担はかけられない」と言うことになってきている。そこで、この3.9万回は都心上空を飛ばす計画になっている。
・具体的には羽田空港のAランとCランに真っ直ぐ入ってくる。Aランには渋谷の上から入り、Cランには新宿の上から入ってくる。
・渋谷から品川コースでは、高度1000mから品川ではスカイツリーと東京タワーの中間程度の約450mよりも少し低い高度になる。もう少し行くと、港区白金などの住宅地上空になる。これは、なかなか難しいい話になる。
・そこで、国土交通省も「なるべく迷惑にならない時間帯」として、午後3時から7時までの4時間を提案している。しかし、住民への説明はまだ行っていない。
・私は長く航空問題にかかわってきたが、この都心上空を飛ばし、羽田空港を充実すことは私の長年の「夢」だった。
・私はこの話は実現すると思っている。成田と違って、メディアが「これでもか」と言うくらい賛成している。東京都も大田区も品川区などの自治体は両手を挙げて賛成している。従って、ある時点で、区議会などで賛成の意向が表明されると思っている。
・住民の中には反対する人もいると思うが、これだけ、世の中が、メディアが賛成してくると、反対することは相当難しい。
・もう一つはオリンピックに反対してまでとは、なかなか言えない。

【羽田空港第5滑走路建設の可能性】

・従って、成田としては「羽田の3.9万回が実現する」と言う事で、成田空港の将来を考えるべきだ。
・羽田の3.9万回はすぐに一杯になるだろう。一部は羽田に移ることもある。
・こういう中で、成田空港はどうしていかなければいけないかを考える必要がある。
・航空需要の予測は難しいので、少ない場合と多い場合と中間の場合の予測が示されている。しかし、いずれの場合も、今のままではオーバーすることは間違いない。
・長期構想では、成田は50万回、羽田は60万回と出ている。しかし、羽田空港の60万回は第5滑走路を造らねばならず、極めて難しいと思う。
・沖合にオープンパラレルで第5滑走路を造るとすると、港湾機能との調整、陸上ルートも時間に関係なく全面的に使うなど極めて難しい問題がある。
・埋め立てが必要だが、これも、難しい。港湾は港湾の方で機能を確保する必要がある。国の方針として位置づけられている。今の羽田空港Bランには千葉県知事の許可が必要だった。飛行コースに千葉港の部分がある。埋め立てを行うとすれば、千葉県の許可が必要となる。いまのBランでも運航に制限がある。
・以上のようなことから、第5滑走路を造って羽田のキャパシティーを増やす事は、まずあり得ない。

【成田と羽田の国際線のあり方」

・今年の4月時点で、国際線のシェアは成田が68.3%、羽田が31.7%だった。成田が圧倒的に多い。
・成田は3万回増やす事はできるが、羽田は3.9万回増やせるかどうかは分からないが、「これができる」との前提で成田空港をどうするか、考えていかないといけない。
・私は成田を発展させるためには第3滑走路が必要と考えている。B滑走路の延長も含めて、50万回にすることが可能、と言うのが私たち機構の研究結果だ。
・今は第3滑走路やB滑走路延長の準備を進める段階と思っている。
・成田商工会議所が行っている「第3滑走路を造ろう」という署名は、東京に対して、非常にアピール度の高い行動と思っている。
・「成田空港は日本の玄関」という意識ではなく、「成田空港をどうするのだ」「成田空港でどうやって、飯を食っていくのだ」と言う方実利の方に向に舵を切っていただきたい。

【成田空港の役割】

・「首都圏の空港がどう役割分担をになうか」と言う議論は、成田にとって意味はない。今、国は「羽田に、成田路線を移行する場合は、成田にも路線を残しなさい」と言う成田縛りを行っているが、このような経済原則に反したルールは意味はない。早晩なくなるだろう。
・しかし、欧州などのエアラインも成田の必要性は認めている。従って、昔の考え方にこだわることなく、「成田空港をどうするのか」という風に考える必要がある。
・空港競争条件には色々あるが、成田が羽田に劣っているところは、アクセス時間の問題と国内線への接続の問題だ。逆に成田の方が勝っているのは空港容量の問題であり、羽田は増やすのが難しい。成田は今でも余裕がある。私は競争条件で一番大切なのはこのキャパシティーの問題と考えている。
・LCCやそれに近い航空会社は空港に駐機する時間を出来るだけ短くしたい、と考えている。希望の時間帯に飛ばしたいと考えている。成田はこの点でこれらの希望に、答えることが出来る。
・それから駐機場の問題もある。成田はまだ余裕がある、羽田は3.9万回の増加が出来たとしても、どこに駐機させるか、と言う問題が解決していない。埋め立てで場所を造るにしても、膨大なお金がかかる。今の国にそれだけの金があるかというとなかなか難しい。3年前に、航空会社の要望で燃料税を減額した。これはこれで良いのだが、では、空港を整備するお金をどこから持ってくるのか、と言う問題が生じている。
・成田は増設するにしても、地元が協力してくれれば、比較的少ない費用ですむ。これからはプラスをどうして延ばすか、マイナスをどう減らすかが、これからの問題だ。

【運用時間の延長は必要】

・次に運用時間の問題である。地域の人たちの気持ちも分かるが、これを何とかしないといけない。「カーフュー弾力的運用」はそれはそれで、大きな効果があった。
・24時間はともかくとして、「6時から23時まで」と言う空港運用時間を何とかする必要がある。

【発着回数よりも便利な時間帯の枠増加が重要】

・それから、30万回という問題で、「30万回に近づいてから考えれば良い」と言うのは大間違いだ。
・大事なのは利用しやすい時間帯の発着回数をどう増やすか、と言う事だ。現在の方針もその方向で整備を行っているのだが、人気のある時間帯の枠をどう増やすか、と言う方向で考えていかなければならない。34万回・50万回は一つの目安に考えてい欲しい。

【「国が言ってきたら」ではなく、地元が主体的に考えるべき】

・次に、「国が言ってきたら考えます」という立場と、「成田空港をこれからどうするか」と言う立場のどちらに立つかという問題だ。成田周辺の姿勢は後者だが、千葉県の姿勢は前者と思う。これでは遅くなる。
・成田空港が千葉県にあることの効果は十分分かっているはずなのに「国が言ってきたら協力します」と言う態度だ。
・国はオリンピック後も、訪日客を増やして、その収入で国の経済を立て直そうとする政策を進めている。しかし、空港の方がこの政策に間に合っていない。
・空港の建設や拡大は10年の単位で時間が必要。だから、地元の方から積極的に声を上げて欲しい。それが、羽田の第5滑走路などを牽制することになる。

【第3滑走路建設をいつでも始められる準備を】

・第3滑走路を造っても、閑古鳥が鳴くのでは困るが、情勢を見ながら、いつでも出来るように準備を進めてもらいたい。実際にやるのはNAAだけれども。是非、「第3滑走路必要」の声を上げていただきたい。


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