第3章 課題と提言
航空機騒音の影響を緩和するための施策は、前回調査を行った昭和57年以降も行われてきた。
平成5年には硫黄島の艦載機着陸訓練施設が全面的に米軍に提供され、それ以降、NLPの約90%が硫黄島で実施されるようになった。また、住宅防音工事も平成11年度までに対象世帯の約9割にあたる12万世帯で実施されている。
このような騒音の影響を緩和するための施策が進捗しているにもかかわらず、航空機騒音に対する苦情件数は高水準で推移しており、県や厚木基地周辺の各市が設置している自動記録騒音計による航空機騒音の測定回数も、目立った減少が見られない。
こうしたことから、今回、改めて18年ぶりに厚木基地周辺の生活環境調査を実施したが、昭和57年と比べても、多くの住民が被害を受けている現状に変わりはなかった。
特に、住民や教員に対する意識調査での防音工事の効果については、「効果がない」とするものが過半数を占めており、住宅における騒音計測調査の結果でも、防音工事を施した室内においても高いレベルの騒音が記録されていた。
今回の調査結果からは、騒音を軽減するための施策をさらに充実させる必要があることが明確となった。
1 防音工事
(1)住宅防音工事〔現状と課題〕
・W値75未満の地域が住宅防音工事の対象外となっているが、Cゾーンでも56.6%の人が「非常にうるさい」又は「うるさい」と回答している。この地域の住民は、「飛行活動の規制以外に望む対策」として3つまで選択してもらったところ、55.6%が「住宅防音工事を行う区域の拡大」を望んでいる。
・住宅防音工事の区域指定の告示後に建てられた住宅であるために住宅防音工事の対象とならない住宅が多数存在し、今回の調査ではAゾーンで12.6%、Bゾーンで11.7%がそのように回答している。
・住宅防音工事は、施工部屋数の制限があるが、これに対しAゾーンで45.8%、Bゾーンで44.1%が「不満である」と回答している。
・防音工事によって計画遮音量がほぼ達成されているものの、騒音の程度によっては、なお高レベルの騒音にさらされている。
・遮音効果を増すために「床下も防音仕様とすべき」、「サッシは二重サッシとすべき」との意見も寄せられるなど、住民の防音工事の充実を求める声は強い。
・住宅防音工事の対象地域であるにもかかわらず、Bゾーンで住宅防音工事を実施していない人のうち、13%が「対象区域ではない」と回答している。
〔提言〕
○防音工事の対象の拡大
・住宅防音工事の対象区域を「専ら住居の用に供される地域」に適用される航空機騒音に係る環境基準であるW値70の地域まで拡大すること。
・住宅防音工事の区域指定の告示後に建てられた住宅も対象とすること。
・住宅防音工事は全室を対象とすること。
○Aゾーンと白ゾーンにおける計画遮音量の地域格差の解消
・Bゾーンで20dBとされている計画遮音量をAゾーンと同一の25dBとし、AゾーンとBゾーンの地域格差を解消すること。
○より一層遮音効果の大きい工法の検討
・現状の計画遮音量では十分に騒音被害を解消できないこと、また、現在の工法に不満を持っている人が多いことから、二重サッシとすることを加えるなど、防音工事を施した室内において満足できる静かさを保つことができるよう、計画遮音量の見直しを図ること。
○防音工事の制度、対象区域の住民への一層の周知
・住宅防音工事の制度、対象区域について、なお一層周知すること。
(2)学校防音工事〔現状と課題〕
・航空機騒音により授業の中断を余儀なくされており、1時限当たり6回以上にわたっているとの回答が、Aゾーンの小、中学校では30%を超えている。
・防音工事が施されていない学校の教員では、Bゾーンで約90%、Cゾーンで約70%が防音工事を求めている。
・W値75以上の学校の教員では、防音工事の遮音効果について効果がないとする意見が多い。
・冷房設備がないために、夏には窓を開けなくてはいられない状況にあり、防音工事の効果が十分に発揮できない状況にある。
〔提言〕
○防音工事対象区域の拡大とより一層遮音効果の大きい工法の検討
・W値70以上の地域の全学校に防音工事を施すとともに、教育の場であることに鑑み、授業等に支障をきたすことのないだけの遮音効果のある工法の採用を検討すること。
○空調設備の設置と運用経費の負担
・全学校に空調設備を完備するとともに、空調設備の運用経費についても国で負担すること。
2 NLP
〔現状と課題〕
・NLPの厚木基地からの全面移転をA,B,Cのゾーンで83%-90%の人が求めている。環境基準値を下回っているとされているDゾーンであっても70%に達している。
・住民は、夜間・早朝の飛行活動の禁止を最も望んでいる。
〔提言〕
○NLPの厚木基地からの全面移転の実現
・硫黄島代替訓練施設での予備日を設定するなど、硫黄島での訓練を弾力的なものにし、可能な限り硫黄島で実施すること。
・国及び米軍は、メガフロートなど様々な方策の可能性について実情を踏まえて抜本的な対策を講じるべく検討を行うこと。
3 デモンストレーションフライト
〔現状と課題〕
・騒音や事故の不安から、デモンストレーションフライトの禁止をA,B,Cのゾーンで74%-82%が求めているのに対し、「このままでよい」としているのは6%-7%にすぎない。
・基地開放日での興味ある催し物として人気のあるのは、「基地全体の見学」、「航空機の地上展示」、「基地内での飲食」である。
〔提言〕
○基地開放日におけるデモンストレーションフライトの禁止
・デモンストレーションフライトについて基地周辺住民の拒否感は強く、友好交流を図る上で障害になっていることから、デモンストレーションフライトを今後実施しないこと。
4 飛行活動の制限
〔現状と課題〕
・飛行時間等に関しては、多くの住民は「夜間・早朝の飛行活動の禁止」、「土、日、祝日の飛行活動の禁止」、「年末、年始の飛行活動の禁止」を強く求めている。飛行方法に関しては、多くの住民が「低空飛行の禁止」、「急旋回、急上昇、連続発進等の禁止」を求めている。
〔提言〕
○「夜間・早朝の飛行活動の禁止」、「土、日、祝日の飛行活動の禁止」、「年末、年始の飛行活動の禁止」、「低空飛行の禁止」等の実現
・「厚木飛行場周辺の航空機の騒音軽減措置」(昭和38年9月19日日米合同委員会承認)の改正を行うこと。
・「厚木飛行場周辺の航空機の騒音軽減措置」が改正されるまでの間、同措置の遵守及び同措置に規定されている例外措置(「運用上の必要に応じ」て等の理由により適用除外されている(4a(1)、4d(2)寺参照))の適用については、その適用を厳格にし、かつ必要最小限に止めること。
厚木飛行場周辺の航空機の騒音軽減措置(抄)(昭和38年9月19日日米合同委員会で承認) 4. 厚木海軍飛行場周辺の航空機の騒音軽減に関する次の勧告は、本特別分科委員会の日米両国委員により合意された。 a. 飛行活動についての時間制限 (1)22:OO時から06:OO時までの間厚木飛行場におけるすべての活動(飛行及びグループ・ラン・アップ)は運用上の必要に応じ、及び合衆国軍の態勢を保持する上に緊要と認められる場合を除き禁止される。 (2)訓練飛行は日曜日には最小限に止める。 d. 飛行活動の規制 (1)離陸及び着陸の間を除き、航空機は、人口稠密地域の上空を低空で飛行しない。 (2)航空機は、運用上の必要性がなければ、低空で高音を発する飛行を行ったり、あるいは、他人に迷惑を及ぼすような方法で操縦をしない。 (3)航空機は、厚木海軍飛行場周辺の空域において、曲技飛行及び空中戦闘訓練を実施しない。ただし、年間定期行事として計画された曲技飛行のデモンストレーションはその限りではない。 |