〈省略〉私としてはこのレポートで政治的・思想的なものを主張するつもりはありませんが、逆に専門家ではないため数字的な裏づけやもありませんし、技術的・法的な間違いや既に取り組みの行われているもの、また相反する意見などもあるかもしれませんのでご容赦ください。ある意味、素人の戯言で机上の空論なのですが、これまで専門家が気づかなかったようなアイデアや、既に却下されたアイデアでも社会情勢の変化から再度検討の余地が出てきたものなどもあるかもしれません。「これまでの慣例だから」とか、「既に決まっていることだから」とか、「それは不可能という結論に達している」などと門戸を閉じて結論づけてしまうのではなく、少しでも検討の余地のあるものであれば、何度も議論や検討を行う価値はあるはずです。既存の施設や設備をいかに有効利用できるかという観点から参考にしていただければ幸いに存じます。
羽田空港の有効活用に関する考察
2001年12月7日 第1版
< 目次 >
・ 現A滑走路から北側離陸時の左旋回について
・ ノースバード運行について
・ 旧C滑走路と旧B滑走路について
・ 風向きと離着陸方向について
・ 24時間運行と深夜早朝の国際線運行について
・ 騒音問題と飛行ルートについて
・ 東旅客ターミナル建設と陸側・海側の独立運用について
・ 都営浅草線の東京駅接着について
・ 首都圏第3空港計画、並びに羽田空港再拡張案について
・ 羽田空港再拡張私案
※ このレポート中に新A滑走路や現A滑走路などと表現されている部分があるが、これは同じ滑走路を指している。逆に、現在は使用されていない、もしくは既に滑走路ではなくなっているものに関しては、旧A滑走路などと記している。
< 現A滑走路から北側離陸時の左旋回について >
・ 2000年7月ごろから開始されている、現A滑走路から北側に離陸後、大田区上空を左旋回して川崎市に抜ける飛行ルートであるが、実際に現地に赴いて確認してみたところ、離陸直後の大森緑道公園付近では、まだ高度が確保されていないために相応の騒音が感じられるが、住宅地である京浜急行大鳥居駅〜穴守稲荷駅以南では、さほどうるさいと感じるほどではない。飛行ルートとしては、JALは大鳥居駅西側を通過して産業道路の大師橋上空から多摩川対岸の殿町1丁目付近へ至る大回り、ANA機は大鳥居駅東側にあるホテル東横イン大鳥居の上空を通過、JAS機では穴守稲荷駅西側を通過して大師橋東側から殿町2丁目方面へ至る小回りと、各社特色があるように感じられる(高度の関係かもしれないが、A300型機は767型機などに比べて若干うるさいような気もするが・・・)。
運行も、午前7:15前後、7:35前後、7:45前後、7:55前後、8:05前後と予定通り午前7時代に4便、8時に第1便であるが、逆に7:35以降は約10分に1便づつと時間を分散化して騒音対策とするようにはなっていないようにも思える(午前8:30前後にプロペラ小型機が飛行しているようであるが、これはかなり騒音が小さいためここでは論議しない)。
多摩川対岸となる川崎市上空の通過に関しては、同一帯が浮島地区のコンビナート上空ということで心配する向きもあるが、実際にはかなりの高度で飛行しており、また川崎区殿町から京浜急行大師線の産業道路駅〜小島新田駅上空を経由して川崎貨物ターミナル東側の夜光1丁目方面に至るルートを取っているようで、少なくと石油精製工場やコンビナートが広がる浮島地区の上空は通過していないようである。
・ 騒音を抑制すべき地域を居住者が多い大田区西糀谷、本羽田、羽田地区に限定し、企業が主の東糀谷や大森南地区では騒音基準が異なるのであれば、これらの地区の上空を通過する左旋回ルートは、現在運行されている767型機のような低騒音型の航空機に限定すれば特に大騒ぎするほどのものでもなく、逆に朝の限定された時間帯以外の運行も検討できれば発着枠の増加が可能と思われる。しかしながらこの地区には小中高校なども点在しているため、その授業時間帯の運行は避けたほうが良いかもしれない。これと住民の安眠のための夜間を除外すると、朝7:00〜8:30まで、昼12:15〜13:15まで、夕方15:00〜夜21:00まで、合計8時間半の運行が可能であり、もし15分に1便の飛行が認められれば1日34便が利用できる。
現在のところ前述以外の左回り運行は、日中の時間帯に小型のプロペラ機に限って運行が認められているようであるが、ほとんどの小型機はC滑走路から北向きに離陸してから左旋回を行っているため空港島内でほぼ旋回を終え、羽田東急ホテル上空から多摩川を越えて浮島や殿町にぬける飛行ルートを取っているため大田区の住宅街上空を通過していない模様である。
このC滑走路から北向きに離陸して左旋回する方式は、前述のようにほぼ空港島内で旋回を完了でき、またその後も多摩川上空を経て東京湾に出ることもできる。これは、A滑走路からの左旋回離陸の飛行ルートから割り出した旋回半径を当てはめてみても同様であり、大田区の住宅密集地上空を避けて飛行でき、かつ同じC滑走路から北方向への離陸でも、左旋回での離陸と右旋回での離陸を交互に繰り返すことで離陸直後の後方乱気流の影響も受けづらくなる可能性があるため、同じ滑走路からの離陸間隔を縮めることができるかもしれない。この場合は、北海道・東北などの北日本方面へ向かう便は右旋回、西日本方面に向かう便は左旋回とすることで、離陸後の飛行ルートを分離することもできる。もし北日本方面への便が西日本方面への便に比べて少ないなどそのバランスが悪ければ、現在西日本方面に分類されている富山・小松など北陸方面行きの便を一旦北に向かってから北西へ進路を変更するルートに変更すれば、完璧とはいえないまでも、よりバランスが良くなると思われる。ただし、この場合は東京西部に広がる横田空域を通過する必要があるかもしれないため、その点は検討が必要である。
< ノースバード運行について >
・ 渋谷駅上空から大井町駅付近を経てA滑走路に北側から着陸するノースバード運行は、新聞(日刊紙)のニュースとして取り上げられたこともあって興味を引いたが、実際には有視界飛行のため、トライアル中に雲が多く着陸まで行えた確率が悪かった。そのためこの航路で運行を希望する定期便がなかったというお粗末な結果に終わっている。これでは、作為的に北からの進入が困難であるということを示すために行われたような気になる。南風のため北からの進入が必要となる夏季は、冬場とは違って雲が多いことを計算に入れておく必要があり、そのためには計器飛行を行うための設備が必要となる。現C滑走路の供用開始以前は、旧C滑走路と現A滑走路で運用が行われており、南風時の着陸は現A滑走路で行われていたにもかかわらず、計器飛行を行うための設備がない、というのもおかしな話である。
他の滑走路端と同様、A滑走路北端には計器飛行のための進入装置らしきものが設置されているが、A滑走路北側の延長線上を実際に歩いてみたところ、京浜島にある京浜緑道公園南端の公衆トイレ裏と同島国道357号線沿いの日本ヒーター社屋裏手の2箇所に1つづつ古ぼけた航空機進入灯台が1基づつ設置されているだけであり、C滑走路北部の延長線上にあるような航空機進入路指示灯などは見当たらない。なお、この航空機進入灯台は、C滑走路北端とB滑走路用進入灯橋梁先端近くで回転している白色ランプと同等のものと考えられる。その他、気になった施設としては、A滑走路進入線上と思われる東海埠頭公園上にかかる首都高速支線上に何らかの装置が設置されているようであるが、これが航空関係の設備かどうかは分からない。また、モノレール大井競馬場前駅脇にある京浜運河の対岸、つまり八潮パークタウン南側にあるなぎさの森の北西端には使用期間の年号が昭和であらわされている航空機進入路指示灯と表示された電柱が立っているが、その先端には装置らしきものが何も設置されていない。ちなみにこの位置は、A滑走路の延長線上からは東北東に500m程度離れた位置に当たるため、現C滑走路の供用前に使用されていたものと推測される。
・ ノースバード運行で計器飛行を行うために必要な設備が上記の空港周辺のものでないのであれば、旋回開始位置を確定するための装置が三軒茶屋付近にないことか、渋谷駅の位置を知るための装置がないことが問題なのであろうか(南風時にC滑走路へ進入するときは、中央防波堤内側埋立地に設置されている江東VOR/DMEという装置の電波を利用して位置を確認するらしい)。
いずれにしても、空港施設の有効活用や緊急時の対応という点からは、A滑走路北側からの着陸も行えるように整備しておく必要があるのではないか。その上でのノースバード運行であれば、現実的なトライアルや運行の検討が行えるはずである。
・ ノースバードの飛行ルートとしては、横浜市鶴見区にある総持寺上空を南側から北上し、世田谷区三軒茶屋付近から右旋回して渋谷駅上空から南南東にまっすぐA滑走路を目指すというものであるが、なぜわざわざ渋谷駅まで北上してから侵入しなければならないのかも疑問である。単に南側から進入して右旋回でA滑走路へ進入するのであれば、多摩川の丸子橋手前から右旋回して東海道新幹線上空を東北東に進み、京浜急行立会川駅付近から再度右旋回してA滑走路へ進入するか、同様に右旋回してから東へ進み、平和島公園付近から再度右旋回してA滑走路へ至ることができる。逆に、渋谷駅上空から進入することが主であり、トライアルとしては渋谷駅上空へ至るために南から進入したとすると、実際に運用が開始された段階では、池袋や日暮里方面から渋谷駅上空を経由してA滑走路に進入する飛行ルートが設定されるかもしれない。もしこのルートが設定できれば、北日本から羽田空港のA滑走路に向かう新ルートとなる。
・ このノースバード運行の際に問題として浮上する恐れがあるのは、A滑走路北端に隣接する京浜島の企業からの騒音訴訟である。これは、沖合展開の過程で現A滑走路が運用を開始した時に提訴された問題であり、現C滑走路の供用以降はA滑走路から北側への離陸を行わなようになった原因の1つかもしれない。ちなみに、前述した北風時のA滑走路からの左旋回離陸の際は離陸浮上後すぐに左旋回を開始し、京浜島上空は通過しないため京浜島への騒音は抑制されている。その後、旋回しながら住民のいる地区の上空を飛行しているのであるが、京浜島には住民は居らず企業だけしかないため、就業時間以外も飛行を差し控えているというのも変な話である。
ノースバード運行は小型プロペラ機に限定しているが、もしこの飛行ルートで通常のジェット旅客機を運用した場合のことを考えてみると、大阪・伊丹空港へ着陸する航空機の状況から推測することができる。伊丹空港への着陸は、大阪市内上空から新大阪駅を経由して進入を行う。新大阪駅付近は滑走路の南端から6kmほどの位置にあたるが、航空機の騒音はけっこう聞こえてくる。この位置関係を羽田空港のノースバード運行にあてはめてみると、ちょうど大井町駅付近となる。もし大井町付近での騒音をシミュレーションしてみるのであれば、新大阪駅付近を散策すると良く分かる。伊丹空港も古くからある空港のため、その付近では以前から航空機の騒音で悩まされており、関西空港の開港につながったわけだが、現在も利便性から夜間の終了は早いものの日中はかなりの便が運行されている。しかしながら羽田空港の運用と最も異なる部分は、伊丹空港への飛行ルートが大阪市内の上空を経由していることに対し、羽田空港の場合はほとんど都内上空を経由していない点である。この点で東京都の取り組みは成功しているわけであるが、逆に周辺の自治体からの理解を得にくい原因となっているように思われる。
・ ここで、実際のA滑走の運用を見てみると、羽田空港のA・C滑走路は国内線用としては充分な3000m級の滑走路であり、南風時のA滑走路からの離陸では、B滑走路と交錯するA滑走路北端から離陸のための滑走を開始するのではなく、北端から300〜400m南に寄った位置から滑走を開始し、滑走路のほぼ中央付近で浮上している。これは、離陸開始位置へ至る誘導路の取り付け位置などの関係もあるのであろうが、実質的に使用する滑走路の長さは短くなっており、その分を差し引けばA滑走路は2500m級として運用を行っても差し支えないように思われる。そうであれば、A滑走路を南端から2500mのところまでに制限し、それ以北を使用しないようにすれば、実質的にA滑走路北端から京浜島までの距離が稼げるため、もし京浜島上空を飛行して離着陸を行ったとしても、その地区における飛行高度を少しでも高くできるので多少なりとも騒音対策になるのではないであろうか。というのは、A滑走路の場合、その北端にはすぐに京浜島が迫っており、距離は約550m程しか離れていない。ちなみに、C滑走路の場合で見てみると、その北端から城南島までは約1300mも離れている。城南島上空を通過して離着陸する航空機騒音は相当なものであるから、より高度が低い京浜島での騒音は問題視されても致し方ないのかもしれない(騒音問題のため羽田空港の沖合展開につながった旧C滑走路の場合、その北端から昭和島までは約710m)。
< 旧C滑走路と旧B滑走路について >
・ 羽田空港で現在行われている沖合展開事業は、1997年から開始しているC滑走路の供用と、現在工事が行われている東旅客ターミナルの完成で最終目標の第3期展開が一段落することになり、2002年以降は一日あたり764便の運行が可能となるが、前述のように現在の沖合展開に至る一時期に行われていた現A滑走路と旧C滑走路を併用した運行でも、第2期展開段階で一日あたり580便が運行されていた。つまり、C滑走路を沖合に展開し、陸側と海側の滑走路を独立して運用できるオープンパラレル空港となった今でも、発着枠は単純に倍増していないのである。
この主たる理由として、騒音問題への対応から陸側にあるA滑走路の運用に制限があるためとされているが、少なくとも沖合展開第1期で現A滑走路の方位が旧C滑走路に比べて数度北向きに変更されたため、北側の飛行ルートが従来より北向きに変わったことで騒音が低下したとして騒音訴訟が取り下げられるなどの成果が見られたこともあり、騒音問題は一段落しているはずである(逆に滑走路の向きが変わったことで新たに京浜島の企業数社から提訴されたが)。現C滑走路の完成以降、現実的にはA滑走路の北側を飛行する離着陸は前述の左旋回と(実現できなかった)ノースバード運行以外には運行されていない。発着枠が切迫しているのであれば、この沖合展開第2期時点の運行に加えて現C滑走路の運行を各々独立した形で行うのが効果的であると思われる。しかしながら旧C滑走路は現C滑走路の完成後、なぜか滑走路としては使用されなくなり、その後の工事で滑走路としては使用できないようになってしまい、現在はそこに滑走路があった痕跡しか残っていない状態である。確かに、完成以降かなりの年月が経過した滑走路であったため、そのままでは最新の運行には絶えない部分もあったかもしれないが、前述のように沖合展開第2期時点でかなりの実績があった運用が行えないようになってしまったのは残念である。また、A滑走路上で航空機が故障などで立ち往生してしまった場合など、不測の事態に備えて旧C滑走路も使用できるように残せるのであれば、運用方法も柔軟に広がったはずである。
既に空港アクセス道路の建設が進み、旧C滑走路中央部分には同道路の地上開口部が設置され始めているため難しい面も残るが、旧C滑走路を復活させるか、もしくはA滑走路と並行して、その西側380〜400m(西側誘導路のさらに西側)に滑走路を新設すれば、上記の併用運用が可能になり、発着枠の増加が望める。
・ 同様に、旧B滑走路も2000年に完成した新B滑走路の供用後は使用されなくなってしまい、その延長線上の海上にあった進入灯橋梁も現在は海面上に支柱を残すだけの状態である。元来B滑走路は主滑走路であるA滑走路やC滑走路が横風で使用できない場合に使われるものであるため使用頻度は元々低いが、逆に横風時における処理能力の低下を極力避ける目的と、B滑走路上で航空機が故障などで立ち往生してしまった場合の代替滑走路として使用できるように最低限の整備は行っておくべきである。
また、A・C滑走路が3000m級であるのに対し、現B滑走路はそれより短い2500m級である。B滑走路は横風用であるため使用頻度は低いと考えられるが、いざ使用しなければならない場合にこの長さで問題ないのであろうか。旧B滑走路のあった旧空港島北部と京浜島との距離を考えると、沖合展開した空港島の北部と城南島との間には未だ再拡張の余地があるため、ここを埋立か桟橋方式で拡張すれば、B滑走路を他の滑走路と同じ3000m級に伸延する余地は残されている。
・ 羽田空港に限らず、空港は近隣の空港が天候などの影響で運用できなくなった場合の代替空港として機能させる必要があるが、こと羽田空港に関しては、現在の発着枠が空港としての処理能力ぎりぎりに設定されているため、代替空港としての能力はかなり低いと考えられる。これは航空政策上好ましいとは言えず、前述の旧滑走路をバックアップ滑走路化することで緩和させられると思われる。
< 風向きと離着陸方向について >
航空機は原則として風上に向けて離着陸を行うことになっている。これは、風上に向かうことで見かけ上の速度を増し、滑走距離を短くできるためであるが、航空機の性能が向上した現在、この原則はどこまで厳守しなければならないのであろうか。もし、無風時や微風時に風向きに逆らって離着陸を行うことができるのであれば、出発便の多い朝の時間帯は南向きに出発し、到着便の多い夕方の時間帯は南側から着陸するようにすれば、空港北側の騒音を減らすことができる。もちろん強風時には風に向けた運行が必要となるが、微風時には空港北側へ飛行しないという対策があれば、本当に必要なときにしか空港北側を飛行することにはならないために住民の理解も得やすく、騒音対策とすることができる。つまり、昨日は北風が強かったために航空機が多少飛来して騒がしかった、今日は微風のため航空機は飛来せずに静かである、といった具合に、日によって差はあるものの、平均すれば騒音を減らすことができるという考え方である。
< 24時間運行と深夜早朝の国際線運行について >
・ 羽田空港沖合展開の目的のひとつに、国内初の24時間空港にするということがあったが、実際に24時間運用は行われているのであろうか。羽田空港は国内線、という大原則がある限り、24時間運用を行っていない他の国内空港から飛来する航空機は遅くとも午後11:30ごろには羽田に到着してしまう。また、他の空港が運用を開始する午前7〜8時以降に到着するには羽田を午前6時以降に出発すれば良い。さらに、深夜や未明では鉄道を中心として空港との地上アクセスがないため、運行する意味もない訳である。つまり、24時間空港とは言うものの、現実的に午後11時から午前6時までは運行する相手先もないし、旅客も来られない(行けない)ために運行していないのが実状と思われる。これではせっかく24時間運行が行えるようにした沖合展開のメリットが発揮されていないことになる。
この使用されていない時間帯の有効活用という観点から、深夜の時間帯に国際チャーター便を運航させるようになったのであるが、成田空港を抱える千葉県などの反発や、CIQ(税関・入管・検疫などの業務)の整備などから効率的に運用されているとは思えない。これは来年度以降、ワールドカップが開催されるのにあわせて国際線ターミナルの増築と要員の増員が計画されているが、それでも微々たるものである。
また、夜間は運用されない航空機がほとんどの駐機スポットを使用しているため、この点も対策が必要である。これは、一部開始されている地方空港でのナイトステイ(夜間の駐機を地方空港で行うことで羽田行きの便を早朝から運行できる)や航空機の整備を地方空港に分散することで可能と思われる。航空会社としては、運用上地方空港への分散は経費がかかるため敬遠されるが、地方空港の活性化や雇用の拡大という点でもメリットがあるため、検討すべきものと考えられる。
・ 深夜・未明・早朝の時間帯には原則として運用できない成田空港に代わって、その時間帯だけ成田の代替空港として羽田を使用することはできないのであろうか。
例えば、貨物便であれば旅客のアクセスを考慮する必要がないため、深夜・未明に発着してもまったく問題はないはずである。地上でどのように貨物を取りまわせるかという問題もあるが、滑走路の有効活用という観点だけから見れば、貨物量が一定と仮定した場合、成田空港に離着陸する貨物便を減らすこともでき、通関の時間を考えなければ深夜に貨物が到着することで、近接する大田市場で生鮮食品をせりにかけたり、未明に貨物が到着すれば、早朝に仕分けして近郊であればその日のうちに配送も可能である。
旅客に関しては、国際線であるということを考慮すると、国内線に比べ出国審査などのため搭乗までの時間がかかる。最終便や電車・モノレールで夜間〜終電までに羽田空港に来れば搭乗できるように出発時間を設定すると、午前0時から2時に出発することになる。例えばこの時間に出発してアメリカ西海岸へ行くとすると、現地到着は現地時間で午後6時〜7時ごろとなるためその先の国内線に乗り継ぐことは難しいが、その地で宿泊するのであればちょうど良い時間帯である。また、折り返して羽田に戻る場合を考えると、現地駐機時間は成田発着の場合より若干長くなるが、現地を午後10〜11時頃に出発するとすれば、一日ゆっくりと観光を終えてから空港に向かうことができる上に、羽田到着は午前4時〜5時ごろとなり、入国審査と税関審査を経てちょうど始発の国内線や電車・モノレールに乗ることができる。この例の場合、使用する航空機は日中の時間帯に国内線として運行すれば無駄もない。国内線用の航空機を国際線に使用するには機内食などの関係で無理があるが、国際線用の航空機を国内線に使用するのであれば、国内線に比べてシートの構成上大量の旅客を運ぶことはできないものの、さほど無駄はない。別の例としては、例えば午前0時にシンガポールへ向かって出発し、午前6時ごろ現地に到着して2〜3時間の駐機後にバンコク経由で(バンコクでも2〜3時間駐機)羽田に戻れば、羽田到着は午後10時ごろとなる。つまり羽田発着の旅客だけを考えれば無駄のない運行が可能である(実際には午前8時にシンガポールを出発するバンコク行きの需要がどの程度か分からないため、その分若干の無駄が出る可能性もある)。
もちろん、このような運行が可能な目的地は限られると思われるが、成田空港の混雑緩和や時間の有効活用という観点からすれば、かなりのメリットがあると考えられる。成田問題を抱える千葉県では、首都圏の国際線は死守したいところであろうが、成田空港における発着間隔の適正化や路線拡張に伴う航空機の小型化などのメリットも考えられるため、そろそろ羽田との相互補完を考える時期に来ているとも思われる。
< 騒音問題と飛行ルートについて >
我が家は鶴見駅のそばにあるが、時折上空を航空機が西日本方面へ飛行している。赤と緑の翼端灯も視認できるが、飛行高度が高いためか、音は聞こえるものの騒音と感じたことはないし、特に不安に思うようなこともない。羽田空港に現C滑走路が供用されて以降、C滑走路の北側の飛行ルートは、離陸後すぐに旋回して海へ向かい、着陸時も海側から旋回してC滑走路に至るということに気づいたことが、実はこのレポートを書くきっかけである。そのときには「C滑走路の発着はすぐに旋回するのだから、それと並行してA滑走路から北方向への離陸や北からの着陸も行えるのではないか。そうすればもっとたくさんの運行が可能になるはずなのに。それだけではC滑走路を離着陸する航空機との間隔が取れないのであれば、単にC滑走路を南へ移動すれば良い話なのではないか。」と思っていろいろと調べはじめたのである。そして関連する情報を検索して騒音対策という理由を知ったのだが、実際に現地を歩いて感じたことは、航空機の飛行を制限してまで騒音対策を行わなければならないようなことはないのではないか、というものであった。騒音問題というのは、地域性や主観的なものもあるため一概には言えない面もあるが、首都圏を代表する都会の空港としての羽田空港の騒音問題について以下のように考えている。
・ 東京都東南部市街地の騒音問題についてであるが、沖合展開前の空港周辺市街地・住宅密集地における航空機のジェット化に伴う騒音激化がその発端である。当時の航空機は最新型のものに比べて騒音も大きく、また滑走路も市街地に近かったため、問題化したと言われている。
沖合展開で、現A滑走路の供用が開始されたことで、騒音問題には一段落ついたはずであるが、現在も騒音問題のためにA滑走路から北側への離陸と北側からの着陸が制限されている。
ここで、騒音被害を考慮すべき住宅密集地とは何なのだろうか。東京は都会であるから、郊外に空港のある成田や関空などの騒音問題とは少し違うように思えるのである。都会暮らしでは何も航空機だけではなく、車やバイク、鉄道、工事、工場、ヘリコプタ、スナックのカラオケ、はては近所の生活騒音からペットの鳴き声まで、騒音がないということは考えられない。致し方ないこととは言え、便利な代わりに多少の騒音は我慢しなければならないというのも都会暮らしの宿命ともいえるのではないだろうか。要は、程度の問題である。うるさくて寝ていられないということであれば、いくら都会とは言っても我慢の限界もある。しかし気にするほどの騒音でなければ協力もできるであろう。騒音とは単に音が大きいだけではなく、その音質や持続時間なども深く関係している。厚木基地に離着陸する軍用の戦闘機などの耳をつんざくような騒音とは異なり、旅客機の場合はかなり騒音を抑制するように設計されているが、やはり航空機の騒音は不快感のある独特のやかましい音質であり、その持続時間や騒音の範囲も広い。とはいえ、極度にうるさい場合以外は、騒音かどうかは主観的なものであるため、少しでもうるさければ許せないというのも考えものである。もちろん、老人や子供、病人、身体障害者などの生活弱者のことは優先して考慮すべきであるため、一概に言えない難しい問題であることは確かである。また、都会暮らしを希望して越してきた住民と、先祖代々その地に根付いた住民とでは自分の意志のおよぶ範囲も異なるため、同じ尺度で論じることも適切ではないと思われる(本当の騒音被害者は航空機に搭乗している旅客かもしれないが・・・)。また、万一事故がおきた場合のことや頭上を大きな航空機が飛行することでの威圧感や恐怖感を騒音という理解しやすい被害に置き換えていることもあるのではなかろうか。もしそうであれば、富山空港のように飛行ルートを河川上空に設定すれば威圧感や恐怖感といったものは緩和できる。羽田周辺には数多くの運河があり、A滑走路北側の場合は京浜運河がこの目的に利用できると考えられる。
・ 以上の観点から、騒音問題を考慮すべき地域を考えてみると、近代的な埋立地造成が行われた臨海部は除外できると考えられ、木造住宅や神社仏閣のある旧東海道沿線以西、具体的には海老取り川、大森東避難橋、平和の森公園、品川水族館、勝島運河、鮫洲公園、旧海岸通り、八つ山橋を結んだ線より西側が住宅密集地と考えられる。昭和島、平和島、勝島、東品川、天王洲、港南は、高度成長期には既に存在していたため、どのように考えるかは微妙であるが、実際にはこれらの地区はほとんど住宅地として使用されていないため、やはり住宅密集地は前述の地域と考えても良いと思われる。これは首都高速羽田線の西側とほぼ同じであり、騒音問題が厳しくなって沖合展開に至った際に東京都から出された「モノレールより西側には航空機を飛ばさない」という線ともほぼ一致する。この住宅密集地に沖合展開前の騒音マップを重ね合わせてみると、騒音対策をすべき地区は、大森東避難橋と産業道路の大師橋を結ぶ線の東側であり、具体的には大田区羽田、羽田旭町、東糀谷の一部、大森南の一部となる。もちろん、昭和島や平和島、大井競馬場の一部も騒音地域であるが、そこは住宅地ではない。よって(北風時のA滑走路左旋回離陸は別にして)この住宅密集地以外の臨海埋立地上空を飛行することはできないのであろうか。例えば、同じ東京都ということから離島への航路に就航している小型プロペラ機に限ればA滑走路を離着陸できるなどの対策であれば、地元の理解もかなり得やすいのではないだろうか。小型プロペラ機は必ずA滑走路を使用するようにすれば、その分C滑走路の発着枠に余裕がでる。
・ 羽田空港の多摩川対岸は都県境を越えて川崎市となり、その一帯には浮島、小島町、殿町などがあるが、浮島と小島町は工場地帯のため騒音問題はない。しかしながらこの地区には石油コンビナートなどが広がっているため、万一の事故を考えると上空の飛行は注意を要すると考えられる。一方殿町は、B滑走路南西端から約1000m程度離れており、そこにはいすゞ自動車川崎工場があるため実際の住宅地までは約1400m程度の距離がある。実際にこの付近で騒音がどの程度かを見てみると、京浜急行大師線の小島新田駅付近にあるいつくしま跨線橋付近では、風向きにもよるがA滑走路から南向きに離陸する航空機の騒音がかなり聞こえてくる。もちろん海老取り川対岸付近と比べれば距離が遠い分音量は小さく、離陸した航空機がある程度の高度まで上がってから騒音が大きくなるという特徴があるが、それでもA滑走路から離陸のために加速するエンジン音の変化まで分かるほどである。北風の時にはC滑走路から離陸が行われるため、ほとんど騒音は聞こえてこないが、A滑走路から北向きに左旋回で離陸する際にはこの付近を通過する。そのときにはある程度の騒音が聞こえるが、高度が高いために実際にはそれほどではない。南風の時は主としてA滑走路が使用され、航空機の離陸はかなりの頻度で行われているため騒音の量としてはけっこうあると思われる。この地区は工場地帯であるが住居もあり、住民はある程度の騒音被害を受けているものと考えられる。南風のときにA滑走路を離陸用に使用するのは、羽田空港北部の騒音対策としてC滑走路に北側から着陸するためで、もし川崎市側がA滑走路からの離陸に対する騒音問題を提起した場合には南風時に空港が使えないことになってしまう。川崎側も騒音を受け入れているのであるから、(B滑走路から川崎方面へ離着陸を行わないのが東京都の配慮かもしれないが)東京都側ももう少し譲歩して空港北側の飛行制限を緩和すべきではないだろうか。
・ 羽田空港を離陸した航空機が北日本に向かう場合、東京湾上を飛行してから浦安市や市川市、船橋市の上空から北上する。そのため東京都の上空を飛行していないことから、これらの自治体では騒音の押し付けと感じているようで、夜間に国際チャーター便を運航する際にも、これを根拠に千葉県からクレームが入り、国際チャーター便の就航時には市川市で騒音測定が行われたり、飛行ルートとしても千葉県上空を飛行しないように東京湾上空を旋回して高度を上げるなども検討され、実施されたほどである。
これも川崎市の場合などと同じように、東京上空を飛行せずに他の自治体の上空を飛行していることが問題の根幹になっているように思われる。もし、ある程度東京都を飛行した上で千葉県やその他の自治体に侵入するのであれば、それらの自治体からの反発も和らぐ可能性がある。東京は都会だから航空機が飛行しては困る、という論理では実際に航空機が上空を飛行している自治体から理解を得ることは難しい。
例えば北日本方面に向かう場合、羽田を出発した航空機が台場や豊洲、晴海などの上空から北東や東北東方向へ進路を取り、江東区や江戸川区から市川市へ至る飛行ルートを取れれば、これらの自治体からも理解を得られやすくなるはずである。
・ 風向きに関係なく、羽田空港へ到着する航空機は、木更津にある航法支援設備を目標として飛来する。そこから羽田空港の滑走路へ南側から侵入するか、もしくは北側からの進入にむけて江東の航法支援目標(VOR/DME)へ向かうため、必ずと言ってよいほど木更津市の上空を飛行する。ある意味、1日数百便におよぶ羽田行きの航空機が木更津上空を必ず飛行することから、高度が高い(約900m)といえ、頻度が多すぎるために千葉県からは騒音被害が訴えられている。
これを改善するには、木更津上空を飛行しなくても羽田空港へ侵入できるように他の適切な場所にも航法支援装置を設置し、便によってはその目標をもとに飛行するようにする必要がある。航法支援装置は海上には設置できないが、飛行ルートと共に多角的に検討して設置できれば木更津上空を飛行する航空機の数を減らすことができ、騒音問題への対策とできる。
実際には、北風時に羽田空港へ南から進入するケースでも、対岸の木更津方面から飛来するのがほとんどであるが、便によっては羽田の北東方面から東京湾アクアラインの風の塔(川崎人工島)の方向に飛来し、向きを変えて滑走路へ南から進入することもあった。日中で視界も良かったことから、おそらく有視界飛行で運行されていたと考えられるが、風の塔に航法支援設備が設置されていれば悪天候でも夜間でもこの飛行ルートを使用することができ、木更津をはじめとする周辺地域への騒音を抑制できると考えられる。
・ 南風時に北側からC滑走路へ進入する場合、中央防波堤内側埋立地から青海流通センター近くのワールド流通センター付近を左旋回しながら経由し、対岸の大井埠頭南端から城南島上空に至って進入が行われる。このとき、青海地区や城南島で気になるのは、進入してくる航空機の騒音が付近の建物に反射して聞こえてくることである。航空機の騒音は、その航空機が建物の陰に隠れて直接目視できなければかなり低下するのであるが、このように音が反射する場合には、かえって騒音が長引いたり大きくなったりするようである。建物に反射して騒音が拡散し、そのために騒音被害がひどくなるのであれば、いくら航空機の低騒音化や飛行ルートの工夫を行っても実際には騒音が低減しないという可能性が残ってしまう。これら青海地区や城南島には住民がいないため、そこまで心配する必要もないのかもしれないが、逆に南風時に北側からA滑走路へ進入する場合には、流通センター付近や京浜島で問題化するかもしれない。これを防止したり、低減するのはなかなか難しいのであるが、吸音性のある素材・構造の外壁材を利用して建物から騒音が反射するのを低減すれば、上記のような騒音の拡散は防止できると思われる。
・ また、空港周辺地域への騒音の拡散を防ぐ対策としては、航空機が地上滑走中(離陸時の地上滑走時と着陸時の逆噴射時)に限られるが、滑走路と空港周辺地域との間に防音壁として長屋形式の比較的高さのある建造物を建てると効果的であると思われる。では、どのような施設が適切かを考えてみると、貨物上屋は荷捌きの関係から吹き抜け構造となっている(つまり屋根だけで壁がない)ために適切ではない。ターミナルビルは効果があるように思えるのであるが、逆にそのターミナルを利用するバスや乗用車が低速で多量に通行するため、交通混雑や排気ガスによる大気汚染の方が心配である。よって最良の選択は、航空機の格納庫であろう。格納庫だけでは薄い壁材になり、騒音も素通りしてしまう可能性があるため、格納庫の裏には事務棟ビルを併設すれば万全である。海老取り川の対岸の羽田地区への対策としては、対岸に近接していることを考慮すると、B滑走路の北西側に海上保安庁や小型機用の比較的低層の格納庫を長屋形式で隙間なく設置すれば威圧感も少なく地上騒音の対策となる。また、対岸の殿町方面への対策としては、A滑走路の西南西側に中・大型機用の格納庫を長屋形式で隙間なく設置すれば対策になると考えられる。もちろん、騒音の拡散を防止する目的から、吸音性のある素材・構造の外壁材を利用して設計・施工することが望ましい。
・ C滑走路から北向きに出発する飛行ルートと交錯せずに利用できる飛行ルートの私案を以下のように考えてみた。
・ A滑走路北端からまっすぐ北北西に至り、大井町駅上空を経由して渋谷駅方面へ至るルート(ノースバードのルートと同じ)
・ A滑走路北端からまっすぐ北北西に至り、モノレール大井競馬場前駅から北上し、田町駅から北東の隅田川方面へ至るルート
・ A滑走路北端からまっすぐ北北西に至り、モノレール大井競馬場前駅から北上し、東京陸運支局から北北東へ進路を変えて東京港トンネル上空からりんかい線東雲駅方面へ至るルート
・ A滑走路北端からまっすぐ北北西に至り、京浜大橋上空から北上し、東京貨物ターミナル駅上空を経由して、国際救援センター付近から北西に進路を変えて東京ビッグサイト方面へ至るルート
・ A滑走路を北向きに離陸直後すぐ少し左へ進路を取り、京浜島上空を通過せずに京浜運河に沿って北上し、八潮橋付近から北東へ至るルート
・ 北風時の左旋回を拡大解釈したものとして、左旋回を大回りで行って、昭和島、大森町駅、蒲田駅、六郷土手駅上空を経由して川崎市に至るルート
これらのルートの延長線上や近隣には都営大森東1丁目アパートやJR勝島アパート、八潮パークタウンなどがあるが、それらはいずれも鉄筋コンクリート作りのため、木造住宅に比べて気密性が高く遮音性も良い。また、同様に数多くの企業があるが、生活の場ではないため、これらは前述の住宅密集地ほど騒音基準を厳しくしなくても良いと思われる。もしこれらの飛行ルートでもC滑走路から離着陸する航空機との間に充分な間隔が保てないのであれば、C滑走路への飛行ルートを1kmほど南側へ移動すれば良いのではないだろうか。そのためにはC化走路自体も南側へ移動させる必要があるかもしれないが。
繰り返しになるが、騒音問題は程度の問題でもある。同じルートをひっきりなしに航空機が飛行することで、そのルート付近の住民が騒音の被害を受けることになるのである。多少であれば許せることも常時であれば許せなくなるし、なぜ自分の地域だけが、という被害意識も芽生える。海外でも都市部の空港に進入する航空機は必ずと言ってよいほど住宅街の上空を通過している。よく東京都は西側の横田空域が返還されないと東京都の上空は飛行できないと言っているが、これは羽田北側の飛行を横田空域問題に摩り替えているだけであり、説得性に欠ける。航空機の飛行は何が何でも絶対にダメ、というのは自分だけがよいというエゴであるから、住民側も空港の運用に関する理解と多少の譲歩が必要であるが、複数の飛行ルートを用いて騒音を分散化すれば、より理解が得やすいはずである。これは、航空機の騒音被害を代表する意味で使われている騒音の拡散とは観点が異なり、騒音を分散化することで特定の住民に及ぶ被害を減らせるのではないかという考え方である。ある程度高度が高いとはいえ、千葉県や神奈川県の上空を飛行しているにもかかわらず、東京都の上空だけは飛行させないというのもおかしな話であるし、空港は東京都民だけのものではなく周辺の県民も利用するものであるから、都や県という立場を超えて、空港周辺の広範囲な自治体の地元の問題として考えるべきである。それが地域との共生ということではないだろうか。そのような考え方に立って騒音問題に取り組まなければ、北風時の左旋回に協力している羽田地域の住民に対しても失礼である。時間帯や頻度、使用する航空機を低騒音型の中小型機に限定し、複数の飛行ルートを交互に利用するようにすればかなりの騒音対策になるはずである。
例えば、A滑走路の北側に3つの飛行ルートを設定し、各々の飛行ルートを交互に使用できるとすると、30分毎に各ルートを使用すれば騒音もたまにしか発生しないため住民も受け入れやすい。総合的に考えれば1時間あたり6便、一日に換算すれば90便程度の発着枠が確保できることになるのである。飛行ルートを4つ設定できれば、同様に一日約120便が増便できる。
それでも東京都南東部の臨海部には倉庫や工場の跡地を利用して住宅建設が進行しつつあるため、以上の対策は羽田の再展開までの暫定的なものとしても良いかもしれない。再展開完了移行は飛行ルートが変更され抜本的に航空機の騒音対策が行われるため、それまでは申し訳ないがしばらくご協力願いたい、ということであれば理解も得やすいかもしれない。
・ しかしながらこの観点から見ても、A滑走路の北側を飛行する場合の唯一の問題点は、どの飛行ルートをとっても変えられない京浜島の騒音であろう。これは現A滑走路の供用開始時点で京浜島の企業グループから提訴されたことを見ても明らかである。同地区には工場や物流企業だけではなく、設計事務所などもあるため騒音には敏感なのかもしれない。離陸時は滑走路中央付近で航空機が浮上するため(滑走路の残りは、もし浮上できなかったときに安全に止まるための分である)、北風時の左旋回のように浮上後すぐに進路を変えれば京浜島上空を飛行することを避けることができるが、着陸時にはA滑走路北端から2000m程度のところからはまっすぐ進入しなければならないため、どうしても京浜島上空を通過せざるを得ない。これは、現A滑走路では京浜大橋中央付近となり、A滑走路を南側から2500mに短縮しても、京浜島埠頭公園付近となる。つまり、京浜島南西部では着陸進入する航空機の高度が低く、騒音が厳しくなるため何らかの対策が必要と考えられる。A滑走路を南端から2500mに短縮し、A滑走路の着陸地点を少しでも南に移動することで、京浜島での高度を若干でも高くするか、それでも京浜島上空での高度を稼げないのであれば、多摩川への影響を抑えるために桟橋方式を使用してA滑走路をさらに南側へ500mほど移動するのはどうであろうか(離陸の場合と同様に、離陸後止まれなかった場合は再度離陸できるように滑走路が設計されている)。もしくは、究極の対策として、京浜島から企業を集団移転するという手もある。京浜島北部や大田市場周辺、城南島、大井埠頭一帯には、使用されていない土地が残っており、そこへ移転するのである。移転後は京浜島を貨物地区として整備すれば、旅客同様に増加傾向にある航空貨物の対策にもなるし、京浜島は近隣に大田市場やコンテナ埠頭もあるため、荷捌きにも便利である。
< 東旅客ターミナル建設と陸側・海側の独立運用について >
・ 現在、沖合展開第3期の最終段階として、C滑走路側に東旅客ターミナルビルの基礎工事が行われており、2002年の供用開始を目標に早々にもターミナルビルの着工へ進むようである。その完成時には、ANAグループが新たに完成する東旅客ターミナルへ移動し、現在使われている西旅客ターミナルはJALグループとJASグループで使用するということになる(エア・ドゥやスカイマークも左右のターミナルに分散されるが、ここでは述べない)。JALとJASの経営統合も発表されたため、大枠としては大手2社が東西のターミナルを各々ほぼ独占状態で使用することになる訳である。しかしながら、現状の滑走路の運用形態を考えると、北風時は西ターミナルを出発したJAL・JAS機が東ターミナルの向こう側のC滑走路から離陸し、A滑走路に着陸したANA機は近くの西ターミナルではなく、遠くの東ターミナルまで移動しなければならない。これは、空港内の東西を連絡する誘導路の混雑を招き、空港の運用としては得策ではない。可能であれば、JAL・JASとANAは、各々陸側のA滑走路と海側のC滑走路を独立して使用できれば、空港内の誘導路の混雑を防ぐことができる。もちろん騒音問題などから、A滑走路とC滑走路を完全に独立して運用することは難しいかもしれないが、たとえば小型プロペラ機に限って必ずA滑走路を使用し、大型機に限って必ずC滑走路を使用するなどの対策で運用するような方式を検討できれば、理想に近い形で運用することもできるのではないだろうか。
・ 羽田空港のようなオープンパラレル構造の空港では、中央のターミナルを挟んで陸側と海側の滑走路を独立して運用することで、その施設や設備を最大限に運用することができる。この場合、対費用効果としては、必要最低限の投資で最大限の効果を得ることが重要である。つまり無駄な投資を行わずに既存の施設や設備を最大限に生かし、それでも必要となる最低限の投資を行うことで、より少ない投資でより効果のある運用を行おうという考え方であり、安全性の確保や騒音対策に必要な投資を行わないということではない。
・ 現在、羽田空港では騒音対策として、南風時は陸側を離陸用、海側を着陸用として運用し、逆に北風時は陸側を着陸用、海側を離陸用としている。北風時の到着ラッシュ時に限っては、両方の滑走路を着陸用に使用する場合もあるが、風向きで発着可能な便数が変わることを避けるため、あまり行われていない。また、オープンパラレル構造の空港だからこそ運用可能な同時離陸や同時着陸も、同時離陸だけが行われており、同時着陸は行われていないようである(北風時の左旋回離陸時などには同時離陸が行われている)。前述のように、東旅客ターミナルの建設も進んでおり、航空大手2社が各々海側と陸側のターミナルを使用することになるため、滑走路の優先利用や同時離着陸などの独立運用を行わなければ設備の有効利用とはいえないと思われる。そのためにはA滑走路北側陸上の飛行が必須であり、羽田空港の再拡張や第3空港建設などとは別に早期に実現できるよう、関係機関の理解と努力が期待される。
そのためには、騒音問題の解決を含め、計器飛行で現在以上の飛行ルートが確保できるように航法支援設備の拡張・充実が必要である。航法支援設備は足場のない海上には建設できないため、必ず陸上に建設しなければならないが、現在は必要最小限の施設しか設置されていないような気がする。例えば、南本牧、大黒埠頭、扇島、東京湾アクアラインの風の塔(川崎人工島)、中央防波堤内側埋立地、中央防波堤外側埋立地、有明、台場、豊洲、青海、富津岬、君津市(君津共同火力発電所)、幕張など、現在の江東VOR/DMEや羽田VOR/DME、木更津VOR/DMEなどだけではなく、さまざまなルートを確保するために必要な設備の整備を進めるべきである。また、都内であればビルの屋上や公共施設、公園、コンビナート、埋立地など都会ならではの設置場所が必ず見つかるはずである。
< 都営浅草線の東京駅接着について >
・ 羽田空港からは京浜急行線が京急蒲田駅から京急本線を経由して都営地下鉄浅草線に乗り入れている。都営浅草線は京成線にも乗り入れているため、羽田空港から都営浅草線を経由して成田空港へ至るエアポート特快が運行されている。都営浅草線は宝町駅・日本橋駅間で東京駅の近くを通過しているため、これを分岐して東京駅付近に引き込み、接続性を良くしようという計画がある。これは分岐距離が短いため比較的短期に実現できそうで、利便性の向上が見込めることから非常に評価できるアイデアであるが、若干問題も考えられる。
・ 東京駅で折返し運転になるため、羽田から成田へ向かうには進行方向が逆転することになる。つまり、東京駅で車掌と運転士が交代する必要があり、その分東京駅での停車時間が長くなることが考えられる。また、京成のスカイライナーや京浜急行の2100系などの車両を使用する場合は、座席と進行方向が逆転してしまい、乗り心地にも少なからず影響すると考えられる。
・ 通勤客と航空旅客の分離が難しいため、ラッシュ時など大きな荷物を持って乗車することが難しいと考えられる。特に、成田空港へ向かう旅客は海外旅行のためのスーツケースなど大きな荷物を持っているため、通勤ラッシュ時は乗車が制限されるなど懸念される。
・ これらの対策はなかなか難しいが、可能であれば東京駅への分岐を羽田空港側では新橋駅南側とし、新橋駅に別ホームを設け、外堀通りの地下か東海道線の地下を進んで東京駅新幹線ホームの地下に駅舎・ホームを造成する。そしてそのままの進行方向で北上し、日本橋川の地下を経由して人形町駅西側で再合流、もしくは江戸通りの地下を経由し、浅草橋駅南側で再合流して成田空港方面へ向かうルートを建設してはどうか。このメリットとしては、東京駅で折返し運転を行う必要がないためスムースな運行が可能となることである。予断であるがもう一点として、この工事を利用して現在乗り継ぎの悪い京葉線の東京駅ホームを同時に工事すれば、同線も新幹線ホームの地下へ引き込める。京葉線はそのまま地下を北上して神田駅北側で地上に出て中央線と接続すれば利便性の向上と共に、現中央線神田駅付近の線路に山手線・京浜東北線が移動でき、東海道線と東北本線・高崎線で直通運転を行うための用地が確保できる。
・ 欠点としては新ルートを3500m(人形町駅で再合流する場合)、もしくは4600m(浅草橋駅で再合流する場合)ほど造成し、運行中の東京駅の地下に新駅舎を建設する(現在横浜駅で行われている、東急東横線の駅を地下に移動し、新設される地下鉄みなとみらい線と接続するための工事から想像すると、技術の進んだ現在でも相応の工事が必要になると予想される)ということ以外にも、この区間を既存の都営浅草線とどのように分けて取り扱うか、ということである。この区間を都営浅草線として扱った場合には、現ルートを廃止することも難しいと考えられるため、この新ルートを経由する路線と現路線を併用することになり、東京駅を経由することを希望する通勤客との分離が難しい。逆にこの区間を都営浅草線とは別に扱うとなると、新橋駅と人形町駅(もしくは浅草橋駅)で都営交通の車掌や運転士と交代する必要があり、その分停車時間が長くなってメリットが半減する。現在は法的に難しいようであるが、使用する都営浅草線の線路や設備を都営交通からレンタルすることができるのであれば、ダイヤの調整は必要なものの、例えば京浜急行線や京成線の車掌や運転士がそのまま急行や特急で運行し、必要最低限の駅だけに停車する、もしくは東京駅以外はノンストップで運行することが可能となり、通勤客との分離が図れると考えられる。
・ 北総・公団線は京成線と直通運転を行っており、京成高砂駅から分岐して千葉ニュータウン方面の印旛日本大学まで完成している。これをさらに伸延して成田空港へ乗り入れることが計画されている。京成本線やJR総武線・成田線がかなり迂回した経路で成田空港へ至るのに対し、このルートではほぼ直線で成田空港と結ぶことができるため、成田空港へのアクセス向上として期待している。未整備区間は郊外のため、早期の実現が見込めるように思われるため、早急に整備を開始して都内や羽田空港への直通ルートの設置を行い、羽田と成田の併用を加速することが望ましいと考えている。
・ その他にもりんかい線や東海道貨物支線を羽田空港へ伸延して旅客化するアイデアなども提案されているようであるが、これらについてはここでは述べない。
< 首都圏第3空港計画、並びに羽田空港再拡張案について >
・ 米国で発生したテロ事件以降、一時的に航空需要が激減していることは周知の事実であるが、長期的には航空需要が高まることは必至と考えられる。「首都圏には現状以上の航空機の発着枠が必要となるため、羽田・成田に加えてさらに新しい滑走路が首都圏に必要」という提言には賛成であるし、現実的にも希望の時間に目的地までのフライトがないこともあり、時間の無駄を体験している。また、個人的には成田空港までのアクセスにかなり時間がかかることもあり、もし羽田から(台湾以外の)海外へのフライトが運行されれば、非常に便利である。
・ 羽田以外に新たな空港を整備することに関しては、新空港の建設や整備に莫大な資金が必要となり、行政改革の必要性、財政再建が叫ばれているこの時期に新たな空港建設を行うことは、一納税者として反対したい。また、それにともなう増税や運賃の値上げにも反対である。空港が開港することで及ぼされる経済波及効果を考えても、費用がかかりすぎるのであれば経済効果の面からも得策ではないと考えている。
羽田空港拡張案について、個人的には居住地・勤務地などの関係から、国内便・国際便を問わず羽田空港が便利になることには大賛成である。しかしながら現在検討されている羽田の再拡張案には一長一短があり、どれが良いか、他により良い案がないかも含めて迅速かつ適切に判断していく必要があると思われる。以下にその各々の案に対する個人的な見解を記す。
・ B滑走路並行案についてであるが、羽田空港北側の陸地上空を飛行することが難しいため、新C滑走路の南側(多摩川河口付近)に現B滑走路と並行して新滑走路を建設する案が有力視されている。東京湾を航行する大型船舶のために設定されている第一航路との関係から、滑走路を建設可能な場所の選定が極めて困難であることは理解できるが、これに関しては以下の疑問点が残る。
l 第一航路との関係から滑走路の距離が制限され、大型機が長距離運行するために必要な滑走距離が確保できないのではないかと懸念される。発表されている図で見る限り、B滑走路並行案の滑走路はB滑走路と同じ2500m級であり、これでは大型機の長距離運行が困難である。
l 元来、空港はその地の風向きを考慮して滑走路の向きが決められているはずであり、東京を含む南関東地域では冬季に吹く北北西の強い季節風に対応できるよう、羽田空港では旧滑走路と現滑走路で若干方位に差はあるものの、主滑走路はおおむね北北西・南南東向きになっている。
これに反し、B滑走路は横風用とも呼ばれるように、強い東風や西風が吹く状態でも安全に航空機が離着陸できるように用意されているものであり、通常の風向きのときに使用するということは離着陸の際に横風を受けることになってしまい、安全な離着陸が行えるのかどうか疑問である。
l B滑走路と平行な滑走路を増設することで、滑走路の独立運用が可能となり、発着枠の大幅な増加が望めるというのがこの案の骨子であるが、現B滑走路もそれに平行な新滑走路もどちらも現A滑走路や現C滑走路に接するかその延長線上にあるため、完全に独立した運用は不可能だと思われる。つまり、B滑走路に平行な新滑走路に海側から着陸する際はC滑走路から南向きに離陸する便と交錯するため、新滑走路への着陸を待ってC滑走路からの離陸を開始しなければならず、もしくはゴー・アラウンド(着陸のやり直し)も視野に入れて安全性を考えるのであれば、AとC、Bと新滑走路の組み合わせを交互に使用する形態となるため、かえって運用が複雑になる。例えば南風の場合で考えると、新滑走路への着陸を待ってA・C両滑走路から同時に離陸を行い、A・C滑走路からの離陸が完了した時点で次の2便がB滑走路と新滑走路へ同時に着陸を開始する、という運用となるわけである。これは、首都圏第3空港の候補地提案として在日外国航空会社協議会が主張する「C滑走路を横切る走行経路を設定するのは、新しい滑走路の能力を制約し、かつ、安全上も問題」という点とも合致する。
・ 定期航空協会提案のC滑走路並行案として提唱されているものは、現C滑走路と並行に、その950m沖合に新たな3000m級滑走路を建設するという案であるが、それに対する当時の政府の見解として、
l 環境基準を満足させるために、北風時に離陸する航空機の飛行ルートは東側に一本しか設定できない。
l 第3の平行滑走路を設置すると、東京湾の第1航路の一部を塞ぐこととなり、コンテナ埠頭および海上交通に重大な影響を及ぼす。
つまり、北風時は離陸後に右旋回するため、複数の滑走路があったとしても離陸後の航路が重なってしまって発着枠が増やせない、よって羽田空港の再沖合展開は極めて困難、とされている。これについては、離陸直後の航空機の高度や飛行コースを工夫たり調整することで、問題を回避することができるように思われるため、C滑走路並行案を否定するための作為に満ちた見解に聞こえてしまう。
しかしながら、C滑走路から950m沖合に展開することで生じる第一航路への影響(航路が狭くなり大型船の通行が制限されるなど)に関しては、地図などで見る限りうなずける面もある。また、説明文は見つけられなかったが、開示されている図から現C滑走路と沖合展開滑走路との間に新たなターミナルを設置し、それを建設中の東旅客ターミナルと(新交通システムか何かで)連絡して運用するようであるが、地上交通の面から考えると直接道路やモノレール、京浜急行線にアクセスできないため不便である。
・ 東京都提案のC滑走路並行案は、現C滑走路と並行に、その1310m沖合に新たな3500m級滑走路を建設するというものであるが、定期航空協会提案以上に沖合に展開することとなるため、第一航路に対する影響が、よりいっそう懸念される。
しかしながら、桟橋方式の採用や旧ターミナル地区を国際線用ターミナルとして利用する部分に関しては、環境への配慮や空港の有効活用といった点でうなずけるものがある。ただし国際線が運行できたとしても国際線の航空機は国内線に比べて長い滑走路を必要とするため、沖合に展開した3500m級の滑走路を使用することになり、国際線の出発時や到着時に滑走路とターミナル間の距離が長くなってしまうことになる。つまり、最も沖合の滑走路を使用する航空機が最も陸側のターミナルを使用するため、空港内の航空機の移動が長くなり、空港内の混雑の原因となることが懸念される。
・ 安全都市調査会の羽田空港機能拡充案は、現A滑走路とC滑走路の方位をほぼ南北方向に変更するというものである。これは多摩川対岸の浮島地区を公園化してコンビナートを移転することを前提にしているため難しい面もあるが、空港北側の有効活用という点では評価できる面もある。
この案ではA・C滑走路そのものの向きを変えるようであるが、逆にA・C滑走路はそのまま使用し、その各々の滑走路に交差する形で新滑走路を設置すれば活用方法が広がるのではないだろうか。つまり、海側にも陸側にも各々2本の滑走路をX型に配置するわけである。北風の場合は新滑走路から離陸を行い現滑走路へ着陸する。南風の場合は現滑走路から離陸を行い新滑走路へ着陸する。もちろん、滑走路が交差するため離着陸の独立運用は行えない。必ず着陸が完了して誘導路へ退避してから離陸を行うという運用になるのであるが、風向きもある程度視野に入れた計画であり、空港北部に独立運用可能な飛行ルートを設置さえできれば、陸側と海側の独立運用が可能なはずである。
< 羽田空港再拡張私案 >
以上の考察をもとに、私なりに羽田空港の再拡張案を考えてみた。この案の特徴と骨子は、
・ 地元との共生
・ 再拡張資金の抑制
・ 第一航路への影響を低減
・ 24時間運用での有効活用
・ 長距離国際線や長距離国際貨物便の運行
の5点であり、運用・供用できるようになるまでに必要な期間を考え、段階に分けて再拡張を行うというものである。もちろんこれらの整備は、施設・装置などのハードウエアだけではなく、航空管制やCIQなどソフトウエア面の用意も同時に進めなければならない。
・ 第1段階は、特に拡張を行うものではないが、施設の充実と新たな飛行ルートの開拓で羽田空港の発着枠を広げるものである。
・ A滑走路の活用拡大
- 暫定的にA滑走路を南端から2500mのところまでとする。
- A滑走路を最大限に活用できるよう、空港北部のさまざまな飛行ルートを多角的に検討し、その実現に必要な航法支援装置を設置することで、視界の良くない南風時でもA滑走路へ北側から着陸できるようにする。このとき、南風時に北側からC滑走路へ進入する航空機と充分な距離が確保できる飛行ルートを複数設定することが重要であるが、まだこの段階ではA・C滑走路の完全な独立運用はできないかもしれない。
- A滑走路の運用:京浜島への影響を配慮した運用を前提とする。騒音の少ない海上保安庁や離島航路をはじめとするプロペラ小型機、小型ビジネスジェット機は原則としてA滑走路を使用することにし、C滑走路ではまかないきれない中型・小型のジェット旅客機もA滑走路を使用できることにする。
- C滑走路の運用:大型ジェット機は原則としてC滑走路を使用することにし、中型・小型のジェット旅客機もできる限りC滑走路を使用することにする。
・ 木更津の騒音対策
- 東京湾アクアラインの風の塔(川崎人口島)や南本牧、都内都市部など、適切な位置に航法支援装置を設置し、木更津上空を経由しなくても羽田へ侵入できるルートを併用できるようにする。
・第2段階は、若干の拡張改良でA・C滑走路の独立運用を目指す。
・ C滑走路の位置変更
- C滑走路南端のオーバーランエリアと桟橋方式を利用し、C滑走路を南南東に1000m〜1500m伸延する。なお、通常の運用は、その南端から3000mとするが、深夜早朝などA滑走路を使用しない時間帯には全体で4000m滑走路として使用できるようにする。
- このとき同時にC滑走路南端に隣接する整備用エプロンも同じく桟橋方式で南南東に移動して空港南東部にあたる同地区に駐機スポットを増設する。
・ 江東VOR/DMEの位置変更
- 現在中央防波堤内側埋立地東端に設置されている江東VOR/DMEを中央防波堤外側埋立地の東端に移動すると同時に城南島に設置してある航空機進入路指示灯も同様に南南東の空港島北端へ移動する。これにより、南風時のC滑走路への進入ルートが南側に1000m程度移動するため、A滑走路北部の飛行ルートとの距離が確保できる。
・ 独立運用の開始
- 以上の変更で、南風時にA滑走路とC滑走路へ進入する飛行ルート、並びに北風時にA滑走路とC滑走路から離陸する飛行ルートの間に充分な距離が確保されるので、陸側・海側の独立運用が可能となる。なお運用は、第1段階と同じように小型プロペラ機やビジネスジェット機をA滑走路、大型機をC滑走路に制限することで騒音対策とする。
・ 騒音対策
- 市街地に近接するB滑走路の北西側へ、裏手に事務棟を併設した長屋形式の格納庫を設置し、海上保安庁と小型機用のエリアとして供用を開始する。また、可能であればこの地区に小型機専用のターミナルも併設し、旅客の分離を図る(このターミナルへのアクセスには天空橋駅を利用)。
・ 第3段階は、既存施設の復活で陸側発着枠の増加と効率的な運用を目指す。
・ A補助滑走路の設置
- 現A滑走路の西側約380m(西側誘導路の西側約190m)の位置へ、A滑走路と並行にA滑走路の補助滑走路(2500m)を設置する。その南端は環状8号線付近、北端は空港島(現拡張部)北西端となる。この補助滑走路を設置するには、空港アクセス道路の地上開口部をさらに西側に変更する必要がある。また必要であれば、環状8号線も地下化することを検討する。なお、この補助滑走路の完成時点でA滑走路を現在の3000m運用に戻す。もしくは、現西側誘導路を滑走路化し、その西側に新たな誘導路を建設する。この新滑走路の長さが2500mでは不足するのであれば、その南北を埋め立てるか桟橋方式で3000m級に伸延することもできる。
- 南風時の運用は、離陸用として現A滑走路、着陸用として補助滑走路を使用する。これは、補助滑走路に着陸することで京浜島を避けて京浜運河の上空を飛行できることと、補助滑走路から離陸した場合は対岸の浮島フェリー埠頭が障害となることを防ぐためである。つまり、A滑走路との独立運用は考えず、それをセットとして運用の効率化を図るという考え方である。
- 北風時の運用は、離陸用として補助滑走路、着陸用として現A滑走路を使用する。この理由は南風時と同様である。
- この拡張と運用で、多少ではあるが南風時にC滑走路へ進入する航空機との距離をさらに確保できるようになる。なお運用は、第1段階と同じように小型プロペラ機やビジネスジェット機をA滑走路、大型機をC滑走路に制限することで騒音対策とする。
・ 現B滑走路の伸延
- 現B滑走路を埋立方式か桟橋方式で北東へ伸延し、3000m級の滑走路に変更する。これは、横風時に大型機がより安全に離着陸できるようにするためのものである。
・ 騒音対策
- A補助滑走路の西側へ、裏手に事務棟を併設した長屋形式の大型機対応格納庫を設置し、航空会社用の格納庫として供用する。
・ 第4段階は、沖合再展開で海側の発着枠増加と効率的な運用を目指す。
・ C補助滑走路の設置
- 現C滑走路の東側約190mの位置に誘導路、そのさらに東側約190mの位置(現C滑走路からは約380m東側)へC滑走路と並行に4000mの滑走路を建設する。ただしその位置は、この新滑走路の北端が現C滑走路の北端から2000mほど南南東にオフセットしたところとし、その建設には埋立か桟橋方式の採用を検討する。
- 運用方法であるが、南風時は現C滑走路へ着陸し、補助滑走路から離陸する。北風時は現C滑走路から離陸し、補助滑走路へ着陸する。つまり、C滑走路との独立運用は考えず、それをセットとして運用の効率化を図るという考え方である。これは、ターミナルとの移動距離が少なくなる方を採用した。しかしながらA滑走路北側の飛行ルートとの距離をさらに確保する必要があるのであれば、もしくはより海側にA滑走路北側の飛行ルートを寄せて騒音対策を図るのであれば、この逆の運用を行ったほうが良いかもしれない。
・ 新ターミナルの設置
- 現整備地区の首都高速湾岸線を挟んで海側に新ターミナルビルを建設する。このとき、国際線でも使用できるような構造としておく(国際線として使用するかどうかは政治的判断にゆだねる)。
- 東ターミナルに伸延したモノレールをさらに伸延してこのターミナル地下に乗り入れ、アクセスを確保する。また、モノレールの伸延に並行してターミナル間のアクセスを確保するため、無料で利用できる新交通システムも設置する(モノレールとの併用でも可)。なお、京浜急行線は線路の向きから伸延が難しいと考えられるので伸延しない(将来さらに技術レベルが上がった時点で伸延を行い、同社大師線まで接続する)。なお、この地区はビッグバード地下に展示されている「羽田沖合展開事業のマスタープラン」によると、東整備地区として格納庫が4棟建設される計画のようである。
・ 第5段階は、貨物地区と国際線の整備である。
・ 貨物地区の新設
- 京浜島の企業を集団移転し、その跡地を貨物地区として再開発する。
- 空港島とは専用の橋、もしくはトンネルで連絡する。これは国際貨物便が就航した場合に保税措置が必要となるためである。
・ 国際線の新設
- 第4段階で整備した新ターミナルを国際線専用として供用する。
・ 第6段階は、将来の展開構想となる。
・ 浮島地区の企業を移転し、現空港島の延長として利用できるようにする。具体的には、貨物地区、ターミナルビル、整備場などが設置可能で、さらに横風用滑走路の設置も検討できる。また地上アクセスとして京浜急行大師線の伸延と、空港線との接続なども検討する。
・ その時点での第1航路の使用状況から、さらに沖合へ展開して滑走路を増設することもできるかもしれない。
以上