ヒースロー空港のスライド運用


 今回の成田空港機能強化計画の内、夜間飛行制限で「運用時間のスライド制」を導入する事になっていますが、この「スライド制」はイギリスのヒースロー空港で実施されている「スライド制」をお手本にしたもののようです。

 そこで、ヒースロー空港の「スライド制」について、ネットで調べてみました。しかし、英文の文献もあり、間違っているところもあるかも知れません。
 まず、ヒースロー空港には写真のように、滑走路は東西に3902mと3658mの平行滑走路があります。他に、短い横風用滑走路がありますが、ほとんど使われていません。

 この点では現在の成田空港と似ています。しかし、ヒースロー空港は世界でも屈指の発着回数が多い空港で、年間に約45万回以上の離発着があります。

【スライド制適用は午前6時〜午後11時】

 また、ヒースロー空港は24時間空港ですが、午前6時00分〜最終出発便(おおむね午後10時59分)の間では、下図のように、午後3時00分で滑走路の離着陸を入れ替えます。この間は、1本の滑走路は着陸専用、もう1本の滑走路は離陸専用となり、ほぼ2分間隔で着陸と離陸がそれぞれの滑走路で間断なく行われることになります。

 これにより、午前6時00分〜午後2時59分までの約9時間は北滑走路(図の上側)の西側(左側)と、南滑走路(図の下側)の東側(右側)は静かになります。そして、午後3時00分〜概ね午後10時59分の約8時間は、逆に北滑走路の東側と南滑走路の西側が静かになる事になるようです。

 しかし、これには様々な条件があり、「ヒースロー空港ハンドブック」によりますと、下記のような例外が認められています。

1,滑走路の昼間のパターンは、夜間のパターンとは異なります。夜間は、着陸回数が少なく、離陸回数がほとんどありません(下記の説明を参照)

2,航空機が着陸して風に乗るので、風向きは飛行パターンに大きな影響を与えます

3,政府の方針は現在、西に向かって離陸する航空機に有利です。 東から風が吹いても、航空機はまだ東から飛んで西に向かって飛ぶことができます。 これは、私たちが西風の好みを持っているからです

4,歴史的な制限は、航空機が北側の滑走路から東に離陸できないことを意味します。 これは「Cranford契約」のためです

5,06:00〜07:00の間の時間は到着のための1日の最も忙しい時間ですので、両方の滑走路を着陸に使用することができます

6,悪天候や航空管制が着陸する航空機の爆発を避けたい場合には、飛行場のメンテナンスのために滑走路の変更を一時停止する必要があります

となっています。

 また、このパターンは2週間毎に切り替えていきます。この意味は、両滑走路の東西地域で騒音の負担ができる限り公平になるようにするため、とのことです。

【深夜・早朝時間帯の運用】

 問題の夜間(深夜・早朝)すなわち、午後11時30分〜午前5時59分は、政府により年間発着回数は5800回(1日当たりの平均で約16機)に制限されています。
 しかし、この内の80%は午前4時30分〜午前5時59分の到着便に集中しています。すなわちこの着陸時間帯を除くと午後11時30分〜午前4時30分には、1日約3機程度の飛行になる事になります。
 また、午前4時30分前の着陸は緊急時以外認められていません。午前4時30分前に、ヒースロー空港周辺に来た旅客機は待機空域で旋回することになります。
 さらに、午後11時00分〜午前7時00分には定期出発便を設定する事も認められていません。

 ただし、ヒースロー空港運営ハンドブックでは「夜間には飛行機の離陸や着陸がほとんどないため、私たちが東部であろうと西部であろうと、滑走路の変更の範囲が広がります。 北と南の滑走路の間で着陸を切り替えることができます。もし天候が許せば、東または西から航空機を持ち込むことができます。」とも書いていることからも分かるように、夜間の滑走路の使用方法は便数を除くと、空港管理者の意のままになる可能性が高くなります。

 このようなヒースロー空港の「スライド制」の理解が正しいとすると、ヒースロー空港のスライド制は「午前6時〜午後11時までのスライド制」であり、深夜・早朝時間帯の運用は別に決められている、と言うものになります。

 それに対して、成田空港機能強化計画の「スライド制」(下図)は午前0時半〜午前5時までの、深夜・早朝時間帯を除いたスライド制であり、ヒースロー空港と同じようなものとなっています。しかし、ヒースロー空港と決定的に違うことは、夜間の時間帯について、次章で述べるような、便数制限や機種制限は全くない、と言う事です。このように周辺住民に対する影響を考慮しない、憲法25条で保証されている「健康に生活する権利」を全く無視したものとなっていることです。
 下図は第44回騒音対策委員会各部会で配られた成田国際空港株式会社(NAA)の資料から採りました。

【成田空港とヒースロー空港との違いは】

 ヒースロー空港と成田空港の深夜・早朝時間帯への配慮の違いは、
 第1にヒースロー空港では発着回数は多いが、近距離便が多く低騒音小型機が中心(A320型機はヒースロー空港で約50%、成田空港では約25%など)となること、
 第2にヒースロー空港周辺の騒音に厳しい規制が科せられており、これを国として常時監視し、違反すると罰金が科せられること、
 第3にヒースロー空港では午後11時〜午前7時の間は騒音の高い「Quota Count(QC;数値が大きい程うるさい)」16と8の航空機の離発着を定期便化することを禁止し、同時に、午後11時30分〜午前6時はQC4の旅客機を定期便化することも禁止する、など夜間の騒音軽減に配慮していることです。

 成田空港では、上の図でも明らかなように、「スライド制」採用については明らかにされているものの、今の所、深夜・早朝の便数制限や機種制限や騒音値に対する規制などは全く明らかにされていません。

 なお、これらのことは2020年までに先行実施されるA滑走路の運用時間拡大についても、詳細は全く明らかにされていません。

【参考文献】「ネットで見るヒースロー空港の環境対策」(航空環境研究 2015年 No,19)

      「欧州空港における騒音問題への取り組みの現状」(航空環境研究 2015年 No,19)

      「主要空港における環境負荷の比較」(航空環境研究 2017年 No,21)

      「ヒースロー空港の滑走路の交代」(ヒースロー空港ハンドブック;英文)
       


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