平行滑走路供用開始後の標準飛行コースについて

平成10年8月 運輸省航空局 新東京国際空港公団

1.標準飛行コース設定の基本的考え方別図1参照)

(1)現在設置されている無線施設の電波が基本

1)航空機は、旋回等一部の場合を除き無線施設から出される電波を利用して飛行します。

2)無線施設は、空港や航空路の要所に設置されますが、成田空港を離発着する航空機の場合は次の無線施設を主に利用します。@VORDME(成田、佐倉、阿見、守谷、関宿、北総(計画中))ANDB(横芝、久住、多古(計画中))GVORTAC(銚子)

3)今回新設・移設される飛行コースについては、同様に無線施設を利用して設定することとなります。(注:VORDME及ぴVORTACとは超短波を用いて航空機に方位と距離を示す無線施設の名称であり、NDBは申長波を用いて航空機に方位を示す無線施設の名称です。)

(2)首都圏の膨大な国際航空需要等に対応できること

1)平行滑走路供用開始時における飛行回数は年20万回を限度としますが、その後の需要動向もみながら、地元との協議の上年間22万回まで増加させて頂くことが考えられます。今回の飛行コースは、このような首都圏の膨大な航空需要に対応できるものとして設定します。

2)なお、成田空港の周辺には首都圏の膨大な国内航空需要に対応する羽田空港の空域と、自衛隊機が使用する百里基地の空域が隣接しています。これらの空域も各々の航空需要に対応する必要がありますので、これら空域に影響を及ぼさないように飛行コースの設定を行います。

(3)地域への影響をできる限り少なくすること

1)現行の飛行コースを基本とし、平行滑走路の飛行コースの新設・移設は必要最小限とし、できる限り現滑走路の飛行コースに合流させています。

2)開港時において運輸省と地元とで約東しました次の事項は、引き続き遵守いたします。@離着陸に際し、九十九里から利根川までの間は、直進上昇、直進降下すること。A離着陸時を除いて、千葉県上空は6000フィート(約1800m)以上で飛行すること。G着陸機の待機経路は海上に設定すること。なお、進入復行(航空機が進入開始後に何らかの事情により着陸を断念した場合に進入をやり直すこと)については、平行滑走路供用後は、進入が行われている滑走路以外の滑走路から出発する航空機に影響を及ぼさないように、直進上昇させずに進入復行開始時点から左右に旋回させていただきたいと思います。(別図5参照)

2.北風運用時における平行滑走路の飛行コース別図2参照)

く1>出発コース

(1)利根川まで直進上昇し、左右に旋回後既存のコースに合流

 基本的には現滑走路の場合と同じです。但し、これまで現滑走路の左旋回(注:旋回の方向は航空機の進行方向に向かってのもので、以下の場合も同じです。この場合は、西側旋回を意味しています。)の飛行コースは殆ど使用していませんでしたが、今後は左旋回を活用していくこととするものと見込まれます。

(2)右旋回後、東南アジア等方面への飛行コースを新設

1)右旋回(東側旋回)時、航空機の飛行性能上無理のないように現滑走路の旋回コースに比べて少し東側に旋回コースを新設します。

2)右旋回後東南アジア・オセアニア方面に向かう飛行コースは、現滑走路と同様に横芝NDBに向けて直進を続けた場合、現滑走路を出発して左旋回して横芝NDBに向かう飛行コースと接近することとなります。このため、両コース上の航空機の安全間隔を確保ナる必要があることから、今回改定する飛行コースについては、横芝NDBに向けて直進した後、阿見VORDMEからパパス(南東方向に出発する航空機の通過点として航空路誌で定められている地点。空港の南東方向、約60Km)方面に出されている電波と会合する地点で旋回し、南方海上方向に向かうこととします。

く2>到着コース

(1)九十九里から直進降下コースを新設

 現滑走路の場合と同じく、九十九里から平行滑走路に直進降下する飛行コースを新設します。

(2)北米方面からの到着コースの一部を新設(両滑走路、別図4参照)

1)現在の北米からの到着コースは、銚子沖の海上から銚子VORTACに向かうものです。到着機が多くて順番待ちとなる場合は銚子沖の東方海上に設定している2箇所の待機経路で待機します。

2)この2箇所の待機経路(東側:アリーズ、南東側:リブラ)は、現在近接した状況にあり、現在でも混雑時においては、安全間隔の確保上その間隔を広げる必要が生じています。このため、まず平成10年度内を自途にリブラを現在より更に沖合に移設して両待機経路の間隔を広げる計画です。

3)このような処置をとっても、現在の北米からの到着コースは、他の到着コースと銚子付近で競合しており、平行滑走路供用後の交通量増を想定すると、その対応が困難になることから、銚子付近の混雑を回避するためにアリーズも更に沖合に移設することとします。この場合、移設後の待機経路は百里空域と近接するため、待機経路は銚子VORTACの代わりに成田VORDMEからの電波を利用したものとします。

4)沖合展開した待機経路のうち、リブラからは引き続き銚子VORTACから発せられる電波を利用して到着コースに入りますが、アリーズからは成田VORDMEからの電波を利用して到着コースに入る必要があります。このため、北米方面からの到着コースを一部新設することとします。

3.南風運用時における平行滑走路の飛行コース別図3参照)

く1>出発コース

(1)九十九里まで直進上昇コースを新設

 現滑走路の場合と同じく、平行滑走路から九十九里浜まで直進上昇するコースを新設します。

(2)上昇・左旋回するコースを新設

 左旋回(東側旋回)時、航空機の飛行性能上無理のないように旋回し、成田VORDMEに向かうコースを新設します。

(3)上昇・右旋回後、既存コースに合流。また、一部接続コースを新設

 右旋回(西側旋回)後、既存コースに合流するコースを新設します。また、合流後、大阪・名古屋方面、中国・韓国・福岡方面、北海道方面へ向かう既存の飛行コースとの接続コースをそれぞれ新設します。

く2>到着コース

(1)利根川から直進降下コースを新設

 現滑走路の場合と同じく、利根川から平行滑走路に直進降下する飛行コースを新設します。

(2)到着機の集合地点を東側へ2マイル移設(両滑走路)

1)現在、各方面からの到着機は順次高度を下げ、霞ケ浦南端上空6000フィートの地点(レイクス)に集合させた上で到着させていますが、このレイクスを東方に2マイル(約3700m)移設します。これは平行滑走路に向かう到着機について、最適降下率に関する国際基準(航空機の飛行性能上無理なく降下させるための角度に関する基準)に適合させるための措置です。

・国際基準による最適降下率4〜8% ・現在のレイクスから平行滑走路に着陸する場合の降下率は10% ・移設後の新レイクスから平行滑走路に着陸する場合の降下率は約8%

2)このレイクスの移設に伴い、現在レイクスに集合している飛行コースを移設することとなります。また、レイクス付近の緊急時の待機経路も東方へ2マイル移設することとなります。

(3)ヨーロッパ等方面からの到着コースの旋回地点も移設(両滑走路)

1)ョーロッバ・北海道・東北方面からの到着コースは、現在成田VORDMEとレイクスを結ぷ線と会合する地点(コメット)でレイクスに向けて旋回することとしています。

2)レイクスの移設に伴い、この到着コースも変更する必要がありますが、現在のように成田VORDMEと新レイクスを結ぷ線と会合する地点で旋回することとした場合には鹿嶋沖の待機経路と接近し、安全確保上好ましくありません。このため、平行滑走路の供用開始後は横芝NDBと新レイクスとを結ぶ線がョーロッパ等方面の到着コースと会合する地点(新コメット)で新レイクスに向けて旋回することとします。

3)このコメットの移設に伴い、コメットと阿見VORDMEを結ぶ飛行コースも移設することとなりますc

(4)北米方面からの到着コースの一部を新設(両滑走路)

(2.北風運用時における平行滑走路の飛行コースのく2>到着コース「(2)北米方面からの到着コースの一部を新設」と同じ。)

(5)到着機数が多い時間帯には面的な運用(両滑走路)

l)平行滑走路の供用後は、理論上新レイクスに集合する到着機が3分以上の間隔で新レイクスを通過することができれば、新レイクス通過後の到着機の速度や経路のぱらつきを考慮しても安全上面的な運用を行う必要はありません。

2)しかしながら、平行滑走路の供用後は混雑時間帯には到着機が平均2分間隔で新レイクスを通過する事態が継続されることから、混雑時間帯には面的な運用を行う必要が生じます。

3)このため、新レイクスを通過した後、一定の安全間隔を確保する必要上航空機の速度や経路のばらつきを修正するために面的な運用を行います。また、新レイクス通過前(高度6000フィート以上)においても到着機の間隔が可能な限り等しくなるように、面的に運用します。

4.飛行コースの設定に伴う影響と対策

く1>航空機騒音

(1)22万回時でも航空機騒音の影響範囲は、現在の騒音対策区域の範囲内

 今回の飛行コースの設定に伴い、発着回数が年22万回となる時の航空機騒音の影響範囲を予測してみました。その時でも騒音の影響範囲は、現行の騒音対策を実施している区域内に納まります。(別図6参照)

(2)住宅防音工事は、8割以上実施済み。残る住宅も対応可能

1)第l種区域内の対象となる4968所帯のうち、既に4121所帯については、住宅防音工事を実施済みです(平成10年6月末現在)。

2)平行滑走路関連の住宅防音工事の対象世帯数は、この内1338世帯ですが、これについても既に5割以上にあたる744世帯を実施済みです。残る住宅については、申請を頂けば速やかに対応させていただきます。

(3)学校等防音工事・共同利用施設整備は既に実施済み、学校等の新たな整備計画にも対応

1)学校等防音工事は既に107施設について実施済みです(平成10年6月末現在)。また、共同利用施設の整備は既に133施設について実施済みです(平成10年6月末現在)。

2)学校等防音工事、共同利用施設について新たな施設整備計画があれば、基準に則して速やかに対応させていただきます。

く2>テレビ電波受信障害

(1)受信障害対策地域は2県28市町村

 テレビ受信障害対策地域については、現在、我が国において最も権威のあるNHK技術研究所のシミュレーションプログラムを用いて予測を行いました。その結果、テレビ受信障害の対策を必要とする地域は、現滑走路に係る対策地域を除く2県28市町村です。(別図7参照)

(2)対策は平行滑走路供用開始前に完了する予定

1)2県28市町村に係る対策は、後追いとなることのないように平行滑走路供用前に対策を完了する予定です。

2)テレビ電波受信障害対策は、住宅の屋根等に設置してあるVHFアンテナをUHFアンテナに切替える個別対策が墓本の対策です。しかしながら、山陰等により個別のUHFアンテナの設置では受信不可能な地域については、電波を受信できる地点に共同用のUHFアンテナを設置し、同軸ケーブルにて住宅まで配線する共同受信対策を行います。

3)なお、対策地域外については、平行滑走路の供用後に適宜、受信障害の実態調査を実施し、その結果を踏まえて、必要な対策を講じてまいりますq

く3>落下物

(1)最近5ヶ年間の落下物は年3〜4件

1)成田空港に係る落下物は開港以来20年間で計ュ16件で、このうち約7割(83件)・が氷塊です。落下場所は南側が約8割ですが、季節的には氷塊の落下物が秋から冬に発生することが多く、この季節においては北風のために南側から進入する場合が多いため、このことが南側の落下件数が北側に比べて多い原因と思われます。

2)これまで落下物対策としては、航空会社に対し出発地における航空機の整備・保守の徹底を指導してきました。また、北風運用時に南側から着陸する航空機について洋上脚下げ方式を導入しており、平成8年5月からはATl S(飛行場情報をパイロットに対して放送するシステム)によって、さらに洋上脚下げ方式の遵守の徹底を図ってきました。これらの措置により、一時に比べると落下物件数は減少しています。しかしながら、まだ根絶することはできず最近は年3〜4件程度発生している状況です。

(2)落下物対策の充実を

1)航空会社に対する指導

 本年2月、航空機落下物対策委員会が一定期間内の全到着機について着氷状況を調査しました。その結果から、氷着の原因として給水パイプ内の残留水や排水バイプ系統の漏洩が考えられたため、@給水作業実施時、給水パイプ内の残留水の水切りを徹底することA排水パイプ系統の漏洩について定期的に点検を行うことの2点について航空会社に対し指導したところです。

2)航空機製造メーカー等への要請

 本年2月に航空機落下物対策委眞会が実施した調査結果を踏まえ、航空機製造メーカーであるボーイング及ぴエアバス社に対して機体の構造改善に係わる検討を要請し、さらに製造国政府である米国達邦航空局(FAA)及ぴフランス航空当局(DQAC)に対してもこの旨を通知したところです。