環境影響調査計画書についての意見書

成田国際空港株式会社 エコ・エアポート推進室


                          平成17年11月 17日
                   成田空港から郷土と暮らしを守る会
                             会長 木内昭博


環境影響調査計画書についての意見書

 本会としては繰り返し表明してきたように、「平行滑走路は本来計画で2500m化すべきであり、今回の320mの北伸は騒音問題からも、空港機能の上からも問題がある。」との立場を取ります。
 さらに、今回の北伸計画は事業計画の変更に相当するものと考えられ、手続き上も疑念があります。
 しかし、今回の北伸計画が実施された場合、周辺住民に大きな影響を与える事を考慮して、環境影響調査法に準拠する計画書について意見書を提出します。先ず、計画書について見解を述べ、次に要望事項を箇条書きにします。

1 望ましい環境をめざし改良点を明らかにすること

 計画書は、法令等に準じて広く検討項目を上げ、おおむね妥当と考えられますが、初めに基本的な観点について見解を述べます。
 今回の計画書は、冒頭「地域と共生し」「環境に配慮する」と記述しています。この主旨はもっともで賛意を表明します。しかし、具体的な項目内容を見ると対象とする「地域」が狭すぎ「環境」の程度が悪すぎます。その典型例は、次項で述べる飛行騒音です。「地域」が求めている「環境」は、静かだった農村のたたずまいであり、環境基本法で定められた「望ましい生活環境」です。防音工事助成区域が適切か否かを問うような生活環境ではありません。
 参考資料として、平成10年7月17日に蓮沼村議会が国に提出した意見書の一部を添付します。蓮沼村の着陸騒音は平均70dB最大80dBを超えます。しかし、年間平均70WECPNL程度のため対策のないまま放置されています。
 さらに、今回は飛行回数の増加を伴います。同様の地域は広範囲に存在しています。第1種騒音区域の外側から届くこの悲痛な声に耳を傾け、騒音低減策を検討することが、今回の環境影響評価において必要ではないでしょうか。
 現実は、望ましい環境からの乖離が生じていますが、私たちは万全とは言えないまでも環境改善に期待を持って今回の意見書を提出します。
 その理由は、国土交通省が、昨年来の羽田再拡張に関する環境影響評価の中で、千葉県内の飛行高度を上げたり、飛行ルートを変更したりと思い切った改善策を講じたからです。
 真の共生、望ましい環境をめざし、広い地域について少しでも改良点を明らかにできるよう計画書を改訂されることを望みます。

2 飛行騒音の対象区域を65dB 以上とすること


 計画書は、調査及び予測地域を「騒音に係る環境影響を受けるおそれがあると想定される地域として第1種騒音区域の範囲内とする」と限定し、但し書きとして「より広域の情報を得るため、(現行の)航空機騒音測定地点も対象とする」と記述しています。
 また、評価として「騒防法に基づく騒音区域等との整合が図られているか否か検討する」と限定しています。これらの見解は「騒音に係る環境“基準”」が念頭にあると推察されますが、そうであるならば「第1種騒音区域の範囲内」ではなく、但し書きを削除し「騒音に係る環境基準1類型70WECPNLに相当すると想定される周辺区域を含めた範囲内」とすべきでしょう。
 計画書は、対象地域を限定し過ぎています。航空機騒音に係る環境基準は、「逆転」現象を契機に環境省において見直しが進められています。WECPNLがゾーニングに果たした経緯は評価できますが、被害感との不一致が指摘され、WHOなどから高騒音機の規制が提唱されています。1日100機を超える70WECPNL地点の騒音値は、およそ60〜80dBです。60dBを超える騒音が会話や睡眠を妨害すること、騒音規制法の特定施設の許容現度等を考慮すると、航空機騒音が65dBを超える地域を「環境影響を受けるおそれがある」と改めることが必要です。

3 各種影響の変動幅と最大値も検討すること


 計画書は、予測手法を「個々の航空機の騒音レベル及び便数から騒防法施行規則の算定方法によりWECPNLを算出する」と記述しています。現行法に依拠することも一つの手法ですが、前項でも述べたようにWECPNLは問題視されている評価法です。
 近年、騒音下の人々や自治体が求めている要素は、WECPNLではなく1機ごとの騒音値です。最近、羽田再拡張の方法書についても、事業者の国土交通省は、飛行高度とともに機種ごとの騒音値を提示し説明しました。
 「個々の航空機の騒音レベル」は、計画書の記述通り予測過程の基礎データです。この値が公表され、羽田再拡張の方法書と同様に、また計画書が記述している通り『回避、低減されているか否か』について評価することが必要です。その際、機種別の騒音設定値は実測値による検証を行なうことを明記する必要があります。このことは、羽田再拡張の国土交通省説明設定値が千葉県の実測値より低かった経緯があるからです。
 なお、飛行コースの変動幅が対象とされる点は同意できますが、同様に高度のずれ、騒音値の高低幅、低周波騒音の高低幅、大気汚染濃度の高低幅についても対象とすることが必要です。
 「配慮された環境」の指標は、平均値だけでなく最悪値も指標です。WECPNL値についても、年間平均値だけでなく、日最大値の予測・評価を行うことが必要です。

4 飛行コースを複数検討し改善すること


 羽田再拡張に関して国土交通省は、浦安市、千葉市、木更津市の上空3000フィートの進入高度を4000あるいは5000フィートに上げることにより、騒音値を72dBから69あるいは66dBに低減すると説明図を提示しました。
 成田空港周辺でも、騒音の影響を小さくする飛行コース及び方式を複数案設定し検討することが必要です。そうしないと、計画書の記述『環境への影響を回避、低減したのか否か』検証ができません。
 たとえば南側から進入する場合、ORIONの位置を更に沖合へ移設し横芝町南部の進入高度を上げる案、またディレイド・フラップ進入方式案について、騒音がどのように変わるのか、比較検討して下さい。
 一方、朝日新聞(11月3日)はLAKES高度6000フィートを4000フィートに下げる案が検討されていると報道しました。現行の降下率は国際基準の8%以下であり、320mの北伸で変更する理由は存在しません。騒音を強化する逆行措置は絶対に認められません。
 なお、飛行コースのズレを対象項目に選定したことは賛成できます。しかし、対象区域が「コース幅を設定した利根側から九十九里浜とする」案は狭すぎます。飛行コース幅設定の際、運輸省航空局は「改めて旋回部分における飛行コース幅の設定ついて検討する・・」と説明しました。
 かって佐原市が測定した旋回前後の飛行コースズレは南北およそ8kmに及び、最近は浦安市が測定した北向便のズレは東西およそ5kmに広がっています。成田空港の飛行コース航跡図では茨城県南部の到着機は幅10km以上に及んでいます。高度6000フィート以下のコースズレと高度の実態を調査し、環境への影響を低減する方策を検討することが必要です。

5 その他の環境保全と悪影響の除去


5-1 低周波騒音は、接地気温逆転との関連も明らかにする必要があります。気象条件の異なる四季ごとに低層気温測定も行って伝搬状況を解析し、最悪条件の予測も行う必要があります。

5-2 空港は検疫体制が整えられていますが、外国との接点です。動植物を介したり汚水に含まれて病原菌が広まる可能性が常時存在します。韓国の仁川空港では今年だけでも航空機の汚水からコレラ菌が複数回検出されているとの報道もありました。航空機の汚水の検査と汚水処理の経路毎の検査を実施して影響を把握して下さい。

5-3 成田空港周辺は広く農村地帯です。1期工事では土砂運搬車の砂ほこりで稲穂が影響を受け、輸送道路の損壊、沿道の振動被害もありました。最近ではビニールハウスの汚れが調査されました。小河川の汚水も農業者の重大関心事です。

5-4 空港周辺には工業団地も多くなり大型車による児童・生徒の通学等の安全が懸念されます。
  加えて工事用車両等が増加します。その走行最大時を評価されることは適切であり安全対策に万全を期して下さい。

5-5 貴重な湧水の調査と予測は、地下水位との関連で是非正確に実施して下さい。

5-6 地下水位の調査、予測は地盤沈下との関連でも評価が必要です。

5-7 遺跡等は「認められない」として調査項目の選定外となっています。しかし、空港周辺は古墳が点在する地域です。文献などだけで「無し」と判断する点に懸念が残ります。リモートセンシングの利用などで、もう一度確認して下さい。

5-8 多古町桜宮自然公園でサシバが確認されています。バードストライクの関連もあり、調査・予測範囲を広げる必要があります。

5-9 電波障害は対策地域図西側の成田市西部、富里市、八街市、山武町西部などについて、影響有無の検討が必要と考えます。


要望事項

 以下に計画書の項目、手法に加える要望事項を列挙します。

 一連の環境影響評価手順に関し、準備書に相当する「とりまとめ書」について意見書の提出を計画書に明示すること。

 飛行騒音の対象地域は騒音レベル65dB以上、飛行コースの対象地域は高度6000ftまでとし、佐原市、神崎町、栗源町、栄町、成東町等も対象とすること。

 飛行騒音予測は、2010年、2015年度について行い、当該年度に予想されるチャプター3及び4の比率も公表すること。

 飛行騒音レベル(dB)を地点ごとに機種別、飛行態様(離陸と着陸別、水平飛行と降下別。以下同じ)別、時間帯別に調査、予測すること。評価として、騒音レベルの低減量を示すこと。

 飛行回数を、地点ごとに機種別、離陸と着陸別、時間帯別に調査、予測、評価すること。

 機種別・飛行態様別・飛行高度別の騒音設定値、及び設定値を実況値により検証した結果を準備書において公表することを計画書に明示すること。また、地点ごとの騒音予測値を算出する距離減衰式を計画書に明示すること。

 評価値はWECPNLの他に、参考値としてLden及びLaeq も算出し準備書に明示すること。

 基本的な予測値である飛行騒音レベル(dB)、飛行回数、WECPNLについては、それぞれの値の変動頻度についても調査、予測、評価すること。また、環境に与える影響が最悪となる条件時における一週間平均値及び一日最大値も予測・評価すること。

 飛行コースや航空機の種類等の予測条件の設定は、代表的な条件のみを想定するのではなく、複数の案を検討し、それぞれ設定理由を明示すること。

10 飛行コースのズレは、高度6000ftまでの位置ズレと高度ズレを調査、予測、評価対象とすること。

11 飛行コースは、到着コースは飛行断面を図示し、出発コースも平均高度と最低高度を図示すること。この図に、脚下げ位置、デレイドフラップ方式と騒音低減離陸方式の操作位置も明示すること。その際、南側進入の洋上脚下げを遅らせた影響についても比較検討し評価すること。なお、上昇率の低い離陸機は高騒音をもたらすので、騒音低減の強い措置を検討すること。

12 LAKES高度6000ft を4000ftにする案は、絶対的な安全上の理由がなく、環境悪化をもたらし認められない。

13 横芝町南部と蓮沼村東部の騒音を低減するため、ORIONポイントを遠くして内陸3000フィートの水平進入を4000フィートからの降下進入に変更することを検討すること。

14 大気質の予測は、寄与濃度の年平均値だけでなく、四季別に逆転層下の高濃度時の予測も行うこと。

15 窒素酸化物、浮遊粒子状物質等の調査地点に空港に隣接する多古町と富里市各1か所追加すること。

16 低周波騒音調査は、四季を対象とし、低層気温逆転との関連も調べること。

17 空港施設内の汚水検査に病原菌を含め、到着航空機の汚水についても検査すること。

18 資機材等の運搬経路をさらに遠方まで明示し、道路損壊も含め影響を検討すること。

19 ビニールハウス、農作物の汚れについて、航空機の排ガスによるものか自動車の排ガスによるものかX線や量子加速器による精密分析で再度調査対象とすること。

20 多古町桜宮自然公園でサシバが確認されているので、調査・予測地域を拡大すること。

21 遺跡の有無について、リモートセンシングや試験掘削などを計画書に採用すること。

22 電波障害対策地域図西側の成田市西部、富里市、八街市、山武町西部について、障害の有無を検討すること。
 

以上

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