10月18日の暫定滑走路公聴会での公述
成田空港から郷土とくらしを守る会 岩田事務局長
私は今回の暫定滑走路計画について、反対の立場から意見を述べたいと思います。
私は成田空港の建設計画が閣議決定された、昭和41年に、現滑走路の飛行コース直下にある千葉県立松尾高校に職を得ました。そして、計画の飛行コースを見たときに、飛行機の騒音が松尾高校の教育活動に大きな影響があることを直感し、成田空港の騒音問題に取り組み始めました。
以来、33年間、成田空港周辺の騒音問題に取り組み、現在、成田空港から郷土とくらしを守る会の事務局長をしております。
また、空港公団主催の騒音対策委員会の委員も勤めています。
さて、今回の平行滑走路の計画変更についてですが、次の3つの観点から見て、承認しがたいものと考えます。
第1点はこの計画が地元・周辺住民に取って、青天の霹靂だったことです。私から見ますと、反対派の一部住民のみを尊重した円卓会議の経過や、不十分な22項目の合意など不満はありますが、昨年の12月に共生大綱が発表され、住民は「話し合い解決の道が開かれた。」と喜び、平行滑走路建設については住民と十分な相談が行われるものと期待していました。
ところが、この共生大綱の発表から、半年しか経っていない今年5月に今回の暫定滑走路計画が突如発表されました。
これは、共生大綱の趣旨にも反しますし、成田空港建設がここまでもつれた原因である、国・運輸省の『住民を無視し、計画を発表してから押しつける。』と言う過ちの繰り返しと言わざるを得ません。
相談する、と言うのは平行滑走路について地元・周辺の住民と空港関係者が話し合うことで、計画を押しつけることではないと思います。
選択の余地を全く認めない計画は相談ではないのではないでしょうか。
第2に今回の暫定滑走路計画では暫定滑走路南端の平行滑走路予定地に生活ている人の直上を飛行機が飛ぶことになります。
運輸省は「土地を提供してくれないから、暫定滑走路は苦肉の選択だ。」と言っていますが、シンポジュウム・円卓会議の中でもこの人の意見を真剣に聞き出す努力はしてきませんでした。
また、円卓会議後の2年半の今日まで「平行滑走路建設のために協力してくれ。」としか言わず、白紙で、真剣にこの人の悩みや考えを聞く努力をしてきたとは言えません。
そして、今回の暫定滑走路計画は「話し合いの努力は続ける。」と口では言うものの、脇腹に匕首を突きつけて「土地を譲れ。」と言うに等しい行為です。
このような態度は成田空港の当初計画通りの完成を危うくするものでしかありません。『暫定滑走路』が『暫定』でなく、『恒久的な滑走路』になってしまう可能性が大きいと思います。
第3に暫定滑走路は滑走路として、非常に使いづらいものになることです。当初計画の2500m滑走路でさへ、長距離便には使えず「「国際空港の滑走路としてはとしては時代遅れ」と言う航空関係者もいます。成田空港を利用する航空機のかなりの部分を占めるジャンボ機が利用できません。
その上、2180mになるのでは万が一のアクシデントの際に、2500mなら防げた事故を、2180mと短いが故に誘発しかねません。
320mの差が“いざ”と言うときのパイロットのストレスを大きくし事故を誘発する可能性も否定できません。このことは、成田空港を利用する人たちの命にかかわる問題です。
さらに、ターミナルへの距離も遠くなり、時間的にも、飛行機の燃料の面でも、不経済なものになります。ひいては、排ガスによる大気汚染もひどくなります。
以上述べましたような3つの観点から今回の暫定滑走路計画案には賛成しがたいものがあります。
さて、私は成田空港の現状がこのままで良いとは考えていません。周辺住人の騒音被害を考えれば、「現状の1本の滑走路のままでも、」とも考えますが、世界を巡る航空界の状況や、飛行機が国民の足として定着している現状を無視することは出来ないと思います。
また、ここまで国費をつぎ込んだ成田空港を中途半端なままに終わらすことの損失は莫大なものがあると思います。
従って、周辺住人への十分な対策を取りつつ出来るだけ早く正規の2500m平行滑走路を完成させることがよりよい選択と考えます。
このために運輸省は、本当の話し合いの精神に立ち返って、暫定滑走路計画を白紙に戻し、地元・周辺住民と自治体関係者や運輸省・空港公団、また、成田空港ではたらく人たちなどが、一同に会して平行滑走路問題を白紙で話し合う機関を設けて、精力的に検討することを提案したいと思います。
私たち、成田空港から郷土とくらしを守る会はかって、円卓会議が開始される前に、運輸省の新東京国際空港課の方々にも,空港公団の方々にも「円卓会議がシンポジュウムの時のように、一部の反対派を中心として行われるのは問題がある。もっと、広い分野から反対の人も賛成の人も空港関係者も含めた会議にして欲しい。そうでなければ、将来に問題を残すことになりかねない。」と申し上げました。残念ながら現実はこの指摘の通りになっています。
回り道のようにも見えますが、成田空港問題の根本的な解決をはかる上で、先にも述べましたような、広範囲な人々が一同に会する検討の場を設けていただきたいと、切にお願いいたします。
成田空港を中途半端な空港にしないために、運輸省はこの暫定滑走路計画を直ちに撤回していただきたいと思います。
最後に、地元・周辺住民に対する対策について一言述べさせていただきます。
一部には「住民への対策はもう十分ではないか。」との意見もありますが、室内の防音対策を完全に行っても、自然の恵みを享受してきたこの地域の人々の生活環境の悪化は避けられるものではありません。
航空機騒音防止法の対策を実施したとしても、室内での騒音は、先頃改正された道路騒音の基準に比べて劣ったものです。また、1年中家を閉め切って生活できるものではありません。
さらに、外での仕事や屋外での教育活動への影響は避けようがありません。
従って、国が自ら16年前に達成すると定めた航空機騒音にかかる環境基準、すなわち、「成田空港周辺の航空機騒音を70WECPNLにする。出来ないときには民家防音などの対策をとる」の早期達成は最低限の義務と考えます。環境基準の1日も早い達成と、騒音地域なるが故の過疎化を防ぐ地域振興策に対する援助を運輸省にお願いいたします。
以上で私の公述を終わります。