空港公団民営化に関する要望書と回答

国土交通大臣 扇 千景 様

2003年6月5日

成田空港から郷土とくらしを守る会
会長 木内 昭博

 日頃から成田空港の円滑な運営と航空機の安全運航のために努力しておられることに敬意を表します。
 現在、国会で新東京国際空港公団の民営化について審議が行われております。
 私たち、成田空港から郷土とくらしを守る会としては、当初計画の2500m平行滑走路も完成していないこの時期の空港公団民営化は、これまで「国策」を旗印に成田空港建設を押し進めてきた国の責任放棄であり、認められないものと考えております。
 空港周辺住民は今回の民営化について、「営利追求が第一になり、周辺対策が疎かにされるのではないか。」との不安を抱いております。
 本会が実施したアンケートでも「民営化には反対」が40%、「周辺対策を充実させるなら、やむをえない」が32%となっており、「民営化すべき」は4%しかありませんでした。
 しかしながら、今国会中にも民営化法案が成立する可能性があるこの時期に、貴殿の考えている民営化について以下の点で要望と質問をいたしたいと考えます。
 お忙しいとは存じますが、よろしくお願いいたします。

質問事項

1, 騒音をはじめとする周辺対策についてうかがいます。
(1) 航空機騒音防止法や騒音防止特別措置法などの法律による事業は継
   続されるのでしょうか。
(2) 成田空港独自で行っている共生財団などの事業は継続されるのでし
  ょうか。
(3) 共生大綱は今後も空港と周辺地域の指針となりうるのでしょうか。
(4) 共生委員会は存続されるのでしょうか。
(5) 騒音防止特別措置法に関する基本計画など周辺自治体が計画し提起している振興計画に国や新会社はどのように責任を持つのでしょうか。
(6) 新会社は環境基準の達成など騒音対策のより一層の充実にどのような責任を持つのでしょうか。
(7) 周辺対策交付金は存続されるのでしょうか。

2, 民営化になったときに、滑走路などの空港本体とターミナルや格納庫や貨物上屋などの上物の固定資産税は現在とどう変わるのでしょうか。

3, 成田新高速鉄道や共生財団への民営化後の負担金などはどうなるのでしょうか。

4, 民営化になったときに、空港施設利用料や航空機着陸料はどうなるのでし ょうか。また、着陸料が引き下げられた場合、航空運賃は引き下げられるのでしょうか。

要望事項

1, 民営化後の周辺対策については現在行われている対策を担保するだけでなく、民家防音工事への再助成、谷間対策、環境基準の達成など対策の拡充についても担保していただきたい。

2, 周辺対策の拡充状況を定期的に点検するための国土交通省・新会社・千葉県・周辺自治体・地元住民・学識経験者なども入った第三者機関を設置していただきたい。

以上


要望に対する回答と質疑

 6月5日の午後4時から国土交通省航空局新東京国際空港課が応対してくれました。答えてくれたのは整備推進調整官と課長補佐でした。
 本会からは木内会長、秋山副会長、岩田事務局長、馬込成田市議、萩原芝山町議、鵜澤下総町議、桜井愛子会員、伊藤上人の8人で共産党の大森猛衆議院議員が同席してくれました。以下、回答とやりとりです。

☆要望書に対する全般の回答

調整官「政府の方針としてやることになった。昨年の12月には覚書という形で4者と80項目に及ぶ要望を受けて取り交わし、法案を提出した。
 法案の特徴は2つある。一つは本来の平行滑走路を整備すること、もう一つは従来からの環境対策・共生策を適切かつ、確実に実施することである。大臣が基本計画を決めて新会社がこれに基づいて設置管理を行ってもらう。最後には、国の監督命令でそれを担保すると言うことになる。
 環境対策については公団法には書いてなかったが、株式会社法にはこれを明記して、新会社はこれを肝に命じて事業運営をすることになる。これも、最後には国の監督命令で担保することになる。
 メリットは会社の自由度を高めてテナント運営など営利事業も行えるようにし、これを原資にして利用者負担の軽減も期待している。
 法案が可決されれば、平成16年4月1日から新会社になる。

1の(1)であるが、航空機騒音防止法・騒音防止特別措置法の対策は継続される。元々、空港公団がどうこうではなく、空港設置管理者が行わなければならないものなので、新会社が責任を持ち、国が監督して行うものである。

(2)共生財団については空港公団が出援しているものであり、会社法の中にも出援すると明記されているので、新会社が行うことになる。

(3)共生大綱についても新会社が継続することになり、約束を反故にすることはない、私ども国が責任を放り出すと言うことは考えていない。

(4)共生委員会については地連協が作っているものなので、我々がどうこう言えるものではない。千葉県でも見直す意向があると聞いている。

(5)騒音防止特別措置法の基本計画であるが、基本方針と言うことと思うが、地域振興については基本的には自治体が進めていく、私たちはそれを応援するという立場である。引き続きそのようなスタンスで進めていきたいと考えている。

(6)環境基準であるが、環境対策については法案の中でよりきめ細かく書いているので、後退することはないと考えている。しかしながら、環境基準の70WECPNLについては制度の谷間になっていて、達成するのはなかなか難しい。そこで、共生財団などの事業として少しずつやっている。

(7)周辺対策交付金についても法案の中で明記しているので、存続される。

2、の固定資産税については現在は滑走路など本体は半分に軽減し、利益の上がるターミナルなどはそのまま払っている。新会社になってからのことは今、税務当局と調整中で固まっていない。

3、の共生財団や新高速鉄道への負担金であるが、共生財団については新会社で出援することは新会社の事業として位置づけているので決まっている。成田新高速鉄道については財政当局から、「空港公団として負担する例があるのか。」と厳しい指摘を受けている。「負担金ではなく、寄付ではないか。」と詰められており、何とか負担金ということで認めてもらいたいと考えている。

4、の着陸料や施設利用料はコストに見合う形で、イーブンになるように考えている。しかし、着陸料については厳しい意見もある。私たちとしては、新会社の事業で利益を上げて引き下げが出来るように希望している。航空運賃をどうするかは航空会社の判断で私たちには何とも言えない。基本的にはコストが下がれば下がるはずではあるが。

要望事項の1点目であるが、周辺対策を拡充することにつては、各方面から多数の同じような要望が寄せられている。そこで、覚書として80項目にまとめた。この中で、現在実施されているもの、約束したものについては実施すると約束し、ここに書かれている、民家防音の再助成や谷間対策などについては完全民営化までに話し合い結論を出すことになっている。

2点目の監視する第3者機関であるが、現在でも成田空港には共生委員会や騒音対策委員会や4者協議会などが重なってしまっている。要望の第3者機関は共生委員会とかなり似かよっていると思っている。」

☆回答に対する質疑

成田新高速鉄道の負担金は何らかの形で出す

馬込「成田新高速鉄道についての考え方が今ひとつはっきりしないのだが。」

調整官「成田新高速鉄道については現在空港公団が出資金は出している。しかし、負担金は二百数十億円になる。財務当局は『成田新高速鉄道の必要性は分かるが、一般の会社が鉄道にお金を出す例は多くない。もっと根拠を示してもらいたい。』と言っている。私どもとしては『新会社にとっても成田新高速鉄道が出来れば、利益の上がる事業だから。』と説明をしている。」

「新会社は必ず利益が上げられる会社と考えている」

岩田「出資金の3000億円について、地連協などは『500億円ぐらいを地元対策に当てられるように残してほしい。』という要望を出していたと思うがどうなったのか。」

調整官「新会社の規模ならば、どのくらいの資本金が適当か考えた。資本金があまり多いと完全民営化の時に配当金を出さなければならず、資金繰りが苦しくなる。そこで、総資産の15%程度の資本金にしようと考えて出されたものだ。そこで、1兆円の資産と考え1500億円程度と考えた。しかし、まだ、財政当局との調整は出来ていない。残りの1500億円は財政上の問題もあって、無利子貸し付けし返還してもらう予定だ。」

岩田「空港公団の方もその線で納得しているのか。」

調整官「納得しているが、重傷急性呼吸器症候群(SARS)の問題が出て、『もう少し、なんとかならないでしょうか。』と言う話もある。」

岩田「周辺対策の原資はどのように担保されるのか。会社の利益が上がらなくなれば、周辺対策にしわ寄せが来るのではないか。それがなくても、谷間対策などの新規事業は出来なくなるのではないか。そのために、500億円の話が出てきたのではないか。これを、共生財団に寄付の形で出来ないだろうか。共生財団も出資金を食いつぶしている状態と思う。」

調整官「『利益が上がらなかったらどうなるのか。』とのことだが、国土交通省の試算では新会社は利益が上がると考えている。成田空港の需要も現在よりも下がることはないと考えている。重傷急性呼吸器症候群(SARS)が1年も続くと厳しい面もあるかもしれないが。新たな施策については完全民営化までに結論を出したい。完全民営化までは国が株式を持っているので、新会社を完全に監督できる。完全民営化後も法律の範囲で監督責任がある。」

秋山「1500億円を引き上げると言うことか。」

審議官「そういうことになる。」

馬込「3000億円貯まってきた、と言うことは逆から言うと『そんなにいらなかったのではないか。』と言うことになる。それだけの余力が出来たと言うことか。」

課長補佐「空港には莫大なお金がかかる。成田空港にも今までに2兆円ぐらいのお金がかかっている。空港の建設費用に対して政府の出資はその内2割程度になる。関西国際空港や中部国際空港などは海上空港のためもあるが、4割程度になっている。これを、将来の需要の拡大で回収しようと言う考え方だ。」

馬込「考え方は色々あるだろうが、地元としては『余力があったのなら、今まで、もっと周辺対策に回してもらいたかった。』と考えてしまう。」

調整官「周辺対策は国のお金ではなく、着陸料に上乗せして出しているものだ。」

民営化で国の責任はどうなるのか?

馬込「完全民営化になったら、法律上の国の監督権限はなくなるのか。」

調整官「これからの課題だが、特殊会社の段階ではまだ堅いところがあり、新しい事業を始めるときには国の承認を必要とするが、完全民営化ではもっと自由度を高めたいと考えている。しかし、国の監督責任が全くなくなると言うことではなくて、何らかの形で残る。」

岩田「我々としては、法律で決まっているものについては一応の歯止めがあるが、そうでないものについて会社が『経営状態から言って出来なくなりました。』と言うことが起こった場合に国としてどんな対応をしていただけるのか。」

調整官「環境対策については今回の法律の中にも細かく書いているので、それについては国も監督責任があり当然指導していくことになる。」

岩田「空港公団に人はすでに利益追求に頭が行っていて、新しい周辺対策などやる気がないのが見え見えだ。騒音対策委員会の質問に『周辺対策の拡充』と言う言葉を使ったら、公団の係の人曰く『拡充なんてとんでもない。“充実”にして下さい。』と言った。これでは周辺住民としては不安が募る。」

地域振興策への財源はどうなるのか?

萩原「地域振興には財源が問題になる。成田財特法も今年度で期限切れになる。このような、財源問題を今回の法律ではどう担保していくことになるのか。芝山町は芝山鉄道が開通したが、利用者が少なく、かなりの赤字が見込まれる。これに対して新会社はどう対応していただけるのか。」

調整官「財特法の問題については私どもと千葉県と一緒になって総務省に対して働きかけを一生懸命やっているところです。総務省の方も財政の健全化のために行政改革をしているところなので、『成田財特法だけをやるというのは立場として苦しい。しかし、特別な事情があるので、固定資産税が半分ではなく全額払うことになるのなら、財源は増えるのでは・・・』と言っているが結論は出ていない。」

萩原「芝山町が『財源的に恵まれている』と言うが使っていないからそう見えるだけだ。全町の7割が騒音下にあり、きちんと対策をとったらとても足りない。」

鵜澤「下総町は交付金を年間2億3千万円交付されているが、実際に騒音対策に使っているのは5億円で持ち出しになっている。その上、民営化で利益最優先になったら、もっと削られるのではないかと言う不安がある。しかも。平行滑走路は北側に800mずらされている。このようなときに民営化で国の責任を回避することに不安がある。環境基準が未達成である70WECPNL以上の地域については民家防音工事などの対策をしていただきたい。周辺対策交付金などへの影響はないのか。」

調整官「『2500m平行滑走路も出来ていないのに民営化するのはいかがなものか。』という点では同感であり、完全民営化は平行滑走路の完成の目鼻が付いた段階で行うのが適当と考えている。新会社では交付金を出す、と言うことを会社の事業と位置づけているのでこれまでよりも後退すると言うことはない。」

「環境基準の達成は努力しているが難しい」

岩田「先ほど、『第3者機関として共生委員会が適当』と言う意味のことを言いましたが、共生委員は住民代表として選ばれているわけではないし、住民として参加しているのはある派のつながりのある人が多い。これを第3者機関とするのは困る。もう一つ、“環境基準の達成”と言うことに対して国土交通省としてはどういう立場なのか。」

審議官「環境庁が目標として設置したものであるが、国土交通省としても達成できるように努力することになっているが、法律上は航空機騒音防止法の75WECPNLまでとなっている。しかし、成田空港は他の空港とは違うと言うことで財団や谷間対策を自治体にお願いするなどしているが、なかなか達成できていないのが現実だ。達成したいとは思っているが、方法が難しい。」

木内「75WECPNL〜70WECPNLの地域に不満のエネルギーがたまっているのが現状だ。」

秋山「WECPNLの単位自体が問題ではないか。頻度がなければ、いくら高い音を出しても良いと言う単位だ。」

調整官「確かに逆転現象が起こっている。環境省では『作った当時は概算で計算する単位だった。だから、現在のようにコンピュータで精密にはかると逆転するところもでる。』と言っている、しかし、これでよいと考えているわけではなく、『これから5年ぐらいかけて慎重に変更も視野に入れて検討する。』と言っている。」

「第1種区域の拡大は他空港とのかねあいで難しい」

萩原「第1種区域の拡大という事についてはどのように考えているのか。」

調整官「第1種区域の範囲を70WECPNLまで広げるとなると、成田だけではなく伊丹も福岡も、と言うことになり、非常にお金もかかる。だから、何もやらないというわけではなく、共生財団などを使って、住民の方々とどこで折り合えるのか、完全民営化までに考えていかなければならない。」

馬込「成田新高速鉄道の負担金については出し方が問題で出すこと自体には異論はないのか。」

調整官「出すこと自体には異論はない。寄付か負担金かが問題になっている。」

「有事の際も成田空港の利用は一番最後に考えられるのでは」

伊藤「成田空港から郷土とくらしを守る会や平和塔と交わした“覚書”や“軍事利用しない”と言う約束は民営化になっても守られるのでしょうね。」

調整官「成田空港は入ってくるのに色々難しい所がある。他の空港が使われるとしても、成田空港は一番最後になると考えられる。有事の際にも『要望もあるし、国会でも再三“軍事利用は難しい。”と答えている。』事などを当局に伝えて対応をお願いしている。」

萩原「時々、自衛隊機が飛来しているが何のためか。」

調整官「軍事利用はしていないはず。この間、インドの地震の支援の時利用したことがある。」

以上