提言 騒音評価式を改めよう

2004年2月13日        

成田空港から郷土と暮らしを守る会

 騒音機数が増えたら、うるささが減少した・・?。『逆転』と言われる現象が問題視されています。原因は、騒音を評価する計算式にあります。実態と計算式を解析しました。結果を報告し、緊急改善策として【評価式を国際式に改めるよう】を提言します。

1 騒音機数が増えたが・・うるささは???

 航空機騒音の大きさはdB(デシベル)という単位で測定しますが、うるささは騒音の大きさdBと騒音機数を組み合わせ、日本では「WECPNL」という式で計算します。「うるささ指数」とも言われます。『空港周辺はうるささ70以下にしなさい(環境基準)』と定められ、現在75以上の民家には防音工事費を補助することになっています。

 平成14年度空港周辺101地点で測定された資料を見てみます。新設された暫定B滑走路から一日平均122機も発着するようになりました。ところが従来のA滑走路延長線上地域では、暫定B滑走路側からの騒音を加えて計算すると、うるささの数値が下がってしまったのです。この『逆転』は成田市の西和泉、芦田、山室、芝山町の竜ヶ塚、谷と横芝町中台の6地点です。逆転はしないが、うるささ指数の増加が0.5未満、つまり『うるささの数値がほとんど増えない』箇所が下記の32地点もあります。

 茨城県:島田 根本五区 新利根 河内 田川 江戸崎 太田 町田 市崎 
     新利根土地改良 手賀組新田 

 千葉県:矢口 竜台 北羽鳥 北羽鳥北部 新川 磯辺 荒海 長沼 飯岡 大生
     芦田 中郷 赤萩 野毛平工業団地 芝山集会場 牛熊 上吹入 長倉 
     八田 木戸 蓮沼

 一方、B滑走路延長線上地域のうるささ指数は、A滑走路側の騒音機だけで計算した数値に比べ大幅に高くなりました。一見問題がないと錯覚しそうですが、逆にB滑走路側発着機のうるささを基準にして考えると、A滑走路側の騒音を加えてもうるささ指数の増加が1.0未満の箇所が下記の7地点あります。いずれもB滑走路延長線の東側です。大室測定局(公団)で捕捉した騒音機はB滑走路75機に対しA滑走路81機とほぼ2倍ですが、うるささ指数は0.46しか増えません。

 茨城県:金江津東

 千葉県:土室 大室(公団)、大室(県)、一鍬田、加茂、間倉

 このように空港周辺の実況を検討すると、うるささの数値に問題があることが分ります。騒音機数が増えても、うるささ指数の増加が1.0未満の地点は64%もあります。(平行滑走路AとBの間隔は2500mあり、空港の西側はB滑走路の騒音が捕捉できません。AとB双方の騒音を捕捉した77地点のうち、総合指数と単独指数の差が1.0未満は49地点=64%です)。

2 うるささの計算式が“おかしい”

 騒音機数が増えても、うるささ指数がほとんど増えなかったり下がってしまう原因は、計算式が“おかしい”からです。計算の方法を、分かりやすく解説しましょう。

 一日の騒音を、長さ24kmの道路にたとえます。道路の高さはおよそ40mですが、所々に高さ80mあるいは高さ70mの坂道が100個続くとき、この小山の高さだけ平均すると高さ73mになった・・とするとき・・ここでkmを時間に、メートルを騒音の単位dB(デシベル)に、小山の数を機数に読み替えます・・ただし騒音レベルは算術平均でなく対数計算をするので「パワー平均73 dB」といいます。

 次に、道路全体を全部真っ平らに地ならし、道路の高さが70mになったとします。全体の土砂量は変わりません。騒音も同じ意味で「等価騒音レベル」といいます。航空機騒音の場合は「ECPNL」といいます。

 さらに夜間の静けさを重視するため、夕方のECPNLに+5、深夜早朝に+10加算する
・・たとえば早朝6時に80 dBの騒音は90 dBとして計算することと同じですが・・
このように重みづけをして加えた平均値がWECPNLで「加重等価騒音レベル」といい国際民間航空機構が勧告した評価法です。ところが、日本では騒音値に加算するのでなく、夕方の機数を3倍に、深夜早朝の機数を10倍に加算する方法に変形して簡略化しました。前者を「国際式」後者を「日本式」と略記して比較検討してみます。なお便宜的に07〜19時を「日中」、19〜22時を「夕方」、他の時間帯を「深夜早朝」と略記します。

【試算1】 80 dB 200機と83 dB 100機と、どちらがうるさいと思いますか? 騒音差3dBの違いは耳では区別しにくい差ですが、うるささ指数は同じなのです。言い換えると、騒音を少しだけ小さくすれば飛行回数を倍にできる理屈です。実際A滑走路延長線地域のうるささ指数が、B滑走路側の騒音を加えてもほとんど増えないのは、このためです。

【試算2a】 日本式で試算します。元の騒音を一律80dB、日中75機+夕方18機+深夜早朝7機=1日100機とすると元のうるささ指数は76.0です。
ここに新たに日中91機+夕方9機=100機を加えた200機のうるささ指数は次の表の通りです。
表では新たな100機の騒音値を90から60まで5db(A)ずつ変えて計算してあります。

新たな騒音値db(A)

90

85

80

75

70

65

60
うるささ WECPNL

85.4

81.1

78.0

76.2

75.4

75.1

75.0

元のうるささに比べ

+8.4

+4.1

+2.0

+0.2

-0.6

-0.9

-1.0

【試算2b】 試算2aの条件を国際式で試算します。元のうるささ指数は76.7です。

新たな騒音値db(A)

90

85

80

75

70

65

60
うるささ WECPNL

85.1

81.3

78.7

77.4

76.9

76.8

76.7

元のうるささに比べ

+8.4

+4.6

+2.0

+0.7

+0.2

+0.1

+0.0


 試算2aでは、新たな騒音値74 db(A)以下の評価値が元の76.0より低くなり『逆転』しています。逆転が日本式計算法で発生し、国際式では発生しないことが分ります。

 
【試算3】 時間帯ごとに騒音値に強弱がある場合、国際式と日本式で試算します。一日の騒音回数は日中75機+夕方18機+深夜早朝7機=100機とします。

条件

国際式

日本式

a
騒音値が一日100機とも一律75 db(A)の場合

71.7

71.0

b
夜間(19-07時) 80 db(A)、日中(07-19時)70 db(A)場合

74.9

71.1

c
日中の25機だけ80db(A)、残り75機は70db(A)の場合

69.9

71.1

 試算3の注目点は三つです。
(1) 昼夜の騒音値がほぼ同じ場合は、日本式うるささ指数も国際式にほぼ一致します。
(2) しかし、試算bのように夕方・深夜早朝に高騒音が多い場合は、日本式うるささ指数は国際式に比べ3以上も低めに算出されます。民家防音基準75に達していない地域でも、国際式で計算すると75以上ということがあり得るでしょう。
(3) また試算bとcの日本式うるささ指数は同じ値です。高騒音機が、夕方〜早朝の夜間に多くても逆に日中に多くても、うるささが同じでしょうか?正規の国際式はbがcより5高いでしょう。新たに判明した日本式計算の重大な欠陥です。

 騒音値のアンバランスは、測定点の位置や滑走路使用状況、機種によって生じます。一般的に言えることは、夜間は高騒音をもたらす長距離の貨物便が多く、日中は比較的低騒音の短距離便が多く発着します。このため試算bのように評価値が低めに算出されている場合が存在すると推察されます。

3 緊急提言【計算式を国際式の騒音値補正法に】

 航空機騒音のうるささ評価法は、根本的に再検討する必要があります。本会は、この評価法が検討された1970年代初頭から問題点を指摘してきました。第1に『騒音を3db(A)だけ下げば(聴覚では判断できない)騒音回数を倍にしてもうるささ指数が変わらない』点、第2に『夜間に重みづけをしても、大きな騒音機が1機でもあれば安眠が保障されない』点です。新たに、日本の計算式が「逆転」を発生させ、また夜間の高騒音機を評価しないという二つの重大な欠陥が明らかになりました。

 評価法の根本的改訂は、研究と検討期間が必要となります。そこで本会は、緊急対策として評価式を次のように【国際式の騒音値補正法に】改めるよう提言します。

 WECPNL=騒音値のパワー平均+10 log 騒音機数―26

注1 算式の定数はー26.365 となるので整数位に四捨五入する。
注2 現行算式は、19〜22時の騒音機数を3倍に、22〜07時の騒音機数を10倍に加算するが、この補正を止め、騒音機数は実数のままとする。
注3 騒音値db(A)のパワー平均の際、新たに19〜22時の騒音値に+5db(A)、22〜07時の騒音値に+10db(A)補正する。 

以上