地域と共生する空港づくり大綱に対する見解

成田空港から郷土とくらしを守る会

                                         1999年2月10日

 運輸省と空港公団は昨年12月16日に『地域と共生する空港づくり大綱』(以下『共生大綱』と呼ぶ)を正式なものとして、周辺の自治体と住民に対し発表しました。

 今回発表された『共生大綱』は昨年の7月に発表された『案』に対して地域の自治体と住民から出された意見の内、「取り入れられるものは取り入れて修正したもの、」と運輸省は述べています。

 この『共生大綱』のうち、特に『エコエアポート構想』は従来にない、斬新なもので、ここにうたわれている空港内の環境に対する配慮はこれからの日本のみならず世界の空港建設にとって模範とするべきものと考えています。

 しかしながら、いくつかの点で留意すべき重要な疑問点があると思い、本会の見解を表明しておきます。

 本会は昨年7月にこの共生大綱の案が発表され、空港公団から説明を受けてより、この内容について慎重に検討し、昨年9月1日に「『地域と共生する空港づくり大綱』への見解と提言」を発表し、運輸省と空港公団に説明してきました。

住民の意見を十分に聞かずに、共生は成り立ちません

 私達は提言の第1に「今回の『共生大綱』をたたき台にして、十分な時間をかけ、住民の意向を反映する『共生大綱』にする。」事を提案しました。 しかし、昨年7月に『案』が発表されてから、運輸省や空港公団から「要望をいついつまでに出してほしい。」という期限の提示はありませんでした。周辺自治体の中には9月の定例議会で『共生大綱案』についての説明を行い、12月の定例議会で要望をまとめて運輸省や空港公団に提示する予定のところもありました。議会の日程からいえば、この程度の余裕があって当然と思われますが、12月定例議会の終わらないうちに、昨年12月16日の突然の「正文」発表でした。

 これでは、住民の意見を十分に聞くことにも、住民の要望を取り入れることにもなっていないと思います。運輸省が「期限を示さないこと」自体、真の共生を考えての大綱とは言えません。

 空港周辺の住民は日夜騒音に悩まされ、将来の生活に不安を持っています。この人達の意見や要望を聞かないで『共生』は成り立たないと思います。

 正文の発表の際に、「説明会を何回やりました。」と述べていますが、これは、もっぱら自治体や議会への説明でした。私達の第2の提言で指摘した、「住民への説明」もほとんど行なわれませんでした。

 また、私達の提言の第3の住民が心配している「成田空港の軍事利用はしない」と言う約束の再確認についても、全く触れられませんでした。

 さらに、提言の第4の「環境基準の早期達成」と言う事も、全く無視されています。

 提言の第5の「横風用滑走路については、その必要性も含めて再検討する」と言う点も全く考慮されず、「平行滑走路供用開始後に整備します。」としています。

 提言の第6の「地域振興策については自治体任せにせず、運輸省が責任をもて。」と言う点では、成田市と芝山町からの絞り込まれた最低限の要望は取り入れられていますが、他の町村についてはほとんど取り入れられていません。

 提言の第7の「新飛行コースの根拠となったデーターの提示」もいまもってありません。

 提言の第8の「飛行コースの幅は出きるだけ狭く」と、第9の「飛行コースの監視と、逸脱に対する制裁措置を」と言う点では、後に、詳しく述べますが、提言と逆行する案を示してきました。

 提言の第10の「九十九里浜にかかる待機空域を沖合に移動する。」提案も無視されています。

 提言の第11の「成田空域の拡大か、便数の削減を。」とする提言についても全く触れられていません。

 提言の第12の「環境のリアルデータの利用が誰でも出きるように。」と言う点は、空港公団の方では検討する意志はあるようですが、大綱では触れられていません。

 以上見てきましたように、残念ながら私達の提言に対してはほとんど考慮されませんでした。

 また、運輸省が、私達だけでなく、周辺住民が常日頃から要望していることについて、真剣に考慮し、出来ないならその理由を説明し、理解を得ようとする努力は見られませんでした。

共生大綱は今後の指針にはなり得ない

 このような経過を踏まえて、私達はこの『共生大綱』について、次のように考えます。

 第1は、運輸省と空港公団が「この『共生大綱』に基づいて今後の取り組みを進めてゆきたい。」としている点です。

 確かに『共生大綱』はかなり包括的なものであり、今後の指標となるものではありますが、この『共生大綱』が住民の要望の多くを取り入れ、被害を全て解消できるものではありません。 

 また、騒音を始めとする空港の公害は予想やシュミレーション通りになるとは限りません。

 さらに、今まで、運輸省や空港公団の方々は地域の住民の体験に基づいた指摘に謙虚に耳を傾ける姿勢が十分でなかったと思います。

このような点から、この『共生大綱』は今後の空港建設や周辺対策の指針とはなり得ません。

 すなわち、今後の空港建設や周辺対策を行なうに当たって、「これは共生大綱にあるからやる。」、「これは共生大綱に書いてないから出来ない。」と言うように使ってはなりません。

飛行コースは住民の意見を真摯に聞き再検討せよ

 第2に、『共生大綱』とともに示された『平行滑走路供用開始後の標準飛行コース』には大きな問題が含まれていると考えます。

 まず、『標準飛行コース』という言葉です。この『標準』という言葉には「飛行コースは1本の線ではなく、幅を持ったものなのだ。」とする運輸省の考えが色濃く出ていると思います。確かに、空にレールが引かれているわけではありませんから、幅が出てくるのは仕方がありません。しかし、騒音被害を拡大しないためには「飛行機は出来るだけ定められた“線”の上を飛ばなければならない。」と私たちは考えます。

 また、今回の飛行コースには『面的運用』という新しい考え方が示されています。これも、狭い空域の混雑を理由にして『飛行コース』という“線”を無視して飛ばせる、ということを意図していると考えられます。

 更に、後から現A滑走路の離着陸も含めて、九十九里浜から利根川までの直進上昇・直進降下の部分に扇型の幅を持たせることが発表されました。これについて、運輸省は「これで、飛行コース違反は良くなるだろう。」と言っています。

 しかし、今回発表された幅は住民が被害を訴えて是正を要求している現状の『飛行コースずれ』を抑制するものではなく、ほとんどの『飛行コースずれ』に免罪符を与えるものになっています。「利根川で2.5Km、九十九里海岸で4.5Kmまでは認めて、それ以上大幅にずれたものについて注意をしましょう。」というものに過ぎません。これでは、現在、飛行コースずれによる騒音に悩んでいる住民の悩みを解消することにはなりません。

 しかも、北側の利根川を越えて旋回して、千葉県に戻ってくるコースでは『千葉県再進入は高度6000フィート以上』という今までの約束を反古にして、『現滑走路では4500フィート以上、平行滑走路については1000フィート以上で再進入する』(下総町への運輸省航空局の回答)というのです。私たちはこんなでたらめな考え方を認めるわけにはいきません。

 更に、九十九里浜を持つ自治体から要望があり、私たちも要望した『早朝がうるさいので、九十九里浜の陸地にかかる待機空域を沖合いに移してほしい』という要望も無視されています。

 このように、今回の『標準飛行コース』と後から発表された『幅の設定』は『航空機の管制上の見地から考えられている』としか思えませんし、「飛行コースについて今後住民から『違反だ。違反だ。』と言われないように、この機会に出来るだけ幅のある柔軟なものにしておこう。」と考えて出されたように受け取れます。

 運輸省は口では「地域の方々の騒音被害を軽減する事も考慮に入れて設定している。」と発言していますが、一方で「このようにしても、平行滑走路が供用開始になれば、便数も減るし、騒防法の第1種区域を拡げることにはなりません。」ともいっています。ようするに、「幅が拡がっても、騒音の対策地域が拡がるわけではないのだから、いいではないか。」ということのようです。ここでも、“騒防法”のことはいっても“環境基準の達成”とは絶対にいわないのです。

 運輸省は「今回の飛行コースについては十分に検討した。」といっていますが、その検討委員の中には住民の意見を代表する者はいなかったと考えられます。運輸省内の行政官や管制官や空港運営者などで検討していれば、どうしても、外国からの要求・関連業界の要求・航空機の運航が優先し、住民の被害対策は後回しにならざるを得ないと思います。

 このように、住民にとって大きな問題を含んだ今回の『標準飛行コース』は認めるわけにはいきません。平行滑走路供用開始後の『飛行コース』ついては、是非とも、再検討して、住民に諮っていただきたいと思います。

 以上、今回の『共生大綱』をまとめた運輸省・空港公団の努力は多としますが、私たち『成田空港から郷土とくらしを守る会』はこの『地域と共生する空港づくり大綱』と『標準飛行コース』をこのまま認めるわけにはいかないし、今後とも、住民の立場にたって運動していくことを表明いたします。