オリンピックに向けて羽田空港都心ルートを設定か
東京オリンピック2020年開催が決定したことにより、首都圏の空港容量の拡大が話題になっています。特に、羽田空港の更なる容量拡大が問題になっています。“たかだか、1ヶ月のために”です。
@「運輸政策研究機構」は2009年に構想をまとめていた
羽田空港の更なる容量拡大の方策には、国土交通省のシンクタンクである「運輸政策研究機構」が2010年に発行した「首都圏空港の未来〜オープンスカイと成田・羽田空港の容量拡大〜」で詳しく検討されていますが。
羽田空港の容量拡大策は大きく分けると
(1)新滑走路の建設、(2)新たな飛行コースの新設、の2つが提案されています。
@今から滑走路を新設し、間に合わせるのは難しい
この内、「新滑走路の新設」については猪瀬都知事も「滑走路新設はオリンピックに間に合わない」と言っています。
確かに、2010年10月に供用を開始したD滑走路の場合には政府の「基本的考え方」発表から、供用開始までほぼ8年かかっていますので、今から7年後のオリンピックに間に合わせるのは厳しいと考えられます。
ただ、4つの案の中に「旧B滑走路の再整備と管制運用の高度化」というのがあり、これにより年間発着回数を48.8万回まで増やせる、としています。この案ですと、埋め立てなどの必要がなく、工期は短くて済むのかも知れません。
@都心ルートを設定すれば、年間4.1万回増やせる
第2の「新飛行コースの設定」はオリンピックに間に合う可能性があります。この方策について上記の「首都圏空港の未来〜オープンスカイと成田・羽田空港の容量拡大〜」では、1「管制運用の高度化」、2「管制運用の高度化+A滑走路の南伸」、3「内陸上空ルート活用」、の3つの方法を上げています。
1の「管制運用の高度化」での年間発着回数は44.7万回で、これは来年3月末に完了する予定です。
2の「管制運用の高度化+A滑走路の南伸」では同45.6万回と見込んでいます。
3の「内陸上空ルート活用」では同48.8万回を見込んでいます。
1「管制運用の高度化」も、2「管制運用の高度化+A滑走路の南伸」も、千葉県にとっては飛行回数の増加で、千葉市周辺で騒音被害に苦しんでいる現状を、より深刻にする可能性があります。
さらに、問題となるのは、3の「内陸上空ルート活用」です。これは、南風時に東京都心の人口密集地からA滑走路・C滑走路に着陸させようと、言う案です。下図が「首都圏空港の未来〜オープンスカイと成田・羽田空港の容量拡大〜」に出ているイメージ図です。
着陸ですので、着陸誘導装置(ILS)を使わなければなりません。従って、そのルートは一定の間、滑走路の延長線上を飛行ルートに使わざるを得ません。このコースは品川区・港区・渋谷区になると思われます。もっとも、どの当たりから、旋回して着陸誘導装置(ILS)の電波に乗るかは全く分かりませんので、確定的な事は言えませんが。滑走路の延長線を赤線で示すと下図のようになります。
この場合の騒音コンターは下図のようになるとしています。赤線は75WECPNLコンター、青線が70WECPNLコンター、緑の破線は65WECPNLコンターです。この図は2009年9月に開かれた「首都圏空港シンポジュウム」のプレゼンターションで示されたものです。このシンポの内容をまとめたものが「首都圏空港の未来〜オープンスカイと成田・羽田空港の容量拡大〜」となるようです。
@「世界の都市では市街地でも、どんどん飛ばしている」と言うけれど・・・
「首都圏空港の未来〜オープンスカイと成田・羽田空港の容量拡大〜」では、都心上空に飛行コースを設定することについて「世界ではニューヨークでもロンドンでも市街地上空を飛行している。騒音が激しいというのは高騒音機が飛んでいた、過去の事だ」と述べています。しかし、「ニューヨークやロンドンの騒音下住民が騒音をどう感じているか」については全く触れていません。
ロンドン・ヒースロー空港の第3滑走路新設問題では住民の反対が根強く続き、2010年に成立した連立保守政権は、前労働党政権が決定した建設承認を、住民の反対などを理由に破棄しているのですが、このような事実にも全く触れていません。
また、航空機1機1機の出す騒音は低減していますが、発着回数は“昔”の比ではありません。これを、「もっと増やそう」というのです。
@羽田空港でも大田区や江戸川区は北ルートに反対し、撤回させる
1970年代に羽田空港でも北側飛行ルートが実施されましたが、1971年3月18日から轟音に見舞われた江戸川区では区長を先頭にただちに行動を起こし、この飛行コースを撤回させています。詳しくはこのページを見て下さい。
また、大森地区で100dB(A)超のジェット機轟音に見舞われた大田区では、1973年10月9日に「区民生活の安全と快適な生活環境が確保されない限り、東京国際空港(羽田空港)の撤去を要求する」との「空港撤去に関する決議」を採択し、1975年2月には区長と区議会議長が当時の運輸省に対し、「現羽田空港を撤去し、沖合に移転するように求める」申し入れを行い、住民と一緒に行動し、北側飛行コースの使用を止めさせました。
@もし、都心で航空機事故が起こったら・・・
また、万が一でも、都心部やコンビナート地区で、墜落などの航空機事故が起こったら、どういう事になるのでしょうか。「魔の11分間」と言われるように、「航空機事故の多くが離陸後3分間、着陸前8分間に起こる」と言う事はよく知られています。このような危険をあえて無視して良いのでしょうか。都心部やコンビナート地帯で墜落事故が起こった事を考えると恐ろしくなります。特に、着陸寸前では逃げ場がありません。
@都心ルート設定の理由に「騒音負担の公平化」
また、「首都圏空港の未来〜オープンスカイと成田・羽田空港の容量拡大〜」では、内陸飛行ルート設定理由の一つとして「千葉県などから、騒音負担の公平化が求められている」と述べています。
この論旨を逆に考えますと、「東京でも北側飛行ルート(都心ルート)を設定するのだから、千葉県も我慢して欲しい」という事にもなりかねません。
さらに、都心ルートを設定したから千葉県の飛行回数が劇的に減るとは考えられません。「都心ルート」は飛行回数を増やすためのものですから、千葉県の飛行回数を減らしたのでは、意味がなくなります。
@成田空港でも「運用時間制限の緩和を」と周辺住民に圧力
成田空港では今のところ、年間発着回数が24万回前後で30万回に達するには、余裕があります。しかし、オリンピックを理由に「運用時間制限緩和を」と言う、政財界の要求が早くも出ています。
しかし、これ以上の深夜・早朝時間帯の離発着は住民の健康にとって、到底受け入れられるものではありません。