八街市に予想される航空公害    


2004.5 岩瀬松治


要 旨
 成田空港のC滑走路は、八街市に向けて設計され南半分が工事済みです。数年後から、大型ジェット機の騒音や電波障害が懸念されます。市に提出した提言を補筆して、状況を解説します。

1 飛行コースと高度
 参考図を照合して下さい。C滑走路の延長線は、八街市北東部と山武町北西部にかかります。旋回コースも必要です。皆様の地区それぞれに、コースや騒音の程度などを考察して下さい。

 現在、航空機は電波標識を頼りに、設定されたコースを飛びます。参考図左下の佐倉VOR-DMEという施設は航空機に方位と距離を知らせます。同じ施設は、空港内や銚子、御宿、関宿、茨城県阿見や守谷などにあります。富里市実の口付近には、滑走路延長線上の距離を知らせるアウターマーカービーコンが予定されています。

 空港に進入する航空機は、通常アウターマーカーを通過して、ILSという電波の滑り台にのって着陸します。ですから八街市と山武町を通過した航空機は、朝日区〜実の口付近に集中します。

 出発する航空機も、通常は10kmほど直進上昇してから旋回するので、八街市北部と山武町を通過する可能性が大きいでしょう。出発機はコースずれが大きく、参考図左上はその実態です。八街市街地では参考図右の状況が予想されます。

 次は飛行高度。
 到着機は進入角3度を厳密に守ります。距離10kmで高さ524mの勾配です。C滑走路南端からの距離は朝日区が約9km、市役所が約11kmです。出発機の高さは朝日区付近ではおよそ1000〜1500mです。日々実測された飛行高度が、成田空港周辺地域共生財団の下記ホームページで公表されています。A滑走路北側約9km地点の実測平均高度は、およそ1200mです。
 http://www.nrt.or.jp/main/sou/sou_index.html
 なお、飛行コースは、地上の電波標識よりもカーナビのように衛星を利用したり、レーダー誘導を取り入れたりして、より自由に設定されるよう技術革新が進行中です。

2 騒音等の影響と補償
 参考図左下、民家防音区域を囲む外側の凹凸線内は、『第1種区域』と称し防音工事の助成措置(各戸ごと数百万円)があります。基準はうるささ指数75WECPNL(本稿末尾注参照)以上です。A滑走路南側の第1種区域線をC滑走路に当てはめると太い点線となり、朝日区が含まれます。

 環境省は空港周辺の環境基準として『うるささ指数は70WECPNL以下』にしなさいと定めました。参考図の第1種区域の外側に、うるささ70を超える騒音区域があることに留意して下さい。たとえばA滑走路の南約19kmも離れた蓮沼で、2002年度実測値は70.6WECPNLでした。

 ここで難問です。うるささ指数は、騒音の大きさと回数を合わせ『原則一週間の平均値』として算出します。空港当局は『AB滑走路に強い横風が吹くときだけ使う』と説明し、『飛ばない日のゼロも含めて平均』します。その結果、参考図の第1種区域の凹凸線は、C滑走路の両端から約3kmまでです。
 AB滑走路の横風は、南西または北東から吹く風です。台風や低気圧が南を通るときは、到着機が殺到します。八街名物の砂嵐の日は、出発機が八街方向へ飛んできます。この強風は長時間吹き続けるので、八街市上空を2〜5分おきに100〜200機が轟音をとどろかせて通過するでしょう。学校は臨時休校するのでしょうか? このような日、うるささ指数は70以上です。しかし、国は『原則一週間』に固執し『八街市・山武町は環境基準の70WECPNL以内』と説明するはずです。
 環境基準は『航空機騒音を代表する時期に測定・評価しなさい』と定めているのですが、『飛ばない日』が『航空機騒音を代表する時期』と解釈できるのでしょうか?
 航空機騒音の他に、電波障害によるテレビ・ラジオの難視聴、氷塊落下もあります。引っ越したくても移転補償はありません。土地価格がどうなるか? まちづくりへの影響は? みなさんで判断して下さい。なお、テレビのフラッター防止対策は、実施されるものと見込まれます。

 航空機騒音の対策は、主に二つの法律に基づいて講じられます。一つは『公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律(略称は騒防法)』で、主に騒音補償を定めています。二つ目は『特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法(略称は騒特法)』で、成田空港周辺の土地利用を都市計画の手法も取り入れ規制します。八街市は、両法律の適用外と見られます。
 着陸料を財源とする周辺対策交付金は、被害の程度等に応じ交付されます。最近は年間37億円ほどの約半分が成田市と芝山町へ、残りを16市町村(八街市は対象外)が受けているようです。

3 将来の騒音等の見通し
 C滑走路は、現在『凍結』状態です。暫定B滑走路(2180m)が設計通りの2500mに延長された時点で、改めて国が地元に提案し是非が議論されことになっています。その時期は、朝日新聞が『B滑走路延伸の用地取得はほぼ完了』と報じていますから、2〜3年後と推察されます。
 ここで注意を申しあげておきます。『横風用滑走路』と呼称することがありますが、『横風のときしか使えない』滑走路ではありません。正式の名称は3番目という意味の『C滑走路』です。

 八街市の総合計画は20年先(2024年度)までを見通して策定中です。そこで成田空港の需要予測を調べると、国土交通省の白書は次のように記述しています。
 『成田空港における国際航空需要は今後とも引き続き増大が見込まれ・・平成16年(2004年)頃に需給が逼迫する見込みで・・さらに・・平成20年(2008年)頃に処理能力の限界に達することが予想されるため、地元と協議しつつ発着回数の22万回への増加を図る必要がある。』

 2008年以降も、成田空港は日本の表玄関として発着回数の増加は必至でしょう。20年先まで考えると、AB二本の滑走路で処理できなくなったとき、C滑走路は『横風専用』から『常時使用』となる可能性が非常に高いと考えられます。莫大な国費を投入して建設する滑走路です。滑走路が交差していても、航空機の管制は可能です。論より証拠、滑走路方向が似ている羽田空港では、成田のC滑走路に相当するB滑走路が、横風用としてではなく他の滑走路と共用されています。

4 難しい対応策
 国がC滑走路建設を提示してくることは100%必至です。その対応が非常に難しい問題を抱えているだけに、事前の調査と検討が大切でしょう。

 まず 横風用滑走路の是非です。航空機は風向きと正対するときが最も安全で、強い横風を受けると操縦が困難となります。特に着陸時は危険です。平成2年3月24日、成田空港に着陸したキャセイ航空のジャンボ機は、強い横風にあおられてハードランディング。燃料が漏れ、シュートから緊急脱出した乗客65人が重軽傷を負いました。
 主要な空港には横風対応の滑走路が、主滑走路とクロスして設置されます。しかし、日本のほとんどの空港は主風向に沿った滑走路だけです。安全のためには必要だが、無くても運用できるのが横風滑走路であるため、成田空港のC滑走路は設置、凍結と議論が分れているのです。影響を受ける八街市民は、C滑走路建設の是非に見解を述べる立場になります。

 仮に、建設したとしても、運用上さまざまな対応策が考えられます。前述の滑走路方位の似ている羽田空港B滑走路は、教訓に富んだ歴史を持っています。昭和46年3月18日、東京都江戸川区民は突如大型ジェット機の轟音におそわれ、区役所に苦情が殺到。中里喜一区長はただちに行動を開始し運輸省に抗議。5月、議会・住民代表とともに橋本運輸大臣に面会し飛行コースの変更を要求。7月、訪ねてきた羽田空港長の釈明を拒絶。同月15日東京地裁に『航空機の飛行禁止の仮処分申請』を提出。提訴のあと、丹波運輸大臣と面会、7万人の署名簿を提出するとともに、『聴いていただきたい』とテープレコーダーから轟音を再生しました。8月、区長のアイデアで鉢巻き襷がけの区民は、5日間にわたって運輸省に波状デモをかけ大きな社会問題になりました。結果、国は東京湾の中央防波堤に航空機の誘導施設を新設し、97%の航空機が江戸川区上空を飛ばないようになりました。各地の航空公害対策で、静かな環境を取り戻した珍しい一例です。

 身近な参考例が進行中です。羽田空港の5年後の新飛行ルートについて、千葉県と関係14市は『超党派で一致し国土交通省と対決』と報道されています。計画中のD滑走路から『15km地点で着陸機高度780m、騒音71デシベル』と説明された浦安市は猛反発し『新D滑走路の向きを変え、市上空を通すな』と主張。千葉県当局も国土交通省の予測データは実測値より小さいと反論。ホームページや広報紙で、情報や抗議内容などを詳細に伝えています。
 浦安市と八街市は、滑走路からの距離、使用条件がそっくりです。騒音資料を送付したところ、礼状と広報羽田特集号をいただきました。浦安市の広報紙を参考にして下さい。

 内陸空港の成田は、羽田と違った難しさがあります。仮にC滑走路設置・運用やむなしとした次善の策として、将来にわたり航空機の横風強風時だけに使用を限定する考え方があります。
 その限度を昔、空港公団は横風成分13ノット(約7m/s)以上年間1.3%と説明しました。現用の大型ジェット旅客機は、性能上横風成分25ノット(約13m/s)の強風にも耐えられます。
 また、離着陸の直線コースを縮めて、八街市街地を避ける飛び方は可能です。しかし、内陸空港ですから、その分富里市などに影響が転化される難しさがあります。

 もし市民の総意でC滑走路の常時使用を認めても、市内大部分の地域は環境基準70WECPNL前後で、現行法の救済範囲外です。周辺市町村では『エアコンの設置と電気料だけでも』と補助する例があります。当市でも、独自の補助金や自己負担で対応しますか? 仮に、夜だけ安眠できたとしても、静かな青空は戻ってきません。そもそも環境基準は屋外の基準です。成田空港周辺では開港10年後までに達成すべき定めですが、26年経過しても未達成なのです。航空機のエンジン騒音の低減化を進め、騒音軽減飛行方式を採用しても、なお未達成なのです。

5 提 言
 八街市の市民意識調査によると、八街のイメージは『自然の豊かなまち』『公害が少ないまち』が高い評価を得ています。今は静かな環境ですが、数年後に迫っている航空機公害、難問ですが避けて通れない課題です。
 泣き寝入りするのも自由ですし、C滑走路建設阻止も選択肢です。これから様々な対応策が話し合われるでしょうから、私見は遠慮し、浦安市や千葉県が取り組んでいるように事前の十分な調査・広報に基づいて市民の総意が集約されることを希望しておきます。
 なお、私は気象予報士で技術屋です。富里・八街が国際空港候補地だった42年前から、航空公害の調査をライフワークとしています。静かなふる里を孫子の代まで守りたい一心です。お声をかけて下されば、さらに詳細に ご説明致します。  (エ043-444-3106 岩瀬)

注:うるささ指数WECPNL(加重等価平均感覚騒音値)=航空機騒音を評価する単位
     計算式 WECPNL=db(A)+10logNム27 
 dB(A)は騒音最高値のパワー平均値、単位はデシベルと読む。Nは飛行騒音回数で夕方19〜22時は3倍、
 夜間22〜07時は10倍する。この計算式に間違いが発見され、現在見直し中。

 騒音の大きさ:静かな郊外はおよそ40〜50デシベル。安眠できる室内は40デシベル以下。
   65〜70デシベルを超えるとうるさく感じる。80デシベルは70デシベルの倍うるさい。
   普通の民家の遮音量はおよそ15〜20デシベル、防音家屋の遮音量は25デシベル以上。

 騒音の回数:騒音最高値70デシベルの航空機が日中100機飛んでも うるささ指数は63WECPNL。
       騒音最高値70デシベルの航空機が日中200機飛んでも うるささ指数は66WECPNL。
       騒音最高値70デシベルの航空機が日中500機!飛んで うるささ指数は70WECPNL。
     かなりうるさい80デシベルの航空機が日中100機飛ぶと  うるささ指数は73WECPNL。
  同上80デシベルの航空機が週1日だけ日中100機飛んだ週平均値 うるささ指数は65WECPNL。

戻る