成田空港の更なる機能強化 環境影響評価準備書に対する私の意見書


 計画の必要性は低い 

 この「成田国際空港の更なる機能強化 環境影響評価準備書」(以下「準備書」とする)は、住民への影響を考慮したものとは言いがたい。「成田空港機能強化計画」を押し進めるために、この計画に合わせたものである。

 需要予測については、「2022年頃に総発着回数30万回」、「2030年代に総発着回数50万回」としているが、これは、機能強化計画に基づいた「希望的目標」であり、「需要予測」とは言えない。

 NAA の夏目社長も「四者協議会」以後の、記者会見で「ただ、そういっても環境が激しい時代。世界経済の動向も直結する。需要動向に的確に対応しなければならず、一旦作成したマスタープランを未来永劫変えることはないということはなく、絶えず見直しを図りながら、大規模投資を進めていくことになるだろう」と述べている。また別の席では「2018年度の就航都市150」の目標について、「達成は難しい」と述べている。

 このような発言は住民説明会の場や四者協議会前には出なかったものである。これこそ、「50万回」の必要性がたんなる「希望的目標」に過ぎないことを示している。

 NAA の需要予測も「政府の経済成長目標で中程度の成長に見合ったもの」としているが、需要予測にすると年率2.5〜3.0%の伸び率である。しかし、最近の伸び率は1〜2%である。4月も1.53%であった。伸び率は世界経済の動向や、地域紛争などに左右されるものではあるが、明らかに過大である。

 また、建設費用についても、C滑走路の建設費用(用地買収、滑走路本体・誘導路)を「1500億円」としているが、最近は「エプロンや新ターミナル建設は、需要を見て考えなければいけないので、この費用は含まれていない」と言い始めている。

 「50万回目標」がいかにずさんなものか現している。

 最近、イギリス政府が承認した、ヒースロー空港の滑走路増設費用は約2兆円である。ロンドンの中心部に増設するのと、農村地帯にある成田空港に増設するのは、かかる費用に違いが出るのは当然であるが、ヒースロー空港の建設費用に比べ、たったの7.5%と言うのは、故意に少なく見積もっていることを現している。福岡空港の空港内での滑走路増設計画でさえ、費用を1800億円と見積もっている。

 夜間飛行制限緩和は許せない 

 準備書の中にある、「計画書」で出た住民の意見について、「大変ご迷惑をおかけしますが・・・」と一見謝罪しているように見えるが、「騒音下住民への命や健康にどのような影響を及ぼすか」との問いに対しては、質問の趣旨とは違う、的はずれな回答をして、「機能強化の必要性のため」と居直っている。

 こんな非人道的な計画は直ちに撤回すべきである。以下に、その、非人道的な理由を書く。

 最近の学説では「睡眠時間は最低7時間が必要。6時間未満では身体的、精神的影響が出る」と、一致して指摘している。

 今回の準備書では「計画書」の時に「成田空港から郷土とくらしを守る会」が出した「欧州WHOの夜間騒音についての基準」を初めて取り上げているが、説明会でNAA は「騒音の激しい地区については、寝室の窓を2重ガラスにするから、影響はない」と言っている。
 しかし、WHOの暫定基準 「 Lnight 55dB 」は、あくまでも、「『暫定的』に屋外の騒音をここまで落とせ」と言うものであり、防音工事の有無や、石造りか木造か、などの家屋の構造になどとは関係ない基準である。
 「欧州WHO」の暫定基準では「Lnight 40〜55dB ならば、健康への悪影響が生じる。多くの住民は夜間騒音に適応するために生活を変更しなければならない。高感受性群ではより重度に影響を受ける。」としているのである。従って、寝室窓を2重ガラスにしても住民への健康影響は免れない。

 なお、「欧州WHOの夜間騒音についての基準」に対しても、学者からは「『Lnight』は年平均値であり、これを夜間騒音基準値とすることが科学的とする根拠は存在しない」とする、意見もあり「航空機1機毎の騒音値に制限を設けるべき」との見解もある。

 スライド制について 

 NAAの夏目社長は「今回の見直し案では、スライド制で静穏な時間が7時間確保でき、良い案が出来た」と自画自賛しているが、「静穏な7時間」が「睡眠時間7時間」を確保することにはならない。人間は「静かになった。さあ、寝る」と言うわけにはいかない。
 多くの人が経験しているように、睡眠に入るためには、心を静める静かな時間が必要となる。

 しかも、これを、A滑走路直下地域と、B・C滑走路をグループ化した直下地域で、騒音が平均化するように、風向きなどを考慮しながら、入れ替えるという。
 このようなうるさい時間や静かな時間が不規則にやってくることで、人間の睡眠リズムがめちゃくちゃになる事は明らかである。学者らの研究によると、「大人の睡眠リズムを変えるには、半年かかる」という。

「スライド制」は騒音下住民の健康を破壊し、命を縮める最悪の提案である。
「準備書」ではこの「スライド制」の健康への影響については、全く書いていない。

 2014年の健康調査は不十分である 

  NAAは深夜・早朝時間帯の住民の健康について、「2014年に実施した『成田空港周辺の健康調査』で顕著な影響はなかった」としている。
 しかし、この調査は規模や対象や手法が不十分なものであった。

 欧米で行われている健康調査では、規模が数十万〜数百万人を対象としており、調査も数年〜十数年にわたった継続的な、疫学的・心身的調査である。これらに基づいた基準が「欧州WHOの夜間騒音についての基準」である。

 しかるに、2014年の調査は、周辺住民からたった、約1万人を抽出した、1回のみのアンケート調査である。しかも、「弱者」や「騒音の高感受者」である、子どもや小中高校生や高齢者などは除外されている。
 また、睡眠時の血圧や心拍数も測定せず、プライバシーに配慮しながら、近隣医療機関のデーターベースを活用した、死因率や罹病率などの調査なども全く行われなかった。

 調査報告書結論の中で、夜間騒音の影響について「『カーフュー弾力的運用』の回数が少なく、深夜・早朝騒音の影響を確認できなかったので、今後も、このような調査を行うべき」となっている。
 にもかかわらず、4年も過ぎているのに、「機能強化計画」を立案する段階での調査も全く行っていない。

 調査委員会も「第3者委員会で公正を期した」としているが、委員長名は明らかにされているが、他の委員名は今もって非公表である。委員長は「最後のご奉公と思って、引き受けた」と記者団に語っている。これは、初めから公正を疑わせるものである。

 先行させるA滑走路の運用時間拡大について 

 3月13日の四者協議会の合意によると、A滑走路の運用時間緩和については、2020年までに先行実施し、「午前6時〜翌日の午前0時にする」としている。さらに、「午前0時〜午前0時30分までは『カーフュー弾力的運用』を実施する」としている。

 これではA滑走路飛行コース直下の住民は静穏時間が「実質5時間半」となってしまう。

 これでは、A滑走路飛行コース直下住民の健康は損なわれ、命を奪われることになりかねない。このような非人道的で、日本国憲法にも違反する暴挙は許すわけにはいかない。

 そもそも、この措置は機能強化の理由とされる「混雑時間帯の発着回数増加」には何の関係もない。深夜・早朝に混雑時間帯はない。
 背景にあるのは、LCCや国際貨物便を扱う航空会社からの要求である。これら、少数の航空会社からの要求で、A滑走路飛行コース直下に暮らす多数住民の健康と命を犠牲にする理由は全くない。

 ドイツのフランクフルト空港で裁判所が命じた夜間飛行制限を見ても、この不当性は明らかである。

 無形民俗文化財の調査・保護について 

 有形民俗文化財や天然記念物や埋蔵文化財などの分布や調査については詳しく取り上げられているが、無形文化財の調査、保護については全く書かれていない。

 国の重要無形民俗文化財第1号として認定され、全国で唯一、地区住民によって、800年近くも受け継がれ、伝承されてきた、横芝光町の「鬼来迎」などは、この地区が騒音地区、または、移転地区になる可能性があるにもかかわらず、全く記述がない。

 同じく、芝山町の「白枡粉屋踊り」も移転により消滅する危険もある。

 低騒音機の基準や運航基準を設けるべき 

 最近の技術の進歩によって、航空機の出す騒音が低くなっているのは確かであるが、深夜・早朝の騒音は健康への影響が大きい。「深夜・早朝の時間帯には成田空港に出入りする航空機を低騒音機に限る」としているが、これらの低騒音機の中にも比較的音の大きい機種が含まれている。

 特に、長距離貨物便が貨物を満載した場合には激しい音になる。
 よって、機種だけでなく、長距離便の場合には旅客数や貨物量に、一定の制限を設けるべきである。

 環境対策の費用を明示せよ 

 先頃、英国政府が承認したロンドン・ヒースロー空港の建設案では、住民補償や環境保護対策についての費用だけで、日本円で3800億円とされている。

 一方、成田空港では開港後38年間の累計環境対策費が2017年度で約4000億円に過ぎない。

 条件に違いはあるにしても、いかにも少ない。

 しかも。計画の中で、環境対策費については全くと言って良いほど、触れられていない。あるのは「法令に基づいて・・・」の文言だけである。「法令の改正」も含めて、周辺住民の環境を守るための「成田国際空港の更なる機能強化 環境影響評価書」でなければならない。

 結論 

 以上述べた事から、この「成田国際空港の更なる機能強化 環境影響評価準備書」は不十分であり、認めることは出来ない。やり直すべきである。

 よって、今回の「成田空港機能強化計画」も白紙に戻して、再検討すべきである。


戻る