航空機騒音に関する環境基準についての要望書と話合い要旨
平成19年9月27日
環境大臣 鴨下一郎 様
成田空港から郷土とくらしを守る会
会長 木内昭博
貴職の環境に対する取り組みに敬意を表します。
私たち「成田空港から郷土とくらしを守る会」は36年にわたり航空機騒音をはじめとする環境問題に取り組んでまいりましたが、航空機騒音にかかる環境基準について下記事項を要望いたします。
要望事項
1、 さる6月27日に開催された「中央環境審議会騒音振動部会」において、「航空機騒音に係る環境基準の改正について」の答申が貴職に提出されました。
今回の答申の目的は「騒音評価手法等専門委員会報告」の中で指摘されているように「環境基準値の設定に当たっては、まずは、現行基準レベルの早期達成の実現を図ることが肝要であり、騒音対策の継続性も考慮し、引き続き現行の基準値と同等のレベルのものを基準値として設定することが適当である。」との立場に立って行われたものです。
従って、答申も基準値として現行の基準値、70WECPNLと75WECPNLに相当するLden 57dBとLden 62dB となっています。
これは、環境基準の強化を求めた住民の期待を全く無視したものとなっています。
この点は6月27日の「中央環境審議会騒音振動部会」の議論においても、委員の中から「今回の改正は昭和48年以来になる。WECPNLからLdenに変更することに異議はないのだが、環境基準は『維持することが望ましい基準』ということで進めていたとのことである。その点で考えると、基準値は案にある57dBではなく55dB程度に下げるのが望ましいのではないか。」とか、「答申の表題は『航空騒音に係る環境基準の改正について』となっている。昨今の航空機騒音に関する訴訟の判決を見ると、非常に厳しいものがある。国としてもこの現状を考え、基準値の変更も考えるべきではないか。」などの意見が出されていました。
また、環境基本法第16条は「(環境基準は)常に適切な科学的な判断が加えられ、必要な改定がなされなければならない」と定めています。しかるに、34年ぶりとなる今回の改定は上記に述べた経緯から、「暫定的」改定と言わざるを得ません。
そこで、環境基本法の精神に基づく「航空機騒音に係る環境基準」の「抜本的」な改定を早急に行うように要望いたします。
2、 「生活している場所がうるさいところは航空機騒音も大きくて良い」とする現行基準の「地域類型」は住民への差別にあたり、認める事はできません。
したがって、改定に際しては、「地域類型」をなくし、一律の基準としていただきたい。
3、 各地で争われている騒音訴訟における判決の多くは「受忍限度」を「75WECPNL」(Lden62dB相当)としています。
「受忍限度」を「維持することが望ましい基準」とする事は、明らかに「環境基準」の趣旨からはずれており、到底認められません。抜本的改定にあたっては、「受忍限度」を「基準値」とするような基準値設定を行わないでいただきたい。
4、 夜間の騒音は睡眠障害など住民の健康に多大な影響を与えます。この影響は平均した騒音だけではなく、単発的な騒音でも影響は甚大です。したがって、夜間や飛行回数の少ない空港の騒音についてはLdenだけではなく、1機1機の騒音の最大値(dbA Max)に対する基準値も加えていただきたい。
5、 騒音下におかれる住民の心身への被害は、「うるさい時」に生じるものと考えられ、「静かな時」があるから治る性質のものとは限りません。したがって、「うるさい時」と「静かな時」の平均値を基準値にする事は、「現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与する」と言う環境基本法の目的(第1条)に反すると考えられます。
平成17年に出された日本騒音制御工学会の「航空機騒音に関する評価方法検討業務報告書」においても、平均以外の繁忙期間の測定値を基準値に採用している国が多く存在してる事を明らかにしています。
航空機騒音の基準値には、「一番うるさい期間」に測定した数値を採用していただきたい。
以上
話合いの要旨
対応者 環境省 水・大気環境局 大気環境課 大気生活環境室 山下補佐・三島・田中
本会参加者 岩田事務局長・岩瀬調査部長・鵜沢(成田市議)・石川(志位議員秘書)
山下;質問書の回答です。第1点ですが、今回の改定は世界的な状況と測定技術の向上をふまえ、評価指標を見直すというものです。基準値全般の改定については要望として承る。
第2点ですが、一般的に地域の利用形態を考慮し、生活環境の保全については区分を設けている。要望として承る。
第3点ですが、受忍限度は個別の民事訴訟で個別の判断として示されたものだから、基準値と比較できるものではないと考えている。基準値全般の改定は今後の課題として要望として承る。
第4点ですが、1機1機の騒音値を追加する事だが、環境省としてもこれまでにアノイアンスや睡眠調査を行っている。夜間の睡眠影響についてはこれも要望として承る。
第5点ですが、現行は年間の総暴露量を採用している。これも基準値と全般の改定として要望として承る。
岩瀬;今回の答申の告示は何時頃行われるのか?
山下;関係省庁との調整もあるが、年内には行いたいと考えている。多少ずれ込む事もあるかもしれないが。
岩田;この告示には測定方法なども含まれるのか?
山下;新しい評価方法なので、今後、詳細な測定などもやる必要がある。そこで、測定に関わるマニュアルなどは告示までに、と言うわけにはいかない。来年度にかけてマニュアルの整備などをしていきたい。
岩瀬;そのマニュアルは全面改定という事になるのか?
三島;全面的な改定という事で進めている。
岩田;そうすると、実際にWECPNLからLdenに変更になるのは何時頃か?
三島;現在関係省庁と調整中で具体的に何時というのは言えない。
岩瀬;今回は評価方式の見直しという事だが、基準値も含め全面的な見直しが必要という事について、環境省としてはどう認識しているのか?
山下;課題としては認識している。今後、調査や知見を蓄積して検討していきたい。しかし、具体的に何時頃とは言えない。
岩瀬;前回の質問書の回答の中に「検討会をスタートしている」とあったが、具体的には?
山下;基準値改定となると社会調査とか睡眠影響調査とかをやらなければならない。これは検討会として外部委託でやっている。これを学識経験者も入って検討している。委託先は騒音制御工学会である。
岩瀬;委託は何年度から何年度までなのか?
山下;騒音計のアノイアンスとしては来年度までとなっている。しかし、その結果で満足できるものかどうかは出てみないとわからない。睡眠影響については21年度までとなっている。
岩瀬;今回の改定が評価方式の見直しに限る、という事は何時の時点でどこで決められたのか?
山下;これは環境省が決めた。
岩田;そのきっかけは逆転現象か?
山下;そうだ。
岩瀬;9年前の一般環境騒音の見直しの時でも世界の趨勢は等価騒音レベルが主流で測定器も積分騒音計が出ていて、基準値の見直しを行った。その後の航空機騒音見直しで、なぜ基準値の見直しを行わなかったのか?
山下;今回のきっかけは逆転現象で今回は評価方式の見直し、次に基準値の検討という事になっている。今後、知見の集積などを考慮して全面改定を検討していくという事になる。
岩瀬;環境基本法では「常に見直す」という事になっている。航空機騒音は未だに知見の集積が十分でなくできなかった、と言う事なのか?
田中;平成10年の一般環境騒音は、L50(中央値)からLeqへの変更で、基準値も見直した。
岩田;今回答申の委員会報告を見ると「現行基準の早期達成を図る事が肝要」と書いてあるが、これは部会の考えなのか、環境省としての考えなのか。これはおかしくはないか。現行の基準が達成できなければ次の改正に進めない、という事は騒音を出す側からすると「うるさいままにしておけば、次の改正はない。」という事になり、住民としては納得できない。
山下;環境基準は望ましい基準という事で保全するための行政目標となっている。しかし、達成率が70%程度という事はまずは達成すべき目標という事で考えている。
岩田;達成を目指す事はもちろんだが、達成しなければ次へ進まない、というのは環境基本法の精神に反しているのではないか?
山下;対策という面から考えると段階的にやっていくという事で、あのような表現になった。
岩瀬;同時進行でやっていただける、という事ですね?
山下;それは、実際には民間空港については関係機関とともにいろいろやっているし、推進していこうとなっている。環境省としてもお願いしていく。
岩瀬;関係機関に早期達成をお願いし、環境省としてはLden57をLden52にするというような努力をしていただけるという事ですね?
山下;科学的知見の集積などでそのような必要があれば検討していく。
三島;必要があれば、「やる事」が行政の立場と考えている。
岩瀬;一般騒音では住居地域としてひとまとめになっているのに、航空機騒音では住居専用地域とそうでない地域に分割しているのはなぜなのか、納得できるように説明してほしい。
山下;騒音については地域指定がなされている訳だが、一般的に言えば・・・。発生源の状況などに応じて規制をする事になっている。
岩瀬;理由は非常に難しいと思う。唯一考えられるのは航空機の場合は空から広範囲に降りてくる、という事と思う。しかし、住んでいるのは同じ日本国民なのだから一般騒音で同一地域ならば、航空機騒音でも同じ一つの地域類型を適用すべきではないか。指定は知事の権限だから東京・神奈川・千葉・茨城はほとんどを住居専用地域に指定している。環境省は「遺憾だ」と言っている。
山下;地域類型の指定は「原則として」となっている。今後、検討課題として研究していく。
三島;都市計画法の用途指定のないところを住居専用地域に指定しているという実情は把握している。問題意識として検討課題としている。
岩瀬;成田空港周辺では住居専用地域よりも静かなところがたくさんある。全国にも多く存在する。そのようなところを、「住居専用地域として指定しても良い」というように改めてもらいたい。
三島;検討委員会でも問題意識は持っている。今後の検討課題ではある。
鵜沢;成田市の平行滑走路直下の西大須賀では今回の見直しで、「移転補償地域に入るのでは」、と期待をしていた。この地域では睡眠障害で3人が通院している。このような状況を考慮し、早急に抜本的な見直しをしていただきたい。また、30年もかかるというのでは困る。総暴露量では機数が倍になっても2〜3ポイントしかあがらない。これでは困る。住民の体感にあったものを採用してほしい。
山下;「30年先」という事はないと思う。
鵜沢;成田市でも騒音影響調査を実施している。参考にしてほしい。
岩瀬;成田市調査では分析した京都大学の学者は「Ldenでは夜間の影響は測れない」と言っている。専門委員会の報告でも外国でLdenなどと単発騒音を併用しているところはかなりある。これについて議論もされていないというのはどういう事か。橘部会長もかって中央環境審議会で「等価騒音評価は瞬間的な騒音評価には適していない。今後環境省はこの問題に取り組んでほしい」と言っていた。事務局はしっかりしてほしいとお願いしたい。
田中;委員会の先生方も併用法については承知している。Lnightについても承知しているが、今回は現行のWECPNLと置き換えると言う事で検討した。
岩田;はじめは併用法などの検討もしたが、検討の途中、昨年の夏頃に単に評価方法の変更のみ、という方向に変わってしまったという事を聞いている。
岩瀬;総暴露量と言う考え方はやめてほしい。被害住民にとっては1時間1時間が生活なのだ。夜間に1機でも大きな音を出されれば、睡眠が途切れる。これは平均ではかれるものではない。環境省は「対策を考えやすい総暴露量」で考えるのではなく、被害を受けている住民の立場で考えてほしい。
山下;ご要望として承ります。
岩田;75WECPNLが受忍限度というのは各種裁判で認められている。もし、成田空港周辺住民が裁判を起こせば、75WECPNL以上には損害賠償も認められ、基地周辺裁判では「権限がない」として門前払いされている夜間飛行制限も認められる可能性がある。このような事態にならないためにも環境基準を厳しくして、住民が納得できるようにしていただきたい。
以上