農業用ビニールハウス汚染調査結果(概要)

平成9年3月

新東京国際空港公団

 成田空港航空路直下(空港内南アプローチ内、横芝町中台)・ビニールハウス対象地(芝山町菱田A:菱田、芝山町菱田B:中谷津)並びに航空路遠隔地(八街市雁丸、銚子市三宅町、東金市求名、栗源町大畑)において大気中の浮遊粉じんを2週間捕集し、各地点における浮遊粉じん中の化学成分組成を化学分析により調べ、得られたデータを統計解析することにより成田空港航空路周辺の農業用ビニールハウスの汚染(浮遊粉じんの付着)原因を究明することを目的とし調査を行った。

 また、ビニールハウス付着物並びにビニールハウス対象地の土壌の分析も行い、ビ二一ルハウス汚染原因究明の一助とした。

 さらに、国設大気常時観測局16局における浮遊粉じん中の化学成分組成との比較を行い全国的なレベルでの地域格差の有無も検証した。調査フローを図一1に、試料別分析方法及ぴ分析項目を表一1に宗す。

現地調査

浮遊粉じんの採取・ビニールハウス付着物の採取・土壌の採取

化学分析

放射化分析・蛍光X線分析・高周波誘導結合プラズマ分析・

付ンクロマト分析(粒子状物質のみ)・炭素分析

データ解析

地域格差の有無・国設大気常時観測局データ

ビニールハウスの汚染原因究明

表1 調査フロー

表一1試料別分析方法及び分析項目

分析方法及ぴ分析項目

浮遊粉じん

土壌

ビニールハウス付着物

放射化分析(同時多元素分析)

Ag,A1,As,Ba,Br,Ca,Ce,C1,Co,Cr,

Cs,Cu,Fe,Hf,X.La,Lu,Mn,Na,Ni,Sb.

Sc,Se,Sm,Th,Ti,V,W,Zn

蛍光X線分析(放射化分析で分析で

きない元素及び分析感度の悪い元素)

Cd,Pb,S.Si

ICP(高周波誘導結合プラズマ分析) Cd,Pb,Si.
オンクロマト分析

TCD法Thema1CBductivityDetector

(熱分析、検出器は非分散赤外法)

無機性炭素(元素状炭素)、有機性炭素

●:Sについてのみ分析

調査結果の緒論は次のとおりである。

@浮遊粉じん中に多く含まれている化学成分は、海塩粒子に由来するNa.C1,土壌粒子に由来するA1,Fe,二次粒子に由来するS0,N0,NH+、内燃機関の燃料の燃焼、物の不完全燃焼、稲わら焼き等に由来する炭素成分であるが、これら化学成分濃度はオーダー的(10倍程度)にみて地点間には大きな差はみられなかった。(表ー2参照)

 また、各地点の浮遊粉じん中の化学成分濃度データを用いてクラスター分折を行った結果、航空路直下(空港内南アプローチ内、横芝町中台)、航空路遠隔地(八街市雁丸、銚子市三宅町、東金市求名、栗源町大畑〕、ビニールハウス対象地区(芝山町菱田A、:菱田、芝山町菱田B:中谷津)に代表されるような地域に区分することが出来ず、ビニールハウス対象地区だけが特殊な地域でないことが分かった。(図ー2参照)

A国設大気測定局16局における浮遊粉塵中の化学成分濃度と比較した結果、Cl,W,Ni,Zn濃度などに若干濃度差がみられるが、その他の元素はほぼオーダー的(10倍程度)には一致しており、当該地域の化学成分濃度は全国的にみても大きな相違はみられなかった。

B海塩粒子に由来するNa,Cl土壌粒子に由来するAl,Fe,内燃機関による燃料の燃焼、物の不完全燃焼、稲わら焼き等に由来する炭素成分濃度を浮遊粉じん、土壌、ビニールハウス付着物について比較すると以下のように差がみられる。

Ce1e  浮遊粉じん>ビニールハウス付着物>土壌

Corg   浮遊粉じん>ビニールハウス付着物>土壌

Na   浮遊粉じん>土壌≒ビニールハウス付着物

C1   浮遊粉じん>ビニールハウス付着物≒土壌

A1   ビニールハウス付着物≒土壌>浮遊粉じん

Fe   ビニールハウス付着物>土壌>浮遊粉じん

 ただし、他の元素の化学成分の含有量は、3種類とも非常に似ており、ビニールハウスの付着物は浮遊粉じん及び土壌の巻き上げによるものが、かなり影響しているものと思われる。

C有機性炭素濃度が高い順に測定地点を並べると、栗源町大畑(21.2%)、芝山町菱田A:菱田(21.1%)、八街市雁丸(20.9%)東金市求名(17.1%)、横芝町中台(12.0%)、空港内南アプローチ内(11.6%)、芝山町菱田B:中谷津(9.9%)銚子市三宅町(6.1%)となっており、航空路直下(空港内南アプローチ内、横芝.町中台)、航空路遠隔地(八街市雁丸、銚子市三宅町、東金市求名、栗源町大畑)、ビニー一ルハウス対象地区(芝山町菱田A:菱田、芝山町菱田B:中谷津)に代表されるような地域性は現れなかった。(表一3参照)

D以上のことにより、成田空港航空路周辺の農業用字二一ルハウスの汚染原因は・浮遊粉じんと当該地域の土壌の巻き上げによる粒子が時間経過に伴って付着したものと考えられる。また、ビニールハウス付着物中の炭素成分は浮遊粉じん中の炭素成分と土壌中の炭素成分に由来しているものと考えられる。

空港内南       ───────────────────┐

                              │

横芝町中台      ───┐               ├───┐         

              ├─────────┐     │   │   

芝山町菱田B(中谷津)───┘         │     │   │

                        ├─────┘   │

八街市雁丸      ─────────────┘         │

                                  ├───┐

東金市求名      ─────┐                 │   │

                ├───┐             │   │

栗源町大畑      ─────┘   ├─────────────┘   ├───

                    │                 │

芝山町菱田A(菱田) ─────────┘                 │

                                      │

銚子市三宅町     ───────────────────────────┘

          ├──────────────┿────────────────┤

          1.0             0.5                0

           [図ー2 測定地点間のクラスター分析結果]

 ラスター分析とは、ある集団の個体(要素、分類単位、ここでは化学成分)に関する国の計測値(ここでは化学成分濃度)を基礎にして、似た者同士の個体に集める方法り、数値分析法(numerical c1assificaton,numerica1taxonomy)とも呼ばれる。この手法はコンピューターの発達とともに、医学(症状や検査値に基づく疾患の分類)、生物学=や性質による細菌の分類)、経済学(財務諸指標によ.る企業の分類)等さまざまな分野に応用されている。

              [表ー3浮遊粉塵に含まれる炭素分析結果]

地点

有機性炭素

(%)μg/G

無機性炭素

(%)μg/G

総炭素

(%)μg/G

浮遊粉じん(SPM)

μg/G

栗源町大畑 (21.2)6,48 (23.1)7.05 (44.3)13.53 30.5
芝山町菱田A:菱田 (21.1)5.39 (27.0)6.92 (48.1)12.31 25.6
八街市雁丸 (20.9)7.47 (22.7)8.11 43.6)15.58 35.7
東全市求名 (17.1)5.26 (22.9)7.04 (40.O)12.30 30.7
横芝町中台 (12.0)4.86 (15.8)6.37 (27.8)11.23 40.4
空港内南アプローチ内 (11.6)4.01 (19.7)6.82 (31.3)10.83 34.6
芝山町菱田B:中谷津 (9.9)3.74 (14.1)5.29 (24.O)9.03 37.6
銚子市三宅町 (6.1)2.78 (7.9)3.61 (14.O)6.39 45.8