「2009年(平成21年)飛行コース遵守状況年次報告書」を読む
先日、2009年の「飛行コース遵守状況年次報告書」を読みました。毎年出ているのは知っていたのですが、見たのは初めてです。
読んでみると、今まで分からなかった事が色々分かってきましたので、要点をまとめてみました。
特に、今年秋にも導入される予定の「A・B同時離発着」が実施されますと、この飛行コースずれが安全問題に直結する大問題となります。
発行者は「成田国際空港株式会社・飛行コース監視結果評価委員会・財団法人航空保安研究センター」の3者になっていました。
1,調査期間は1月1日から12月31日まで・管制データ情報に基づく
調査期間は2009年1月1日から12月31日までの1年間になります。飛行コースは国土交通省から提供される管制レーダー情報に基づきます。
2,飛行コースずれの定義
飛行コースずれの定義は下記の図のようになっています。本会は「標準飛行コース」については「幅が広すぎ、騒音区域を拡大するもの」として反対してきました。
それぞれの滑走路別の「標準飛行コース」の範囲は下図のようになっています。
見て分かると思いますが、当然、先端部分ではA滑走路とB滑走路の「標準飛行コース」は重なります。同時離発着ではこれが問題になると思われます。
3,飛行コース逸脱機は471機・0.25%
監視対象航空機総数は187,234機でした。その内で、飛行コースを逸脱したと認定されたのは471機で全体の0.25%でした。
出発機は68,182機中の312機で0.46%、着陸機は58,871機中の13機で0.02%でした。出発機の逸脱が圧倒的です。これは,着陸機の場合は着陸誘導装置(ILS)の電波に導かれて進入するために,ずれが少ないためと思われます。
4,逸脱の多くは「雷雲等回避」と「間隔設定」が理由
逸脱理由は下の左図にあるように、「雷雲等回避」の気象条件によるものが圧倒的で約67%に達します。
次が「間隔設定」のためで前機との間隔をとるために、やむを得ず飛行コースを逸脱したもので,約25%になります。
「雷雲等回避」の時期は5・6・7・8・10月が多く、やはり、夏季が多くなっています。
5,「その他」25機の内、「非合理的理由」によるものは7機
逸脱理由で「その他」と認定されたものの中で「やむをえなかった」と考えられる「合理的理由」によるものは18機でした。その理由と機数は上の右図になります。
残りの「非合理的理由」によるものが、「飛行コース監視結果評価委員会において、その理由が非合理的と判断された場合、国土交通省航空局の航空情報サーキュラー『成田国際空港における飛行コースの監視について』に基づいて、便名が公表される」ことになっています。
以下の表が飛行コース逸脱理由が「非合理的」と判断されて公表されたものです。
発生日
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便名
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型式
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逸脱理由
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方向と滑走路
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2月13日
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ノースウエスト航空 28
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A332
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FMSへの入カミス
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出発南A
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3月1日
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ユナイッテド・パーセル・サービス 108
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B763
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FMSへのデータ入カミス
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出発北B
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5月3日
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ノースウエスト航空 5
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B752
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FMSへのデータ入カミス
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出発南A
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5月26日
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アリタリア・イタリア航空 785
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B772
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FMSへのデータ入カミス
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出発南A
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6月2日
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トルコ航空 51
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A343
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FMSへのデータ入カミス
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出発南A
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10月9日
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全日空 943
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B737
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FMSへのデータ入カミス
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出発北A
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11月7日
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日本貨物航空 178
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B744
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FMSへのデータ入カミス
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出発北A
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(FMSとは、入力装置(FMC)、オートパイロット(Auto Flight System)、慣性航法装置(INS:Inertial navigation system/GPS)の技術を一体化させた装置)
6,「非合理的理由」の全てが「FMS」への入力ミスによる
上の表を見ても分かりますが、「非合理的理由」の全てが、FMSへの入力ミスになっています。要するに自動操縦装置への位置情報の入力ミス、と言う事になるのでしょうか。これをミスると,航空機はパイロットの意図しない方向に自動で向かってしまうことになります。確かに,細かい数字(経度・緯度)を打ち込んでいくので大変ですが、慎重の上にも慎重に行う必要があります。1983年9月1日に起こった大韓航空機撃墜事件も、「自動操縦装置への入力ミスにより、旧ソ連領空に進入したことが原因」(意図的に進入したとの説もありますが)との説があります。
7,着陸復航は261機・1日当たり0.7機
この調査から「除外対象」とされているものの中に管制官の指示による「着陸復航機」があります。これは、管制官の指示によるものですから「やむ終えぬ逸脱」として、調査対象から外されています。2009年の着陸復航機は261機でした。1日当たりに直すと0.7機となります。3日に2機の割合ですね。
8,逸脱機数は04年からほぼ横ばい
右図が1999年からの飛行コース「逸脱機数」の経年変化です。2003年までは急激に減少していますが、2004年〜2009年は450機前後でほぼ横ばいになっています。
@大丈夫か「同時離発着」・更なる監視対策を
先にも書きましたが、今年の秋(多分、冬季ダイヤ開始時)から開始される「A滑走路・B滑走路同時離発着」時に、航空機とそこに搭乗している乗客・乗員の安全を確保するために、さらに厳しい監視体制を考える必要があるのではないでしょうか。