2021年騒音対策委員会質問書と回答
(2021年4月8日 回答とコメントを追加)


2021年騒音対策委員会質問書

成田空港から郷土とくらしを守る会

 昨年初めに日本での流行が始まった「新型コロナウイルス感染症」の影響は、世界で猛威をふるい、未曾有の規模に拡大しています。
 航空業界の一般的な予測によりますと、「世界の航空需要が2019年度の水準に回復するのは4年後の2024年以降になる」との事です。
 この影響により、世界の航空会社や空港運営会社も対応に追われ、経営破綻回避や建て直しのために、従来計画の見直しを行っているところです。

 これを、成田空港に当てはめますと、年間総発着回数が24万回前後に戻るのが2024年度以降、同30万回に達するのは、「機能強化計画策定」の「基本政策部会 下位予測」の、2027年度から、2031年度以降にずれる見込みとなります。
 さらに、同50万回に達するのは、実に「2052年度以降」になる見込みとなり、約30年後になります。
 その頃の航空業界の状況や旅客機技術の進歩によって、現在の空港運営や、航空輸送形態が大きく変化していると考えられます。

 成田国際空港株式会社(NAA)は民営会社とは言え、株式は国が保有しており、国民の税金が投入されている事実上の国営会社です。
 現在の「新型コロナウイルス禍」を克服するためにも、国の税金を「新型コロナウイルス感染症」流行終息に向けて、全面的に活用すべきではないでしょうか。
 この意味からも、「成田空港機能強化計画」を一時凍結し、計画を再検討すべきです。

質問事項

 (1) 個々のイベントリスクを予測することはできませんが、統計学的にイベントリスクを考慮した、需要予測の見直しが必要と考えられますがどう考えておられるのでしょうか。

 (2) これに基づく、第3滑走路建設計画やB滑走路北伸計画の再検討、または一時凍結が必要ではないでしょうか。

(3) ターミナルの新設や、そのアクセス、さらに、貨物地区の整備などを先行させるべきではないでしょうか。

(4) A滑走路直下と谷間地区住民の睡眠を妨害し、健康と命を縮める危険にさらす「A滑走路運用時間」を直ちに、元の「午前6時〜午後11時」に戻して下さい。
    航空会社の協力で直ちに実施できるはずです。

(5) 50万回時に、実施されるという「離発着スライド制」は、住民の生活への不安と、健康に大きな影響を及ぼすと考えられます。
   これについて、どのように実施するかを関係住民に明らかにし、その影響について専門家に研究を依頼し、その結果を周辺住民に公開し、「離発着スライド制」の是非を、再度、関係住民に問うべきです。

(6) 谷間地区をも含めて、騒防法第1種区域にある全戸を移転補償対象とする、法改正を行って下さい。

(7) 土地や家屋などの成田国際空港株式会社による買い上げや移転交渉などにおいて、拡大される空港敷地内と、それ以外の騒音区域で取り扱いに、差別が見られます。
    空港敷地外の騒音区域で移転を希望する人たちに、懇切丁寧な説明と、具体的な条件などを早急に提示し、交渉して下さい。
    騒音下住民の中には「今まで50年近くも騒音をがまんして、空港に協力してきたのに、『死ぬまでがまんしろ』というのか」とか、「国とNAAは俺たちが早く死ぬのを待っている」などの、怨嗟の声が聞かれます。

以上


国土交通省と NAA の回答

【国土交通省】

1〜3 について

 航空需要予測において、個々のイベントリスクを統計学的に考慮する ことは、困難と考えています。

 現在、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、航空需要が低迷しているも のの、IATA(国際航空運送協会)の予測において、国際線の需要については、 2024 年に 2019 年の水準までの回復が見込まれており、中長期的に見れば、成田 空港の更なる機能強化については、必要不可欠と認識しています。
 
 また、発着容量の増加によって、航空旅客及び航空貨物の増加が予測されま すことから、ターミナル施設や空港アクセスについても、空港会社などの関係 者とともに検討を進めています。


4について

 夜間飛行制限の変更に当たりましては、内窓等の防音工事の充実や低騒音 機への限定などの深夜早朝対策を講じることによって、少しでも騒音地域の影響緩和を図りながら、運用することが必要と考えています。

5について

 スライド運用の運用方法については、現在、空港会社とともに慎重に検討 を進めているところです。

6について 

 騒防法においては、騒音レベルに応じて必要な措置を定めており、第 1 種 区域にある住宅について、一律に移転補償を行うことは困難ですので、ご理解 いただきたいと考えています。


【 NAA 回答】

1〜2について

 NAA としては、新型コロナウイルスの影響は甚大であり、コロナ影響 前の水準まで回復するには相当程度の期間を要すると考えております。

 IATA の予測においては、世界の航空旅客需要が新型コロナウイルスの影響を 受ける前のレベルに回復するのは 2024 年までかかる可能性があるとしておりま す。
 今後の需要見込みとしては、各国における国内移動制限の緩和に伴い国内線 が先行して回復し、その後、国ごとに国際線が再開され、徐々に本格再開へと 向かっていくものと考えております。

 一方、更なる機能強化については、中長期的な航空需要に対応するために必 要な施策であり、また、我が国の成長戦略の一環として、首都圏空港の更なる 機能強化を着実に進める必要があるとの観点から、国からの財政支援も頂いて いることから計画どおり進めて参ります。

 C 滑走路・ B 滑走路延伸の早期完成 に向け、引き続き丁寧かつ着実に進めていき、1日も早く滑走路を供用できる ように努力して参ります。

3について

 中長期的な航空需要に対応するためには、ピーク時間帯のニーズに対応で きていなかったこともあり、まずは滑走路の整備等を実施し、発着容量を現状 の 30 万回から 50 万回へ向上させる必要があります。

 また、同時に旅客ターミ ナルや貨物施設等の整備についても既存施設の老朽化対策を含め、滑走路整備 に遅れることなく現在検討を進めております。

4について

 夜間飛行制限変更は、訪日外国人旅客に利便性の高いダイヤ設定を可能と するとともに、LCC の高頻度運航、航空貨物のネットワーク拡大等を可能にし、 観光立国を目指す政府目標への貢献、激化する空港間競争を勝ち抜くうえで、 必要不可欠な施策です。
 また、新型コロナウイルスの影響により、旅客便の運 休・減便が多くなっているものの、国内外の市民生活、生産活動を支える必要 物資の航空輸送は活発に行われており、成田空港がこうした需要に応え重要な 社会インフラとしての役割を果たすためには、引き続き、24 時までの運用時間 (夜間 1 時間延長)は必要だと考えております。
 あわせて環境対策の実施が必要と認識しており、内窓設置工事の申請を、1件でも多く頂けるよう周知に努め、延長する時間帯の運航機材を低騒音型機に限定するなど、周辺地域の生活環境保全に取り組んで参ります。

5について

 C 滑走路供用後の運用については、空港全体の運用時間を 5 時から 0 時 30 分まで確保した上で、飛行経路下の静穏時間を 7 時間確保できるスライド運用 を導入することとなっています。
 スライド運用の定期的な入れ替え時期等の詳 細については、今後、関係機関も含めて調整していくことが必要となりますが、 これまでの運用と同様に、各滑走路の運用時間は厳格に遵守するとともに、地 域の皆様の生活環境を保全する観点から、航空機からの騒音影響を軽減すべく、 緊急機等を除き、深夜早朝(5 時台及び 23 時以降)時間帯に運航する機材を低 騒音型機に限定します。
 また、低騒音型航空機ほど国際線着陸料を優遇する料 金制度の採用など、発生源である航空機騒音の軽減に努めて参ります。いずれ にしても、運用の詳細をご説明出来る段階が来れば、地域へ丁寧に説明いたし ます。

7について  

 騒音移転にかかる説明については、各市町より個別にご案内させて頂いて おり、また、ご要望に応じて地区説明会を実施して参りました。
 また、騒音区 域からの実際の移転にあたっては、移転対象となる方からの申出により進める ものであり、移転申出の検討にあたり、ご希望があれば、判断材料として頂く ために家屋調査をしたうえで土地買入額も含めた補償概算額をご提示しており ますので、移転をご検討される場合には、NAA 用地部及び各地域相談センターま でご相談下さい。


*4月4日

@「国土交通省と NAA からの回答」に対するコメント

(1)「2019新型肺炎」の影響による、「機能強化計画の見直しについて」全く答えていない

 本会は機能計画発表時から「その計画が、訪日外国人6000万人達成が前提で建てられた、『過大な需要予測』で、激増する航空機騒音によって、周辺住民の健康や安心できる生活を根底から崩すもの」と批判してきました。(【声明】 騒音下住民の暮らしと命を守る抜本的な騒音対策の実施を)
 国土交通省の審議会の委員長を勤めた家田氏は計画発表の記者会見で「需要予測にはイベントリスクを考慮していない」と述べています。
 成田空港の運用開始以来、数々のイベントリスクに見舞われていますが、これを一切無視する計画のずさんさが、今回の「2019新型肺炎」によって明らかになりました。
 しかし、回答では「航空需要は中長期的に見れば増大するので、この計画を今後も押し進めていく」と曖昧な答えに終始しています。
 その根拠として、「国際航空運送協会(IATA)では・・・」としていますが、 IATAは航空会社の連合体であり、需要の蒸発に苦しむ世界の航空会社に希望を持たせうとする「明るい予測」になる事は必然です。
 航空業界のリサーチを行う会社や機関は、もっと厳しい見通しを明らかにしています。これらの会社や機関の分析を考慮して需要を見直すことは、当然しなければならないことと考えられます。
 確かに「2019新型肺炎」の流行が収まれば、旅行意欲を抑制されてきた人が旅行に出かけ、一時的には急回復するでしょう。
 しかし、「2019新型肺炎」の影響で世界の人々の生活は大きなダメージを受け、また、航空会社自体も機体調達などで、おいそれと従前の運航体制を作るのも難しくなります。
 従って、「2019新型肺炎」前の2019年水準の航空需要に戻るには長い時間がかかるものと思われ、その後の成長カーブもゆるやかなものになると思われます。
 これらを考慮に入れないで、再び「突っ走れ」というのは「おかしい」と言わざるをえません。

(2)イベントリスク軽視が産んだ「コロナ禍」

 上記のようなイベントリスク軽視は、取りも直さず「危機管理意識の欠如」をもたらしました。
 昨年1月の段階で、「2019新型肺炎」流行の危険を察知して、水際対策の強化を行っていれば、これほど大きな災害をもたらさなかったと考えられます。
 中国圏の春節による「当座の利益」に目を奪われ、流行の危険を見逃したことが原因と言えます。
 これも、「訪日外国人6000万人」目標に「のめり込んだ」結果ではないでしょうか。
 多くの国民の命と仕事を奪い、国家の財政を揺るがしかねない災害が生じた責任は誰が取るのでしょうか。

(3)3本の滑走路で採用されるとする「スライド制」について

 国土交通省とNAAは機能拡張が成って「3本の滑走路による運用が開始されると、運用時間をA滑走路と、B&C滑走路で離着陸を分け、結果的に『7時間の静穏時間』が確保される」と言っていますが、これも、問題だらけになります。
 この運用形態を南北で一定期間ごとに交換する、との事ですが、風向が同じならば、期間を決められます。しかし、風向が変化した場合には、航空機に「追い風での離着陸」を強いることになり、運航の安全に大きな問題を生じます。
 仮に、安全を犠牲にして、一定期間の運航形態が守られたとしても、人間の体は「睡眠のリズムを造るのに半年ぐらいは必要」との事ですので、「静穏時間7時間」では「7時間の睡眠」を取ることは出来ません。
 この事についての質問に対しては「そのような必要性が出てきたら、考える」と曖昧な答えでごまかしています。

(4)今こそ、機能強化計画の再検討を

 この様な時期だからこそ、「成田空港機能強化計画」を見直し、再検討が必要と思います。
 「訪日外国人6000万人は国家施策だから」と遮二無二突き進むべきではありません。
 前社長の夏目氏は2018年6月に「ただ、そういっても環境が激しい時代。世界経済の動向も直結する。需要動向に的確に対応しなければならず、『一旦作成したマスタープランを未来永劫変えることはない』ということはなく、絶えず見直しを図りながら、大規模投資を進めていくことになるだろう」と述べています。


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