航空機騒音に係る環境基準改定案に対する見解
=科学的な再検討を求める=


              2007年5月29日 成田空港から郷土と暮らしを守る会


 航空機騒音に係る環境基準の改定案について、環境省は国民の意見を募集しています。この案に対し、本会の見解を発表します。
 改定案の要点は、次の通りです。

(1) 評価指標をWECPNLからLdenに変える。
(2) 基準値を地域1は57(dB)以下、地域2は62(dB)以下とする

 この案の基準値は、現行基準の70WECPNL(地域1)、75WECPNL(地域2)に相当し「現状維持」です。この改定案では「静かな生活を取り戻したい」「基準と取り締まりが厳しくなる」と期待していた被害住民の願いは叶いません。
 本会は、“望ましい環境基準を、科学的に再検討し、被害実感に即した基準にすること”を求め、5項目の問題点について見解を述べます。

:改定案に関する原資料等は次のページからご覧下さい。
案と意見応募法  http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=8376
専門委員会資料  http://www.env.go.jp/council/08noise/y082-16.html
騒音振動部会資料 http://www.env.go.jp/council/08noise/y080-04.html
評価方法の報告書 http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=7067

 注:本会の「航空機騒音の環境基準と規制に関する提言」は下記に掲載しています。
成田空港サーバー http://www.page.sannet.ne.jp/km_iwata/kankyouteigen.html

見解1 科学的な再検討を求める

 航空機騒音に係る現行基準は、告示から33年が経過しました。この間、各種の騒音軽減措置が講じられましたが、いまだに環境基準を達成しない地域が残さています。厚木基地や嘉手納基地及び大阪空港、成田空港周辺等では、被害に関する大規模な社会調査が実施されています。
 環境基本法第16条は「(環境基準は)常に適切な科学的な判断が加えられ、必要な改定がなされなければならない」と定めています。1998年に騒音に係る環境基準(注:航空機騒音は適用外)が改正される際は、会話妨害や睡眠障害などについて検討結果がされましたが、今回の改定案は、貴重な社会調査資料や科学的知見を全く検討していません。33年ぶりの基準見直しにかけた自治体と住民の期待を無視し、基準値の検討を放置することが許されるのでしょうか。再検討が必要です。
 なお、改訂案には達成期間が明示されていません。現行基準は、第1種空港と福岡は1983年以降「可及的速やかに」、第2種空港と成田は「1983年までに基準を達成されるもの」と告示しています。改訂案は「強力に対策を推進」と記述するだけです。達成期間を明示することを求めます。

見解2 Lden は機数と最高音評価に問題

 評価指標を現行のWECPNLと比較する限り、Lden は優れている点が多々あります。逆転評価の解消、逆噴射など地上音の取込み、国際比較の容易性、騒音量の正しい測定、小規模飛行場の基準値引き下げ等は改善点です。また、夕方を「くつろぎ」の時間として現行方式を継続させた点も評価できます。
 ただし、報告案のLdenには問題点が三つあります。
 第1の問題点は、騒音機数の評価が被害実感に合っていないことです。騒音下の住民は、騒音機数が2倍になっても評価値が3しか上がらない点に強い不満と疑問を持っています。
 改定案は「発着数は約2倍に増加し、増加傾向」と記述しており、騒音機数と被害感の科学的調査の必要性が高まっています。
 第2の問題点は、航空機騒音はピークレベルが高いので、平均値だけでは律しきれないことです。Lden 62 のピークレベルは添付の表の通り70dB(A) を超え、会話妨害や睡眠障害をもたらすことは明らかです。
 世界保健機関(WHO)は「寝室の最高音(Lamax)45dB 以下」の併用を推奨しています。EUの統一指標もLnight併用です。併用方法の検討が必要です。
 第3の問題点は、単純明解な最高音(Lamax)や騒音機数が公表されなくなる恐れがあることです。Ldenは、測定単位が単発騒音暴露レベル(LAE)に代り、LAEをエネルギー加算する算式です。一方、現行基準の算式は、測定単位にピークレベル(Lamax)と時間帯別機数を必要としています。この基礎データを用い多くの自治体等は、測定期間中の最大ピークレベル(Lamax)や70dB(A)を超えた機数及び時間帯別機数等を公表し、住民も被害実感と照合してきました。ピークレベル(Lamax)や時間帯別機数の測定と公表を環境基準として保証する措置が必要です。
 なお、家屋の遮音量を平均23.8 dBとする報告(平成10年中央環境審議会、騒音評価手法等委員会)がありますが、空港周辺の住宅防音計画量は20または25 dB以上です。この遮音量も実測では計画遮音量20dBを満たしていない木造家屋が39%あります(神奈川県:平成13年厚木基地周辺生活環境調査報告書)。防音工事をしていない通常の木造家屋では15dB前後ですから屋外値65dB(A) 以上の騒音を除く環境保全策が求められます。

見解3 静かな基準値に 

 環境基本法第16条は「環境基準」について「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるもの」と定めています。この用語「健康」を世界保健機関(WHO)は「健康とは、完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病または病弱の存在しないことではない(官報の翻訳)」と定義しています。
 報告案は、基準値をLden57及び62と提示しました。この基準値が、上記の環境基本法に照らして適正か否か問われています。
 現行基準案を作成した専門委員は、当時の専門委員会で「NNI 35(WECPNL65に相当)が望ましい」と検討されました。(注:小林理研ニュース No.20、騒音制御Vol 29.No4)。
この数値はLden52(おおよそ65WECPNL)に相当します。
 被害住民の声の一例として、千葉県蓮沼村(現山武市)議会の意見書(下注)を紹介します。蓮沼村のうるささは70WECPNL前後ですが意見書は「安眠安静を阻害する」「外辺にも障害が実在する」と痛切に訴えています。
 (注;http://www.page.sannet.ne.jp/km_iwata/hasuikensyo.html
 神奈川県の調査報告書(前掲)によれば、70WECPNL以下の地域でも会話、電話、テレビ音の妨害があり“うるささ”を訴える回答は79%に達しています。
 近年、「静かな空」を求める騒音訴訟が続きました。判決は「75WECPN以上の地域は受忍限度を超える被害」と認定しています。75WECPN はLden62に相当します。受忍限度相当のLden62を「望ましい基準(環境基本法)」と認めることはできません。
 騒音に係る環境基準は、住居地域の基準を評価指標Leqで昼間55以下夜間45以下としています。この基準はLden57に相当します。一般環境騒音の基準に比較しても航空機騒音の環境基準Lden62は認められません。
 間欠騒音として類似している新幹線騒音の環境基準について、横浜国立大学の横島潤紀氏と田村明弘氏は社会調査をもとにLeq50が妥当と報告しています。この数値はLden53に相当します。
 基準値の再検討を求めます。

見解4 住居地域は同じ扱いにすべき

 改定案は、地域類型を二分する現行基準を踏襲し、「専ら住居の用に供される地域」を類型1」「1以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域」を類型2としています。
 一方、道路騒音を除く一般地域の環境騒音に係る環境基準は、「専ら住居の用に供される地域(A)」と「主として住居の用に供される地域(B)」を同じ類型として扱っています。
 住民の生活地域では“地域類型1と同一の基準値が統一して適用されるべき”ではないでしょうか。

見解5 日々いつでも基準値以下に

 環境基準は、いつでも基準値以下であることが必要です。
 航空機騒音の評価は、原則連続7日間測定値のパワー平均値と定められていますが、大気保全局長通知によって年間平均値も用いられるようになっています。このため、平均値が基準以下の地域でも、基準を上回る日々があり住民は苦しんでいます。
 例えば、成田空港の飛行コース下に位置する千葉県成田市新川測定局では、年間平均値(平成16年度)は69.9WECPNLですが、日最大値はすべての月で70 を超え、年間の日最大値は75.0 に達しています。
 羽田空港の着陸コース下に位置する千葉県木更津市は、通過機数の季節変動が大きく、畑沢測定局の年間平均値(平成14年度)は66.4WECPNLですが年間の日最大値は70.7です(千葉県資料)。
 基地空港では週末の飛行が少ない場合もありますが、NLP(夜間離発着訓練)など不定期の激しい騒音が加わる日もあります。
 年間平均値について、千葉県浦安市は「特定条件時の飛行を(年平均値)で評価することは妥当ではない(広報2004年特集号)」と批判しています。
 現行基準案作成委員だった山本剛夫氏は「当初、いずれの1日も指針値以下とすることを想定していた」「(日間)変動の95パーセンタイルなど最大値に近い指標が住民反応と対応の点で優れていることが明らかにされており、パワー平均値を指標とする確たる根拠は存在しない。」(騒音制御Vol 29.No4)と述べています。
 外国では、最繁忙週(イタリア)や最繁忙月(スペイン)を評価対象とする例があり、1年間を評価する国は2例に過ぎません。
 国内では、大気汚染に係る環境基準は1時間値、1日平均値が用いられます。
 「基準を超えるうるさい時があっても、静かな日もあるなら我慢しなさい」という期間平均値は、環境基準の定義に背理しています。航空機騒音に係る環境基準は、少なくとも1日値を評価対象とすべきです。日々の値を評価することによって、測定地点ごとの環境基準達成率が明らかになります。

表1 Lden 62 のピークレベル

1日の飛行機数

10

20

40

80

160

320

 

時間帯比率(%)

ピークレベルのパワー平均値 dBA

夕方

A

100

0

0

91

88

85

82

79

76

B

80

20

0

90

87

84

81

78

75

C

70

20

10

88

85

82

79

77

73

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1Lden 57 のピークレベル(dB)は上表から5を引けばよい

     注2:実際のピークレベルは、平均値±数dB 表2も同じ

 

 

表2 1日の騒音機比率が昼間8・夕方2の場合の Lden

1日の飛行機数

 10

 20

 40

 80

160

320

ピークレベルの

80%、夕方20%飛行時のLden

パワー平均値

90dB

62

65

68

71

74

77

80dB

52

55

58

61

64

67

70dB

42

45

48

51

54

57

60dB

32

35

38

41

44

47

   注:時間帯比率が表1の A の場合 ピークレベルの数値は+dB

               C の場合 ピークレベルの数値は-dB

 

 

 

 

 

 

 

 

 

環境基準案を超えているもの

 

 

 

 

1類と2類の基準内にあるもの

 

 

 



以上

 なお、上記見解についての質問などを<m-iwase@aw.wakwak.com>にお寄せください。

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