運輸省の飛行コース幅設定の説明文書

成田空港における飛行コース幅の設定について

平成10年9月21日運輸省航空局

1.はじめに

 成田空港では、これまでに、離着陸する航空機の飛行実態が、線で示されているいわゆる標準的な飛行コースからずれているとのご指摘が寄せられており、飛行コースの遵守は円卓会議の合意事項の一つとしても取り上げられています。このため、空港公団では、平成7年から、年4回、測量機器を用いて航空機の飛行実態を調査し、その調査結果を航跡図として公開してきましたが、これに引き続き、平成10年3月末からは、管制レーダーシステムを用いて通年で毎日の航跡図を公開しています。

 しかしながら、飛行コースの遵守によって航空機騒音の影響が及ぶ範囲の拡散を防止するためには、単に飛行実態を公開するばかりではなく、望ましい航跡の範囲として「飛行コース幅」を設定し、その幅をもとに飛行実態を監視することが求められています。このため、これまでに学識経験者のご指導を得ながら専門技術的な検討を重ねてきたところですが、今般、「飛行コース幅」とそれを用いた飛行コースの監視方法についてとりまとめました。

2,航跡の現状(参考資料1参照)

 平成10年3月末がら公開をしている航跡図から明らかなように、着陸機については、精度の高い計器進入方式によって進入した航跡が現れており、空港と九十九里浜の間及び空港と利根川の間で直進降下を行うとの地元との約束が果たされています。一方、離陸機の場合も、空港と九十九里浜の間及ぴ空港と利根川の間を直進上昇するとの地元との約束を遵守するべく努めてきており、ほぼ標準的な飛行コースを中心とした航跡が現れていますが、着陸に比べると標準的な飛行コースとの乖離が多くなっています。

 また、旋回部分については、空港北側の利根川以北の区域において、航空機ごとの重量やスピードに差があることに加えて風の影響もあり、標準的なコースからのずれが生じる、あるいは航空機相互の安全間隔が設定されることによると考えられるばらつきも散見されています。

3,飛行コースの幅の設定と遵守のための方策

 以上のような現状に鑑み、飛行コース幅を設定するとともに、空港公団による飛行コースの監視と運輸省による飛行コース幅遵守のための指導等の方策を講じることで、飛行コース幅からの逸脱を防ぎ、飛行コースのさらなる遵守を図ってまいりまます。

(1)飛行コース幅の設定

 離着陸前後の直進部分における飛行コース幅を設定するにあたっては、航空機騒音の影響が及ぷ範囲の拡散を防止するという考え方に基づき、第1種区域等環境対策の対象区域を設定した際に基準となった騒音コンターの範囲の拡大につながらないことを基本としました。すなわち、航空機が標準的な飛行コース上を運航しようとしている状況下においても、風等の気象条件、無線施設の精度の影響や安全間隔の設定等からやむを得ず「ずれ」が生じることになりますが、騒音コンターを作成する際にはこのやむを得ない「ずれ」を見込んでいることから、この範囲内であれば「ずれ」により航空機騒音の影響範囲を拡大することがないこととなります。そこで、直進部分における飛行コース幅についてはこの範囲をもとに設定することとし、具体的には別添図の通りであり、空港用地境から南北方向に順次拡がり、空港北側の利根川地点で幅2.5km、空港南側の九十九里浜地点で幅4.5kmといたしました(別添図参照)

 一方、旋回部分における飛行コース幅については、直進部分における標準的な飛行コースからの「ずれ」を抑制することによって旋回部分における「ずれ」の抑制に寄与する可能性があることから、今回はまず航空機が低高度で飛行し騒音の影響が大きい直進部分における飛行コース幅を設定し、設定後の飛行実態の推移を情報公開しつつ監視するとともに、飛行コース幅設定の効果を催認し、改めて旋回部分における飛行コース幅の設定について検討することが適当であると考えました。なお、諸外国における飛行コース幅設定の状況を調査したところ(参考實料2)、それぞれの空港の事情により一律ではありませんが、今般成田空港にて設定した飛行コース幅は、飛行コース幅、遵守の目標、適用高度等の点において、これまでの諸外国における施策と比べて遜色のないものといえます。

(2)飛行コース幅遵守のための方策

設定した飛行コース幅遵守のために、運輸省、空港公団において、次の措置を講じることとしています。

@航空会社に対して、標準的な飛行コースからのずれが可能な限り小さくなるような運航を徹底するようあらためて指導を行うとともに、飛行コース幅及ぴ監視・情報公開の方法について周知します。

A飛行コースの情報公開の中で、設定された飛行コース幅を明示した航跡図を作成し、飛行コース幅を逸脱して飛行した航空機について、飛行時刻、便名等のデータを整理します。

B航空会社に対して、飛行コース幅を逸脱した航空機を対象として調査を行い、安全運航上の必要性、悪天候回避等の合理的な理由の有無を評価し、管制指示の有無を確認するとともに、評価結果をもとに再発の防止を目的として標準的な飛行コース遵守に係る指導を行います。

4.今後のスケジュール

 今回の飛行コース幅の設定は、我が国の空港で初めてのものであり、我が国の航空会社だけでなく、成田空港に乗り入れている世界の航空会社への周知徹底を行う必要があることから、このための期間等を勘案し、平成11年当初を目途に実施することとします。

海外事例との比較

項目 ヒースロー空港 ミュンヘン空港 成田空港

飛行コース幅

(エリア)

離陸後一定の角度で幅3Kmまで拡がり、その後、幅は概ね3Kmで一定 直進部分の幅は概ね4Kmで一定。旋回部分はさらに拡大 離陸後一定の角度で拡がり、13Km経過した地点での幅概ね2.5Km、22Km経過した地点での幅概ね4.5Km
飛行コースの幅遵守の目標等 90%の航空機が幅の中を飛行する事を目標 95%の航空機が幅の中を飛行することを前提 100%の航空機が幅の中を飛行することを目標
対象航空機 全ての離陸機(ただし小型のプロペラ機を除く) 計器飛行による離陸機 計器飛行による離陸機及び着陸機
適用時間 終日 終日 終日
適用高度 4000フィート未満(約1200m未満) (高度の記載なし) 6000フィート未満(約1800m未満)
適用除外 管制指示、緊急時等 管制指示、緊急時等 管制指示、緊急時等