「騒音による高頻度の睡眠妨害は睡眠障害という『疾患』である」(要約)

松井利仁・平松幸三・山本剛夫(京都大学)

(騒音制御 Vol.35 NO.5  2011年10月)

【睡眠妨害の頻度と睡眠障害】

○騒音によって、週に2,3回の入眠困難や中途覚醒や早朝覚醒などがあり、日中に、疲労感や集中力の低下や眠気や頭痛・胃腸症状があれば、睡眠障害と言う「疾患」と診断される。

○睡眠障害以外の疾病について、世界保健機関(WHO)欧州事務局は2009年10月の、EUNNGL(健康影響に基づいた夜間騒音ガイドライン)で、Lnight (夜間等価騒音レベル)が屋外で 55dB 以上の地域で、虚血性心疾患有病率の増加を認めている。

○空港近傍や幹線道路沿道などでは、これに該当する睡眠妨害が生じており、睡眠障害の有病率が大幅に上昇していると推察できる。

○我が国における、道路交通騒音の健康リスクの試算によると、暴露地域(*交通騒音の影響を受ける地域)に限定すれば、交通事故以上の「生涯死亡リスク」がある。

【EUNNGLに(健康影響を防止するための夜間騒音ガイドライン)ついて】

○ WHO 欧州事務局は、騒音と、虚血性心疾患や高血圧などとの、関係を見る疫学調査結果に基づき、健康影響を防止するための“夜間騒音ガイドライン”を制定した。

○ガイドライン値は “Lnight 40dB”、暫定値“ Lnight 55dB”である。暫定値は 、Lnight 40dB を、ただちに達成できない地域に、政策的事由により適用されるが、高感受性群(*乳幼児・病人など)の健康は保護できないとされている。

○ Lnight は睡眠妨害の評価には適していない。航空機騒音や大型自動車の騒音などの単発的な騒音を過小評価する傾向がある。

○なお、EUNNGL では、昼間の騒音による心理的ストレスが、様々なストレス疾患を生じる可能性がある、としている。

○軍事基地や騒音発生頻度が高い地域において、昼間の騒音が個人にとって、大きなストレッサーになるのであれば、ストレス疾患が生じると考えられる。

【航空機騒音の環境基準の問題点】

○2013年4月に新たな「航空機騒音に係わる環境基準」が施行されるが、これは、現行の環境基準を Lden に変換したに過ぎない。

○ WHO は、 Lden など日平均の騒音指標は、「住民の睡眠を保護するものではない」ことを1999年のガイドラインで既に述べている。

○新たな環境基準では、屋外で95dBの騒音が毎晩10秒間発生したとしても、環境基準以下となるが、これでは、毎晩のように中途覚醒が生じる可能性がある。

○現在の環境基準値は、「公衆衛生的観点から望ましい」とされる値の達成が、「当時の技術的観点からは難しい」として緩和された。

○しかし、現在の航空機騒音は技術進歩により、大幅に低下しているのに、新環境基準で、現行基準を継承したことは理解に苦しむ。

【おわりに】

○騒音による睡眠妨害は、その頻度によっては「睡眠障害」と診断される「疾患」である。
 これは、騒音が「公害病」の原因となり得ることを意味する。そのリスクは決して、無視できるような水準ではない。

○睡眠障害と虚血性心疾患など各種疾患との間に因果関係があることも公知の事実である。

○これまで放置されてきた高い健康リスクに対して、住民の健康を保護するための、適切な環境基準の制定が早急に望まれる。

以上。

(注)*は要約者追加分。

   2013年4月施行の環境基準値は“第1種地域で Lden 57dB、第2種地域で Lden 62dB


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