12月24日の成田空港軍事利用問題についての NAA 要請書と回答要旨


成田国際空港株式会社代表取締役社長 夏目 誠 様

         2015年12月24日  三里塚平和塔奉賛会
                    成田空港から郷土と暮らしを守る会

成田空港を軍事利用しないための要請について

 三里塚平和塔奉賛会は、千葉県土地収用委員会会長の斡旋を受け入れて、千葉県知事と交渉をつづけてきた結果、当時の運輸大臣、千葉県知事、東京国際空港公団総裁と、1972年(昭和47年)4月15日に「取極書」をとりかわし、その第3条で、4点の事項を約束するとしました。

(1) 新東京国際空港(当時)は純然たる民間空港であり、安保条約およびこれに基づく地位協定の存在にもかかわらず、これを軍事的に利用することは絶対に認めない。

(2) 新東京国際空港の騒音対策については、各種対策に努力する。

(3) 周辺農民に対して現在用地買収未済の地主およびやむをえず集団移転を余儀なくされる地主に対して、その個々の要望を聞きその移転補償問題の解決に誠意をもって対処する。

(4) 第二項、第三項の細目については、要望する主眼点について十分な政策再検討を加え、関係諸団体との間に別途協議する。

 そして、第4条で、「本約定に関し、特に定めなき事項があったとき、または、疑義を生じたときは、別に協議する」、となっています。

 貴社の前身である新東京国際空港公団総裁の今井榮文氏も、日本山妙法寺山主 藤井日達氏への親書(資料1)で、「取極書」の遵守を真摯に約束しています。

 また、1972年9月20日に「成田空港から郷土とくらしを守る会」と新東京国際空港公団総裁の今井榮文氏との間で結ばれた「航空公害に関する交渉覚書」でも、「新空港は、純然たる民間航空のためのものであり、軍事利用させることはない。」と約束しています。
 しかるに、9月19日に強行採択された安保関連法の審議のなかで、「取極書」に反すると思われる事態が明らかになっています。そこで以下の点について要請し、質問いたします。

 「取極書」「交渉覚書」の約定をまもるために、貴社としてどのように努力されているか、具体的に明らかにしてください。

1. 成田空港の軍事利用とは、民間機で武器弾薬等の物資を運ぶこと、自衛隊員を輸送することなどは、これに該当すると思いますが、貴社の考えをお聞かせ下さい。

【回答】取極書は重いものとして受け止めている。社内でも確認している。国や県も機会があれば確認している。国にもご理解をいただいている。従って、自衛隊の活動についても適切な運用が行われている、と認識している。

2. 日本共産党の辰巳孝太郎参議院議員の8月26日の参議院平和安全法政特別委員会での質問で、2004年から2006年までのいわゆるイラク復興支援活動に於いて「武器弾薬なども民間航空会社が運んだということでよろしいですね」との質問に対し、中谷防衛大臣は、「民間の航空会社と契約をして運んだ」と答えています。(資料2)さらに、9月10日の参議院内閣委員会での同参議院議員の質問で「成田空港から武器弾薬を運んだのですね」との質問に対し、「資料が破棄されているので分からない」と肯定も否定もしませんでした。(資料3)また、情報公開による当時の防衛庁提出の契約記録によりますと、成田空港を使った輸送が複数回あったことが確認されています。(資料4)以上の事実を踏まえ、「成田空港から武器弾薬等を輸送していない」という根拠を示してください。

【回答】自衛隊がイラク復興支援の時に使われた、との資料をいただいたが、これについては我々はコメントする立場にはない。そのような利用があった、と言う事については私たちは承知していなかった。

3. 「軍事的利用することを認めない」という約定に反する状況が生まれております。
「取極書」の約定事項の第4条に基づいて、4者による協議の場を設定してください。

【回答】「取極書に疑義がある」とのことだが、私どもとしては「適切に運用されている」と認識しているので、約束に違反しているとは考えていない。
成田空港建設時の経緯については重々承知している。取極書に違反していることはないとして、今後も成田空港の安全な運用に尽くしていきたいと考えている。


質疑・応答の概要

( NAA 側の回答は「共生・用地部門 地域共生部次長 関口 順一 氏」が行いました)

岩田(成田空港から郷土とくらしを守る会事務局長)
 
端的に聞きますが、「資料4」の資料についてはご存じでしたか。

関口
 
資料をもらう前には知らなかった。このような契約があったことは初めて知ったが、積荷が何であったかは分からないが、「契約があったから軍事利用があった」と言うこととは結びつかないのではないか。国では「そういったものではない」と言っている。

岩田
「そういったものでない」の「そういったもの」とはどんなものなのか。

関口
 「軍事的な物資ではない」と理解している。

岩田
 軍事的輸送というのは「武器弾薬」だけではない。「食料や衣料品も戦争に必要なもの」と言うのが常識だ。そう言う点からは今回の明らかになった輸送は「軍事的利用にあたる」のではないか。

関口
 今回は「イラク復興支援」に行った、と言う事なので、戦争に行ったわけではない、と理解している。

斉藤(共産党衆議院議員)
 このような金額の荷物だが、資料4からは一部、日本通運と契約したことが分かるが、 NAA として中身が何であるかは分からないのか。

関口
 私たちは空港管理者で、貨物の中身までは分からない。

斉藤
 申請段階で野菜だとかと言う、大まかな中身も航空会社任せで全く分からないのか。

関口
 それは航空会社と運送会社との契約なので、 NAA としてはわからない。荷物だけではなく乗客についても航空会社が管理している。犯罪者の場合には警察からの通知はあると思うが。

斉藤
  NAA として航空会社に対して、「成田空港には『軍事的利用は行わない』という約束がある」と言う点での周知徹底はやっているのか。

(関口氏と三邊氏が小声で話し合う)

関口
 銃器の持ち込みなどでの申請はあるが、武器弾薬の輸送などではなかった。

斉藤
 その申請は輸送業者からあるのか、航空会社からあるのか。

関口
 航空会社から申請されることになっている。

斉藤
 その申請は(武器弾薬など)過去に申請されたことはあるのか。

関口
 射撃競技関係で申請が上がって来たことはある、と聞いている。

岩田

 IATAの規定では民間機で武器・弾薬などは輸送できないことになっているはず。しかし、国会答弁で中谷防衛大臣は、成田空港からかどうかはっきりしないが、「武器・弾薬も運んでいる」と答弁している。このようなことがあっても NAA では「一切分からない」と言う事か。

関口
 申請が上がってくれば分かる。成田空港からかどうかは防衛省でも「確定的なことは分からない」と言っている、と聞いている。

岩田
 名古屋高裁のイラク復興支援についての損害賠償判決では損害賠償については敗訴になっているが、イラク復興支援については、「米軍人や物資を航空自衛隊機でピストン輸送していた。戦争の常識から言えばこれは軍事行為であり、明らかに憲法に違反している」と断定している。とすれば、この成田空港を使った輸送契約自体が取極書で言っている「軍事的利用は一切しない」とする約束に違反しているではないか。

関口
 契約内容自体が分からないので、イラク復興支援の高裁判決に該当するかどうかも分からない。

岩田
 契約内容云々ではない。名古屋高裁判決で「イラク復興支援自体が戦闘行為で憲法違反だ」判断していているのだから、成田空港からイラクに物資を運ぶこと自体が軍事的利用であることは明白だ。また、武器・弾薬が運ばれているとすれば、この航空機が成田空港または、周辺に墜落した場合に大惨事になりかねない。他にも、放射性アイソトープとかリチウムイオン電池とかの危険物が搭載されていることも、 NAA では一切つかめない、と言う事か。それで、成田空港自体と周辺地域の安全が確保できるのか。

関口
 規定があるのであれば、航空会社がそれにのっとって、やられている、と思う。

高橋(弁護士 取極書の原案作成にかかわる)
 今回問題なのは、輸送がチャーター便と言う事だ、取極書作成にかかわった者として言うと、MACチャーター便の条項を入れたのは当時行われていたベトナム戦争でのMACチャーター便の羽田空港における運航状況を見ていたことからだ。資料4の中で平成16年8月15日の契約を見ると、陸上自衛隊がクエートに「装備品等」を輸送する契約をしている。中谷防衛大臣は武器・弾薬の輸送を否定できなかった。この契約の「等」の中に武器・弾薬が入っている可能性が否定できない。イラク復興支援とは言うけれど、その中には治安維持活動も入っている。名古屋高裁判決ではこれらの活動を軍事行為と明確に指摘している。クエートへの米軍人輸送の場合は護衛に米軍の戦闘機が付き添っていた。それなのに、一切チェックすることもない、と言うのは取極書を結んだ当事者の一人として無責任なのではないか。名古屋高裁判決も短いものだから、是非読んで欲しい。今回、このようなことをチェックできなかったのはどうしてか、と考えて欲しい。

関口
  NAA には空港管理規定がある。この中で、○○(聞き取れず)を飛ぶ場合は NAA の承認がなければ飛行できないと言うことになっている。今、社内で体制を整えているところです。取極書の遵守については従前から変わっていない。今回の資料については初めて見るものですので、中身については承知していない。名古屋高裁判決については初めて聞くところですので、申し訳ないが、私の認識としてはイラク復興支援というのは軍事利用ではないの国会答弁があると聞いている。

岩田
 行き先がクエートだ、と言う事でチェックは出来ないのか。

高橋
 申請が来たからではなく、チェックできるのではないか。

関口
 対象物が爆発物等でなければ、チェックできない。

高橋
 それでは「装備品等」と書いてあれば、チェックできない、と言う事になる。

関口
 中身が何かは質すことはしない。国の方でも、取極書に基づいたチェックはしているのではないか。

高橋
 国がチェックしているとは聞いていない。

斉藤
 空港管理規定を見ると第6条に「会社の承認を受けるもの」として銃火器が上げられているが、2項に「公用者がその業務を行う場合を除く」と書かれている。これは、どういう事なのか。

関口
 警察とかが、警備のために銃などを携帯するような場合です。

川副(共産党千葉県委員会副委員長)
 国の審議で、成田空港から運んだ可能性は否定できないが、銃火器が運ばれたことは確かだ。

関口
 私は国の審議については申し上げられない。

川副
 取極書があるのだから、イラクのような場合に確かめる度量は NAA にはないのか。ロシアの旅客機がテロで爆破されるような、事態になっている。戦争法が出来てアメリカに言われれば、自衛隊が行く。このような時に、成田空港や周辺住民や旅客の安全を確保する義務がある NAA として確認する必要があるのではないか。それが、取極書を取り交わした NAA の責任でもある。

関口
 弊社にもそのような要請が来た、と言う事は国にも伝える。

矢向(日本山妙法寺三里塚平和塔)
 三里塚の人たちは建設当時に国にだまされている。そのような地元住民の気持ちを考えたら、 NAA が国の言うことを一方的に信じチェックもしないのは約束に反するのではないか。そうしないと空港で働くあなた方自身の安全をも脅かすことになるのではないか。

高橋
 国としては、他の空港からも運んでいるから、「成田空港は特別です」とは言えない。だから、あのような答弁にならざるを得ない。だからこそ、 NAA がチェックすることが、取極書の約束を守ることになると考える。

関口
 国の方で「軍事的利用はしていない」と言っている以上、私たちの方で確認する、と言うのは難しい。私たちは建設の経緯は十分承知している。今回このような要請があった、と言う事を国の方にも伝えたい。

高橋
 今回の話しで NAA がチェックできないと言うことがはっきりした。だからこそ、規定の改定も含めてしっかりと議論し対応してもらわないとならない。このような問題があるから、要請3つめの4者による協議が必要、と言っている。それを開くことが地元に対する最低限の義務ではないか。

関口
 その点も、国には良く伝える。

岩田
  NAA が「軍事利用には当たらない」とする根拠は何か。

関口
 国において、「イラク復興支援は軍事行動ではない。だから、約束には違反しない。」と言っていることと、国においても取極書の内容は十分理解していることから、 NAA としても軍事利用はなかった、と判断している。

岩田
 では、今後、このようなチャーター便が飛んだ場合に、 NAA としてはどのような対応をとるのか。具体的にはチェックをするのかしないのか。また、軍事利用なら、チャーター便の運航を断ることをするのか、しないのか、と言う事だ。

関口
  NAA としては管理規定で体制は出来ている、と考えている。その中で、まさに、「軍事的」と判断されるものがあれば、断ることもある、と考えている。

岩田
 それは、 NAA が主導的にやるのですか。または、どこからか、その事実が明らかになった場合はそうします、といういことなのか。しかし、それでは取極書の締結者の一人として不十分なのではないか。

武田(日本山妙法寺 旧三里塚平和塔在住)
 当時に日本山の藤井山主は今井総裁からの「軍事利用は絶対に行いません」との親書を受けて、平和塔の遷座を決断された。その「平和的に利用する」という原点にたち帰って考えていただきたい。

岩田
 今までの NAA が出している文書を見ると、取極書とか交渉覚書について載せたものが一切ない。これはおかしいのではないか。円卓会議などについてはかなりのボリュームで載せている。しかし、この平和塔の遷座や、非暴力で反対してきた我々については全く触れていない。来年、 NAA では「成田空港50年誌」を作成すると聞いているが、これには取極書とか交渉覚書について載せていただきたい。平和塔遷座の交渉がなければ、成田空港の建設は1年や2年遅れていたはずだ。「50年誌」には客観的事実を掲載していただきたい。
 また、取極書4条の意味は読めば分かりますが、4者の内、1者でも疑義が生じた場合は再度話し合う、と言う条文になっている。我々はこのままでは成田空港の平和利用が危うくなる、と言う疑義を持っている。だから、再度の協議を要求している。直ちに、協議の場を開いてもらいたい。

高橋
 イラク復興支援をめぐる問題だけの疑義ではない。安保法制が成立して、ガイドラインでは民間空港の軍事利用が堂々と掲げられている。この中で、成田空港の平和利用を続けることが今後難しくなる可能性もある。この情勢の中で、お互い話し合うことが大事ではないか、との意味もある。責任を追及しているだけではなく、このような情勢の中で、将来のことについても、お互い考えましょう、と言う事だ。

関口
 我々は取極書は今後も遵守していく考えである。

鵜澤(成田空港から郷土とくらしを守る会副会長、成田市議)
 4条の読み方はどうなのか。我々は疑義を持っている。

関口
 我々は疑義があるとは考えていない。だから、今回の場も設けている。

高橋
 私たちは NAA の中でも、この問題について検討して下さい、と言っている。「だから、今回の場も設けている」と言うだけでは、お終いではないか。

岩田
 この要請書については社長も見て、答弁についても決済を受けているのですね。

関口
 
受けています。

岩田
  NAA でも真剣に話し合ってもらいたい。

以上


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