成田空港の更なる機能強化 計画段階環境配慮書に対する私の意見書


(1) 需要予測について

 8ページの図2.3-2「国際線旅客数統計」を見ても、成田空港の国際線旅客数は2010年は約2512万人、2011年は約2161万人、2012年は約2394万人、2013年は2518万人、2014年は2414万人など、それほど伸びていない。2015年は約2600万人となっているが、これは、中国人観光客の激増など一時的なもので、成田空港国際線旅客数がこの勢いで伸び続けるとは考えられない。

 9ページの需要予測の「下位ケース」にも及ばない可能性が強い。しかしながら、この「計画段階環境配慮書」では、予測の「上位ケース」を元に書かれている。これはおかしい。

 また、2020年のオリンピックまでには、羽田空港国際線がさらに4万回増になる事になっている。数年前から実施された羽田空港D滑走路供用開始による羽田空港国際線の増便で、成田空港の国際路線が羽田空港に移転するなどの大きな影響があった。オリンピックまでの更なる4万回増でも、少なからぬ影響が見込まれる。これも全く考慮に入れていない。

 都合の良い数字を並べていては、予測を誤り、ただ単に、周辺住民への騒音被害を拡大する恐れがある。

 また、今でも先進国で最も厳しい言われる、国の借金をさらに増やす事になる。

 第3滑走路建設は少なくても、現在検討すべき問題ではない。

(2) 「シンポジューム」は一部住民の意見しか反映していない

 3ページで「シンポジューム」をもって、「地域の理解を得ながら、順次施設の増強や年間発着枠の上限が引き上げられてきたところである。」としているが、これは誤りである。

 シンポジュームに参加したのは賛成派住民と、反対同盟旧熱田派の中でも一部派閥だけである。

 周辺住民のほとんどは、参加していないし、関与もしてこなかった。

 また、「年間発着回数24万回増」の時も「同30万回増」の時も、関係する騒音地区住民の多くは、地域の説明会などで反対の意見を表明したが、これを一切無視して「四者協議会」が勝手に決めたものであり、「地域の理解を得ながら」とは全く言えないものであった。

 今回の第3滑走路建設についても、現在までの経過を見れば、直接の利害関係者である一般住民の意見を聞くこともなく進めており、「30万回」の時よりも非民主的な、官僚行政と成田国際空港株式会社(NAA)と航空会社を始めとする企業のごり押しである。

(3)建設区域や騒音区域を何故ぼかしているのか

 20ページでは今回の計画についての周辺図が載っている。しかし、強い影響が及ぶ地域をピンクの網掛けで表しているだけで、空港から離れた地域は「関係はない」とばかりに、全く除外されている。

 滑走路の建設場所も薄い黒の網掛けである。「場所が確定していない」と言うのかも知れないが、故意にぼかしているとしか思えない。

 新たに空港内地域に入るかも知れない人にとっては、「2-1案」か「2案」かは大問題であり、案ごとの影響を明らかにしなければ、是非を考えようもない。

 また、新たな騒音が発生する地域、既存の騒音が増大する地域の人たちにとっても、これでは、判断をする事が出来ない。

 影響の出る地域を故意に「ぼかす」ためのものとしか思えない。確かに、厳密なコンターなどは無理かも知れないが、「『2-1案』の場合はこうなる。『2案』の場合はこうなる」と言う、ある程度詳しい説明が必要ではないか。

 例えば、「空港敷地内になるのは、滑走路端から南北約何m、横は滑走路の中央線から約何mになる」とか、「移転や、民家防音工事が必要となるのは、おおよそこの地域」などは必要事項である。

 騒音についても「滑走路端から何Kmでは何dBひどくなる」などの説明があって当然と考える。

 117ページからの「動物相」については膨大なページを割いて記述している。例えば「オオタカ」について「案1-2」「案2」と分けて具体的に生息状況や営巣場所を記述している。

 むろん「オオタカ」の生息も大事なのだが、成田空港周辺の住民は「オオタカにも劣る」と言いたいのだろうか。

(4) 夜間飛行制限(カーフュー)の緩和について

 11ページには、大事な問題であるにもかかわらず「夜間飛行制限の緩和については、環境対策と併せ慎重に検討していく。」とのみ記述されている。

 騒音問題が原因で大きな事件が多発している昨今、騒音下住民に非人間的な「カーフュー弾力的運用」の更なる緩和を押しつけようとする試みは、大きな人権問題でもある。

 もし、「影響は少ない」として、これを実施しようとするならば、ヨーロッパにおいて、数百万人単位で実施された、疫学調査結果などに基づいて2009年に発表された「欧州WHO:夜間騒音ガイドライン」や、2011年に発表された「欧州WHO:環境騒音による疾病負荷」の調査結果などを否定する、「住民への健康には全く問題ない」とする、疫学的な知見を周辺住民に示すべきである。

(5)建設費用が1000〜1200億円は意図的過小評価だ

 17ページで両案共に、建設費用を1000〜1200億円としているが、これは、どう見ても過小評価である。混雑時間帯対策でオリンピックまでに整備する予定の高速離脱誘導路でも約500億円かかると言われている。

 これには土地や建物の買収費、移転費用などが入っていない。それでも、500億円近くもかかっている。

 また、第3滑走路が完成したとして、発着回数や旅客が増えれば、駐機場や旅客をさばくターミナル施設が、当然必要となる。新ターミナルを作ることになれば、アクセス手段も必要となる。

 これらを考えた場合に、第3滑走路建設と、それに付帯する施設の工事で、2000〜3000億円近くの資金が必要と考えられる。

 需要予測がはずれれば、これは、成田国際空港株式会社(NAA)の財務体制を弱体化し、結局は、国民の税金を使うことになる。

(6) 現在、出来ることをやることが先ではないか

 現在やるべき事は第3滑走路建設ではなく、先にも書いた、混雑時間帯の発着回数を増やす「高速離脱誘導路」の早期完成や、現在のA滑走路63%、・B滑走路37%と言う使用頻度アンバランスを解消して、成田空港の持っている可能性を十分に引き出す事である。

(7) 結論

  以上のことから、現時点での第3滑走路の建設には反対である。

 今やるべき事は、航空機騒音に40年近くもさらされてきた住民や地域に、制度改正も含めた抜本的な対策を行う事と考える。


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