「成田空港容量拡大」に関する本会の声明
声 明
容量拡大議論の前に、騒音下住民への
科学的な健康調査と被害住民への補償制度の創設を
2008年6月
成田空港から郷土とくらしを守る会
「成田国際空港都市づくり推進会議」は成田国際空港株式会社に強く要請して「成田空港の発着回数の可能性について」の説明を3月下旬に受けました。
説明の中で、会社側は「色々な条件を整備すれば、年間発着回数は30万回が可能」との試算を示しました。
これを受けて、「成田国際空港都市づくり推進会議」は5月30日に「(仮称)成田国際空港都市づくり九市町プラン」の基本構想を取りまとめました。
当初、会社は「可能性を示したもの」としていましたが、その後、「早期に実現すべき課題」(5月30日副社長記者会見)と方向転換しています。
会社側は「諸条件」の中で、「発着回数の増加による、騒音の増加に対する対策」が必要としていますが、具体的なものは示さず、現行の法令に基づく対策で済むものと考えているようです。
しかし、現行の「騒音対策」は40年近く前に制定された「公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律」(騒防法)と30年前に制定された「特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法」(騒特法)に基づくもので、最近の科学的な調査に基づいたものではありません。
ヨーロッパの欧州委員会では5年の歳月をかけて、空港周辺の住民に航空機騒音がどのような影響を与えているか科学的に調査し、その結果を最近まとめた、と報道されました。
この調査によりますと、「空港周辺住民がいろいろな病気に罹る原因になりかねない高血圧症にかかる率は、騒音の影響を受けない地域の住民に比べて50%も高くなっている」とのことです。
高血圧症は日本人の死亡原因2位の心疾患、3位の脳血管疾患に深く関わっているとされています。
さらに、100人以上の住民に就寝中、測定計器を着けてもらって行った調査では、航空機騒音で部屋の音が10デシベル高くなると、平均で血圧が13%上昇する、との結果も出ています。
このため、ヨーロッパでは航空機騒音の基準に「エネルギー平均(Ldenなど)だけでなく、夜間の単発騒音に対する基準(LAmaxなど)を考えるべき。」との意見がさらに多くなってきています。
本会は2006年5月に発表した「航空機騒音の環境基準と規制に関する提言」の中で同様の提案を行っています。
しかるに、日本では昨年、約40年ぶりとなる航空機騒音に関する環境基準の改定が行われ、騒音評価方式がWECPNLからLdenになりました。これにより、逆転現象は解消されることになりましたが、環境基準値そのものは「現行基準の達成が先決」「騒音対策の継続性を考慮」とし、現在の環境基準値と“同等”のものとされました。このため、諸対策も「現行のまま」となり、環境基準の改定が「騒音対策の充実につながるのでは」と言う騒音下住民の期待は裏切られました。
今行われている、国や経済界や地方自治体あげての「成田空港の容量拡大」議論の前に、まず、ヨーロッパで行われたような科学的・疫学的な調査を、30年間騒音被害にさらされ、今後も、さらされ続ける成田空港周辺の住民に行うことが先決です。
その結果に基づいて「どのくらいの騒音ならば住民への影響が許容されるのか」、「どのような基準・対策が必要なのか」を慎重に見極めた上で、騒音下住民への十分な説明の上に議論されねばなりません。
しかるに、現在の議論は「経済の効率化・グローバル化」とそれに付随する「地域の発展」を理由とした、「発着回数の増加」が先行しています。
報道によりますと「成田国際空港都市づくり推進会議」は「騒音問題などマイナス面は推進会議から切り離して、国、県、地元市町、会社との四者協議会で話し合う」とのことです。しかし、騒音対策を切り離した「都市づくり」は砂上の楼閣づくりです。
自治体には、住民の健康と良好な環境を守る責務があります。騒音地域を抱える周辺自治体は、容量拡大議論の前に、次の3項目を優先して解決すべきです。
(1) 騒音地域住民に対する、先に述べたような科学的で疫学的な調査を国と成田国際空港株式会社に要求し、早期に実現すること。
(2) 現在までに国や成田国際空港株式会社(旧空港公団時代も含めて)と積み上げてきた約束(共生大綱締結時の約束や空港公団民営化時の四者協議の約束など)の誠実で早期の履行を迫ること。
(3) 各地の航空機騒音裁判判決で「国の怠慢」、「法治国家としては異常な事態」と指摘されている、「騒音被害住民が裁判を起こさなければ、損害賠償が受けられない」という現状を打開するため、航空機騒音被害者に対する補償制度の創設を国に強く働きかけること。
以上