10月9日の運輸省交渉報告

成田空港から郷土とくらしを守る会

1998年10月9日午後2時より3時15分  於;運輸省

出席者;運輸省側4名;本会側6名

[今回の運輸省との話し合いは共産党の志位和夫事務所に仲介の労をお願いして実現しました。この報告は要旨を岩田のメモと録音で起こし、できるだけ正確を期していますが、文責は岩田にあります。尚、運輸省の答弁は4名の方が行っていますが、過激派ゲリラへの対策の為に、全て“運輸省”としています。この話し合いについての分析は後日役員会で行う予定です。]

本会の「共生大綱に対する提言」についての運輸省の考え

提言1、今回の共生大綱をたたき台にして、十分な時間をかけ、住民の意向を反映する共生大綱にする。

「この共生大綱は地域の皆様からいただいている色々なご意見に基づいてまとめた素案です。今後ともご意見、御指摘をいただいて、共通の考え方になるようにして行きたい。そのために飛行コースも含めて説明をして行き早期にご理解、ご協力を得られるように努力したい。」

提言2、そのために、住民への説明会をできるだけきめ細かく行う。

 「この共生大綱については各市町村、騒音対策委員会、区長会などに説明をしてきている。さらに、『くうこうだより』でも概要を説明し、ご意見、御要望を出してくれるようにお願いしている。今後とも、説明していくようにしたい。」

提言3、「成田空港の軍事利用はしない」ことをあらためて明記する。

 「いま、成田空港をめぐる厳しい情勢の中で、全力で取り組んでいるところである。共生大綱で成田空港の今後のあるべき姿を提言させていただいたところである。軍事利用については歴代大臣の答弁の重みを踏まえて慎重に検討していかなければいけないと認識している。」

提言4、騒音の環境基準を達成することを目標として明記する。環境基準が達成できない場合は70WECPNL以上の地域に民家防音などの対策を行う。

 「成田空港においては騒音軽減のため低騒音機の比率を高めたり、発着時間の制限などの発生源対策、緩衝緑地帯の設置などの対策をとってきている。しかし、現時点では騒音にかかる環境基準の達成は困難である。そこで、騒防法に基づいて室内において環境基準が達成されたと同程度の対策を実施してきた。それに加えて、騒音区域外にも成田空港独自に共生財団を通して民家防音対策を実施している。さらに、市町村が独自で行っている2本の滑走路に挟まれた、いわゆる、谷間地域に対する騒音対策にも協力している。今後とも騒音対策には引き続き努力していきたい。」

提言5、横風用滑走路については、平行滑走路が完成した後でその必要性も含めて住民と検討する。

 「横風用滑走路については円卓会議において、平行滑走路の完成した時点で話し合うことで合意している。ただ、横風用滑走路を両滑走路を結ぶ地上用通路として使用することについては横風用滑走路問題とは別個の問題とすることで円卓会議で合意していることについてはご承知のことと思う。」

提言6、地域の振興策については自治体任せにせず、運輸省が責任をもって実施・点検する。

 「地域との共生につきましては空港と一体のものとして考えていますが、地域の振興については地方自治の本旨に基づいてあくまでも自治体が主体的に行うものとして理解している。が、運輸省としても空港周辺の公共施設の整備を行う成田財特法の延長や、空港周辺の騒音地域の整備を計画的に行う騒特法の早期実施などを県にお願いするなど努力していきたい。」

提言7、新飛行コース設定の根拠となった諸データーを直ちに公表する。

 「新飛行コースについては今配った(運輸省が8月に出した『平行滑走路供用開始後の標準飛行コースについて』)資料に基づいて各市町村に説明しているところです。今後も早期にご理解・ご協力が得られるように努力したい。」

提言8、飛行コースの幅はできるだけ狭いものとし、騒音地域を拡大しないようにする。

 「飛行コースの遵守は円卓会議の合意事項でもあるし、大変重要な問題と認識している。そのため、空港公団では測量機器などを使って年4回測定している。今年の3月から通年で毎日の航跡図を翌日公開している。望ましい航跡の範囲を決めるために飛行コースの幅を監視していくことを来年早々にも実施して行くつもりである。これで、飛行コースの更なる遵守をはかっていくつもりである。具体的には直進上昇・直進降下部分については設定されている騒音区域をはみ出ないように幅を設定した。」

提言9、飛行コースの常時監視システムを設置し、正当な理由なく、飛行コースと高度を大幅に逸脱した航空機に対しては制裁処置をとる。

 「8で述べたような色々な対策をとっていくが、このような対策はわが国で初めてのものであり、いきなり、制裁措置を実施するというのは適当ではないと思う。」

提言10、九十九里浜の待機空域は10Km沖合いに移動する。

 「蓮沼付近の待機空域はコスモと呼ばれているが、これは北風の時に使用される。これは恒常的に使用されるものではなく、滑走路の閉鎖など緊急時に使用される待機空域である。このコスモの沖合いにビーナスと呼ばれる待機空域があるために、コスモを沖合いに移すことは難しい。コスモは緊急時に使用されるものであり、陸上にかかる部分は僅かであるから、騒音の影響も少ないと考えている。」

提言11、安全運航のために、成田空域を拡大するか、総便数を計画よりも削減する。

 「総便数は年間20万回で設定している。これで、今後の航空需要にも対応できるものとなっている。空域については周辺に羽田と百里の空域があり、それぞれに航空需要があるので削減は難しい。今回の計画は十分に安全を確保できるものとして作成したもので、これで十分と考える。」

提言12、環境のリアルデーターが簡単に安く誰でもが入手できるような対策を取る。

 「空港公団ではこれまでも空港内外の4カ所で情報公開を行っている。今年4月からは空港公団のインターネットのホームページで公開している。また、昨年4月から航空機騒音モニターシステムを設置してリアルタイムの測定結果、また、今年の3月からは航空機の航跡図を翌日になるが公開している。今年4月からは大気質常時監視システムを設置してリアルタイムで公開している。これらを先ほどの4カ所に設置しているパソコンの画面で自由に見られるようにしている。」

質疑応答

萩原会員;「『共生大綱はあくまでも素案だとのことで、これから住民の意見を取り入れて練り上げていく。』と言うことで良いのか。」

運輸省;「いや、そういうことではなくて、我々はこの共生大綱を地域のみなさんの意見も入れながら練り上げたものであるから、素案と言うようないいかげんなものではない。しかし、さらに地域のみなさんの考えを聞いて行きたいと言うことだ。」

鵜澤会員;「標準飛行コースについてだが、9月10日頃に新聞報道にあったが、利根川から九十九里までに幅が設定されたととのことであるが、これから先の部分の飛行コース幅はどうなるのか。佐原市では「従来と同じ14Kmだ。」と説明されたそうだが、高度が高ければ騒音もそれ程でもないが、約束の6000フィートを下回る違反機が2から3割ある現状では納得できないと言っている。また、利根川上空で幅が2.5Kmと言うのでは下総町にとって被害が深刻になる。東の谷間対策地域の上空も飛ぶことになり、西では全く民家防音対策が取られていない地域も飛ぶことになる。今の実態からいうと、真っ直ぐ飛んでいない航空機の8割がこの2.5Kmの幅に入って『違反していない』ことになってしまう。2.5Kmの幅はもっと狭めて欲しい。」

岩田会員;「関連だが、九十九里浜で幅が4.5Kmとのことだが、これでは、平行滑走路が供用開始になった場合、両滑走路の間隔が2.5Kmしかないのだから、両滑走路の飛行コースが九十九里浜では交錯することになるが安全上問題はないのか。また、九十九里の待機空域の問題(9月7日の出来事を参照)ですが、先ほどの説明は実態が分かってないと思います。『あの待機空域は緊急時の為のもので、恒常的ではない。』と言うが、私も住んでいたが、ほぼ、毎日のことだった。毎朝6時前に、数機の飛行機が陸上にかかって旋回していた。騒音対策委員会でも2回取り上げ、お願いした。空港公団には様子を撮影したビデオを提出してお願いした。『たまにだ。』と言うのはとんでもない認識不足だ。もう一つ、先ほどの説明書は手に入れて読みました。そこで、面的運用について聞きたい。特に、北の着陸コースで『降下率8%を確保するためにレイクスポイントを東に移した。』とのことですが、面的運用のコース線が南にも引かれている。これでは早周りになって降下率が8%以上になることは素人が考えても分かる。これはどうしてか。面的運用とは何なのか。」

運輸省;「飛行コースの幅を設定したと言っても、その飛行コースのどこを飛んでも良い、と言うものではない。基本はあくまでも中心線を飛ぶことにある。航空会社などにもそのように指導していきたい。佐原市上空の幅14Kmと言うのは、航空機の安全を確保するための定められた幅であり、VORの無線標識では片側4マイル、両側8マイルで14Kmと言うことになる。これは昔から変わっていない。だから、騒音対策上の幅ではない。だから『14Kmだからその中を自由に飛んでも良い。』と言うものではなく、あくまでも線上を目指して飛ぶべきものである。それと、今回の幅の設定は安全上のものではなく、騒音対策上の対策の一つの試みである。平行滑走路が供用開始になっても両滑走路からの同時出発はできないと思う。だから、交互の出発で縦の間隔が確保され、それによって、横の間隔も確保できると考える。今回の設定は欧米の基準に較べても遜色のないものであると考えている。」

鵜澤会員;「住民感情からいうと、『対策もないのに、頭の上に飛んでくる。文句を言ったら、「いや、これは2.5Kmの範囲内だから良いのですよ。」と言われたのでは納得できない。』と言うことだ。だから、今回の幅は認めるわけにはいかない。もっと、狭い幅にして欲しい。」

運輸省;「コンターを引くときには中心線上をほとんどの飛行機が飛ぶが、ズレるものもどうしてもでてくる、と言うことも含めてシュミレーションをしている。今回の幅もそのズレのシュミレーションを考慮して設定しているので、騒音が広がることにはならない。」

鵜澤会員;「A滑走路の20年の実態が右旋回による東ズレなのだ。平行滑走路ができたら、もっと東ズレが激しくなるだろう。と言うのが住民の恐れなのだ。」

運輸省;「今までは、我々が『ズレている。』と言っても、パイロットは『ズレていない。』と言う。住民の方は『頭の上を飛んできた。』と言う。しかし、基準がないから水掛け論に終わってしまった。今回はこれをなくすための幅の設定なのだ。」

岩田会員;「住民としては『2.5Kmのぎりぎりを飛んでも違反にはならなくなるのだ。』と言う感じなのだ。ぎりぎりを飛んだら、『音はその直下だけではなくもっと外側に広がるではないか。それでも、運輸省は騒音はコンター内の値に収まるから良いではないか、と言うのか。』と言う怒りなのだ。」

運輸省;「騒音は線で計算しているものではなく、あくまでも、標準偏差で計算しています。コンターは余裕をもって計算されているもので、今回の幅の設定によって騒音がこのコンターを越えるものではありません。」

岩田会員;「それでは、佐原市のような利根川から九十九里浜以遠の地域の飛行コース幅はこれから設定すると言うことなのですか。」

運輸省;「直進上昇・直進降下部分のズレが是正されれば、その先の旋回部分のズレもずくなくなるという考え方で、今回設定した。これによりどの程度の飛行コースズレの是正になるかも見る必要がある。したがって、これよりも先の飛行コース幅の策定は今のところ考えていない。」

鵜澤会員;「今回の幅についてはいつから効力を発するのか。」

運輸省;「来年早々から監視をはじめると言うことです。」

岩田会員;「そうすると、ノータムなどによる航空会社への通知はいつになるのか。」

運輸省;「ノータムではないが航空情報(AIC)を8週間前に出さなければならないので、11月初旬にはやらなければいけない。」

岩田会員;「先ほど、『この共生大綱は住民の意見を十分に踏まえた上で作ったんだ。』と言う話がありましたが、今後どのように進めて行くつもりでしょうか。」

運輸省;「十分に取り入れた、とは言っていません。その時点で空港公団や運輸省によせられたご意見を参考にしながら作り上げたものだと申し上げたのです。だから、住民意見は十分に聞いたからこれで変えるつもりはない、と言うように取られたらそれは違います。今後も住民のみなさん方の意見を聞き、ご理解を得て早期に決定したい、と言うことです。」

岩田委員;「本会の“見解”にも書いておきましたが、円卓会議は元熱田派の一部の人と、空港を早期に完全なものとしたいと言う人とが運輸省などと開いたものだった。5年前にシンポジュウムが終わったときに運輸省に伺って話をしたときも、『このようなやり方では地元の人々の意見を反映することにはならない。もっと、公平に地元の人達を巻き込んだものにすべきだ。元熱田派に対する批判も出て当然だ。』と申し上げ、『もし、参加を呼びかけられれば、本会としても参加する用意はある。』と申し上げた。その時、応対した方も『そのような意見は出てきてどんどん述べて欲しい。』と言っていた。しかし、その後、何の音沙汰もなしに円卓会議になだれ込み、22項目の合意になった。このような22項目の合意事項に基づいてまとめられた今回の共生大綱をそのまま、成田空港の将来を決めかねない文書にすることを認めるわけにはいかない。地元の多くの人も『このまま自分達の意見が反映されずに決められてしまうのか。』と不安と不満をもっているのだ。」

鵜澤会員;「町を通して、住民が直接説明を聞きたいと運輸省に要請したら説明にきていただけるのでしょうか。」

運輸省;「まだそのような要望を受けたことはないので、自治体から空港公団に要望していただけば、その時点で検討したい。」

萩原会員;「平成6年の運輸省の文書に『共生を目指した空港づくりについて』と言う文書のなかで、『空港と空港周辺の将来のありかたについて、地域と十分に話し合い、共生についての基本的な考え方の趣旨に沿って地域の意見との調整を行わせていただき、地域との調整が整った段階で国の方針として決定する。』と書いているが今はどの段階なのだろうか。芝山町の状況は運輸省でも把握していると思うが、平行滑走路が供用開始されると町の大半が騒音下になる。町民の関心は高い。今年3月、町が実施したアンケートでも半数が『住みにくい。』とし、その理由として半数が『騒音がうるさい。』とし、4人に1人が『できれば町外に住みたい。』としている。これに基づいて議会でも今後共生大綱についてどのような扱いにしようかと議論をしている所だ。先日、空港対策特別委員会が開かれたが、各委員からの意見は出たが、『この際、谷間対策とは言わずに全町ほとんどが騒音地域になるのだから環境基準の70WECPNL地域について民間防音対策を町として要望したらどうか。』と言う意見が多かった。町長としても、『趣旨は十分分かっています。対策は原因者がとるのがすじです。』と答えている。芝山鉄道問題も今だに開通していない。開通時期を明示してもらいたい。これは町の今後の核になる。これらの問題を今後どうするか議会で議論して運輸省の方にも要望していくことになっている。このような住民の意見を共生大綱に反映していくことになるのかどうか聞きたい。」

運輸省;「繰り返しになるが、関係市町村のご意見を聞いて、それを反映させてまとめさせていただきたいと考えている。」

萩原会員;「『増便問題では運輸省の方々が何回もきてくれたのに、大事な指針となるべき共生大綱については来てくれないではないか。これはおかしい。』と言う意見が大分出ている。そこで、今、どの段階にきているのかを聞きたいのだ。」

運輸省;「今、市町村や議会とも意見交換をしている所で、議会や市町村当局の意見も十分聞いて意見を取りまとめて反映したいと思っているので、理解して欲しい。」

岩田会員;「我々としては、まだまだ聞きたい問題がたくさんある。今後も、時間があれば電話でも結構ですので、対応していただきたい。1時間の約束なので終にしたいと思います。」

以上がやり取りの概要です。

個人的な感想

1、何と行っても時間が足りなかった。したがって、疑問点を再度確かめる事ができなかったし、答弁を聞けない問題もあった。もっと時間を取って欲しい。忙しいのはわかるのだが大事な将来の指針だからこそじっくり腰をすえて欲しい。

2、『共生大綱』に対する住民の意見を取り上げるかどうかで答弁に揺れがあったように思う。『早く決めたい。』という気持ちが強いようだった。

3、円卓会議の22項目の合意を円卓会議に関係していない住民にまで押しつけようとする発言が何回かあった。

4、飛行コース問題では、飛行コースの現状がどうなっているかをつかんでいないように見受けられた。シュミレーションだけではなく、実態を把握して考えて欲しい。

5、軍事利用問題では相変わらず『約束は果たす。』という明解な答弁が聞けなかった。

交渉の検討

 今回の交渉の結果については近く役員会を開いて検討することになっています。